事業成果
次世代半導体の量産化実現へ
レーザー加工を100万倍高速化する新技術を開発2026年度更新
- 伊藤 佑介(東京大学 大学院工学系研究科 准教授)
- さきがけ
- 「未来材料」領域・「圧力・温度場の時空間的局在化によるメカノケミストリーの開拓」(2022-2025)
半導体のガラス基板を高速かつ精密に加工
伊藤佑介東京大学大学院工学系研究科准教授らの研究グループは、ガラスなど加工が難しい透明材料に対し、従来の100万倍という極めて高速で、かつ高精度な加工を可能にするレーザー技術を開発した。
レーザー光を精密に制御することで、材料の物性をピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)というごく短い時間だけ変化させ、必要な部分のみを瞬時に加工できることを示した。これにより、次世代半導体で求められているガラス基板への微細穴加工を、実用レベルの速度と精度で実現した(図1)。また、従来の方法と比べてレーザーの強度を大きく下げられるため、消費電力の削減や半導体製造装置の低価格化にも貢献できる。
図1 本技術で加工した半導体ガラス基板 高速かつ精密にガラス基板を加工できる。
次世代半導体で求められるガラス基板の加工
樹脂基板からガラス基板へ
スマートフォンや自動車などの電子機器には、半導体デバイスを実装するための基板が不可欠だ。従来は樹脂基板が広く使われてきたが、近年、より高性能な実装や高速通信への対応を目指してガラス基板の採用が進んでいる。
ガラス基板は、高い電気絶縁性を持ち、信号のクロストークやリーク電流を抑制できるため、隣接する回路間の干渉を低減できる。また、表面を非常に平坦に加工できることから、微細な配線を高精度で形成しやすいという利点がある。さらに、温度変化による寸法変化が少なく、精密構造を持つ半導体デバイスに適した材料である。
ガラス基板はレーザー加工が難しい
しかし、ガラスには欠点もある。硬い一方でもろく、衝撃や圧力に弱いため、加工中に割れや欠けが生じやすく、条件調整が難しいという課題がある。特に問題となるのが、基板を貫通する微細な穴(ビアホール)を開ける加工だ。
一般的なパッケージ基板では、深さが1ミリメートル以上、直径が100マイクロメートル以下という非常に細く深い穴を高密度に形成する必要がある。従来はエッチング技術で加工が試みられてきたが、工程の多さや環境負荷が課題となっていた。そこでレーザー加工が注目されているが、従来のレーザー加工技術では、1穴あたり十秒以上を要し、何万個もの穴を開ける場合、膨大な時間がかかり量産には不向きだった。このため、ガラス基板の実用化には、高速かつ高精度な加工技術の開発が不可欠である。
レーザー光の空間波形と時間波形の制御で超高速加工が可能に
研究グループは、レーザーの「空間波形」と「時間波形」を同時に制御する新しい加工法を開発し、深さ1ミリメートル、直径3マイクロメートルという非常に細く深い穴を、わずか20マイクロ秒(1マイクロ秒は100万分の1秒)で形成することに成功した(図2)。これは従来の加工速度の100万倍である。
図2 本技術で形成されたガラス基板の貫通穴 従来法では数十秒要する加工を本技術では20マイクロ秒で実現した。
空間波形の制御-ベッセルビーム
レーザーの空間波形は、ベッセルビームと呼ばれる特殊な形状が用いられた。空間波形とは、レーザー光を輪切りにして見たときの明るさの分布である。中心が強いのか、周りも均一に光っているのかといった光の広がり方を示す。ベッセルビームは、通常のレーザー光と異なり、中心に細く強い光を持ち、進んでも広がりにくい。また、障害物があっても光の形状を保つ性質がある。これらの特徴を利用し、レーザー光のエネルギーを細長い柱状に整形することで、ガラス基板の表面から裏面まで一直線に加工できるようにした。
時間波形の制御-2種類のレーザー光
時間波形とは、時間に応じてレーザー光をどのように変化させるかを示す。本研究ではピコ秒という極めて短時間の強い光と、マイクロ秒程度の弱い光を組み合わせた時間波形が用いられた。この2種類の光の照射によって、ガラス基板に一時的に自由電子と呼ばれる電子が生成され、通常は光を通すガラスが光を吸収する状態になった。吸収された光エネルギーは運動エネルギーとして蓄えられ、急激な温度上昇・蒸発が起こり、穴が形成される(図3)。
図3 レーザー照射のイメージ
消費電力を大きく削減
本手法では、従来のフェムト秒(フェムト秒は1000兆分の1秒)レーザー加工と比べて、大幅に低い光強度で同等以上の加工性能を達成している。フェムト秒レーザーとは、極短時間に高エネルギーを集中させるレーザーであり、装置が高価で消費電力も大きいという課題があった。今回の成果は、レーザー出力を上げるのではなく、レーザー光そのものを工夫することで超高速加工を実現した点に意義がある。また、加工時に生じやすい亀裂や形状の歪みといった破損がほとんど見られず、先端半導体に適した加工が可能であることも示された。
透明材料加工の基盤技術へ
本技術は、ガラスだけでなく、サファイア、炭化ケイ素、ダイヤモンドなど、他の透明材料の加工にも適用可能である。そのため、半導体産業にとどまらず幅広い分野へ応用できる可能性がある。さらに、材料の性質を「瞬間的に変えて加工する」という考え方は、製造業全体に新たな技術革命をもたらすことが期待される。
- キーワード
- ガラス基板、微細穴加工、ベッセルビーム
- 参考URL
- プレスリリース(2025年6月12日)
レーザー加工を従来比100万倍高速~半導体分野におけるガラスの微細加工に革新~
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20250612/
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