事業成果

人が身体、空間の制約から解放される

「遠隔対話ロボットで働く」3つの実証実験2022年度更新

写真:石黒 浩
石黒 浩(大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授)
ムーンショット型研究開発事業
ムーンショット目標1:2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」プロジェクトマネージャー(2020- )

遠隔対話ロボットがコロナ禍の課題解決に貢献

ショッピングセンターの店頭や飲食店の店内などで、ロボットを見かけるようになった。これらのロボットは、あらかじめ動きや会話がプログラミングされ、定型でのやり取りが主となる。これを人間が遠隔操作し、対話することができたら、遠くにいても現地で働けるのではないか。この課題に取り組んだのが、「遠隔対話ロボットで働く」をテーマにした「Sota100プロジェクト」だ。

「Sota100プロジェクト」は大阪大学大学院基礎工学研究科の先端知能システム共同研究講座(基礎工学研究科+サイバーエージェント「AI Lab」)※1が、ムーンショット型研究開発事業※2の一環※3として活動しているものだ。

今回は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、対面での活動を大きく制限され、業務に支障をきたしている分野をピックアップした。実証実験の協力を承諾いただいた「保育園」「スーパーマーケット」「アミューズメントパーク」を実証フィールドに、遠隔対話ロボットを通した接客を実施。この実験に携わる「ロボット接客を受けるユーザー」「操作オペレータ」「実証フィールド」にとって、課題解決や価値創造ができるかを調査した。

その結果、各実証フィールドが抱える課題の解決に、遠隔対話ロボットが貢献できる可能性を発見。また、遠隔対話ロボットを実際に導入した際の、利点や課題を見出すことができた。

※1 先端知能システム(サイバーエージェント)共同研究講座
2017年4月1日に発足した、サイバーエージェント研究開発組織「AI Lab」と石黒教授との共同研究講座。人と社会へ調和的に関わることができる、ロボットを含めた対話エージェントの実現に向けた基礎技術を確立するとともに、人の持つ対話能力に関する科学的な知見の獲得を目指す。

※2 ムーンショット型研究開発制度
ムーンショット型研究開発制度は、わが国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を国が推進する新たな制度。ムーンショット型研究開発制度のうち、科学技術振興機構(JST)が担当するのは「目標1、2,3,6,8,9」。

※3 研究開発プロジェクト「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」
石黒教授がPMを務めるプロジェクトは、ムーンショット型研究開発制度の「目標1 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」を目指す研究チームの1つ。ホスピタリティ豊かな対話行動ができる複数のロボットなどを自在に遠隔操作し、現場に行かなくても多様な社会活動(仕事、教育、医療、日常など)できることを実現していく。

図1

図1 「いつでもどこでも誰でも働ける」遠隔アバターシステム

遠隔対話ロボットを使って働くことで、オペレータ、ユーザー、フィールドの課題を解決し、価値創造を目指す

「非接触」「遠隔就労」がキーワード

新型コロナウイルスによる影響で、さまざまなシーンで対面での活動が大きく制限される状況となった。そのようななか、注目されたのがロボットの存在だ。人間が遠隔操作して対話ができるロボットは、非接触での対話が可能なため、「入場制限で外部協力者との連携が抑制され、人手が不足」や「非接触で、顧客とのコミュニケーションが難しい」といった課題解決への貢献が期待される。

また、コロナ禍以前からも、働き方改革の推進、世界的な生産性向上の流れ、少子化による労働人口減少といった社会背景から、人材マッチングとロボット導入へのニーズが高まっていた。

遠隔にいる人材がロボットを介して、現地スタッフと同等かそれ以上の体験を提供する遠隔就労ができるかは、こうした課題解決の手段として非常に注目されている。

遠隔対話ロボットを導入した利点と課題

本実証プロジェクトでは、先端知能システム共同研究講座が開発した「いつでも・どこでも・誰でも働ける、遠隔操作ロボットシステム」を使用。WebRTCを用いた映像通信技術を中心に、リアルタイム音声変換や音声認識によるロボット動作生成といった技術を融合。複雑な手動操作なしで、操作オペレータが「話すだけ」で基本的な操作が可能な仕組みを実現している。

図2

図2 使用した遠隔対話ロボットシステムの特徴

さまざまな場面で、多様な人たちが抵抗なく受け入れられるように、外観のデザインや音声なども工夫している

第1弾「遠隔対話ロボット × 保育」
遠隔対話ロボットによるあいさつ運動•アクティビティを実施

新型コロナウイルスの影響で、保育園へは外部人員の入場が規制され、あいさつ運動やアクティビティなど、地域協力者や外部講師が関わる活動が実施できなくなった。保育園での実験は、遠隔対話ロボットによってこの状況の解決を目指した。

実験では、操作オペレータは遠隔にいながら、現地の園児と触れ合うことができた。園児たちもロボットの存在を受け入れ、ともに満足できる時間を創出でき、対面での交流同様の「心的ケア」効果を促す可能性もある。

今後の展望としては、ロボットだけで保育士の役割の一部を担えるようにすることが重要となる。それには幼児は言葉だけでの意思疎通は未発達なため、表情やしぐさ、目線といった「言葉以外の反応」から、言いたいことを理解できるセンシング環境が技術的な課題となる。

図3

図3 保育園での遠隔対話ロボットと園児たち

(左)登降園時のあいさつ運動は、高齢者が遠隔対話ロボットを介して担当
(右)絵本読み聞かせ、ことば遊びなどのアクティビティを、外部アクティビティ講師が離れた場所から遠隔対話ロボットを使って実施

第2弾「遠隔対話ロボット × スーパーマーケット」
遠隔対話ロボットによる販売促進を実施

新型コロナウイルスの感染拡大で、スーパーでは店員が積極的に接客することがはばかられた。遠隔対話ロボットによる非接触な対話で、こうした顧客とのコミュニケーション不足を解決していく。実験では、遠隔からロボットを通して店頭でのレシピチラシ配布を行い、店内では特定商品の推薦活動を実施した。

チラシの配布枚数や顧客の立ち止まり率は向上し、実験店舗からも「想定以上に受け答えができる」との高い評価を得た。ロボットと会話が成り立つことがコンテンツとなり、その体験のなかでサービス(案内、誘導、注意、推薦など)の提供ができた。しかし、実際の販売促進への貢献は弱く、ロボットへの興味を瞬時に満足・解消させることと、推薦対象商品への興味を抱かせることの両立が今後の課題となる。

図4

図4 来店者の立ち止まり率と買い上げ率

遠隔対話ロボットを見かけたときの立ち止まり率は通常時より139%向上。しかし、購買行動にはつながらなかった

第3弾「遠隔対話ロボット×アミューズメントパーク」
遠隔対話ロボットによる新しいエンターテインメント提供の形を探索

コロナ禍であっても来場者が安全に楽しめるよう、アミューズメントパークでは感染症対策に配慮した案内や誘導が必要とされている。遠隔対話ロボットで、この課題の解決を目指した。遠隔対話ロボットによる非接触の対話が顧客に受け入れられるのか。また、通常の接客に比べて、どれだけ刺激のある体験を提供できるかを調査した。

結果として遠隔対話ロボットのサービスは、高い顧客満足度と再利用意向を達成することができた。さらに利用客に合わせた丁寧な案内や親密な対話を行うことができれば、アミューズメント施設が力を入れるリピート率の向上にも、大きな貢献が期待できる。

また、操作する各スタッフのタスク成功などを、共有する複数のスタッフに同時に操作・接客させるだけで、最低限のスキル・知識が身に付くことが分かった。

図5

図5 遠隔対話ロボットのサービスは、高い顧客満足度と再利用意向を達成

ロボットたちが提供するサービスに対する満足度を7段階のリッカート尺度で評価した結果、70%以上がポジティブな回答を行っている

遠隔対話ロボットは2030年へ歩き続ける

実証実験を行った保育園、スーパーマーケット、アミューズメントパークでは、それぞれ遠隔対話ロボットが一部の課題解決・価値創造に貢献できることが示された。

ただし本実証実験の調査結果は、現地の保育士の活動や対面接客との比較ができなかった。そのため従来の方法と比較として、施設スタッフや利用者による主観的な評価から考察しており、厳密な結論としては不十分であることにご留意いただきたい。

今後は、今回実証実験を行った分野とは異なる産業や事業分野において、遠隔対話ロボットの効果調査を進める。また同時に、ムーンショット目標の掲げる「2030年までに、アバター1 体の場合と同等の速度、精度で、1つのタスクに対して1人で10体以上のアバター操作可能な技術を開発。その運用等に必要な基盤を構築する」という目標を実現するため、技術開発を進めていく。