事業成果
科学技術教育を多角的にサポート
次世代人材の育成2023年度更新


将来の科学技術を担う中高生の能力を大きく開花させることを目指して、全国の科学好きの仲間と互いに切磋琢磨する機会、大学等の専門機関の指導のもとで研究に取り組める機会、学校の授業ではできない高度で科学的な体験をする機会、女子中高生の理工系分野への興味関心を向上させる機会等を提供している。
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)を支援
JSTは、文部科学省がスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定した高等学校等に対し、教育委員会等とも連携して、SSHの活動推進に必要な支援を実施している。
SSHでは、将来社会を牽引する科学技術人材を育成するために、先進的な科学技術、理科・数学に重点を置いたカリキュラム開発と実践、大学等との連携による先進的な理数教育、あるいは創造性や独創性を高める指導方法、教材の開発等に取り組んでいる。

SSH指定校が一堂に会し、ポスター発表を行うSSH生徒研究発表会

令和4年度 SSH生徒研究発表会では横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校が文部科学大臣表彰を受賞
国際科学技術コンテスト支援
JSTでは数学、化学、生物学、物理、情報、地学、地理の7つの教科・科目の国際科学オリンピックとリジェネロン国際学生科学技術フェア(Regeneron ISEF)への代表生徒派遣を支援している。
2022年の国際科学オリンピックへは、7つの教科・科目から計31名の代表生徒が参加し、29名がメダルを獲得した。Regeneron ISEFに関しては、JSTが支援する日本学生科学賞から選抜された代表生徒6組8名が参加し、3組が優秀賞、特別賞を受賞した。
また、2023年7月に日本で開催される「国際数学オリンピック」と「国際物理オリンピック」への興味・関心を喚起し、未来のオリンピアンを目指す児童・生徒に向けて科学のおもしろさや奥深さを紹介することを目的として、「国際科学オリンピックオンラインイベント」を実施した。

国際科学オリンピックオンラインイベントの様子(2022年10月22日開催)
科学好きな子どもたちの祭典「科学の甲子園」、「科学の甲子園ジュニア」
全国の中高生が集う科学の競技会、「科学の甲子園」(高校生対象)および「科学の甲子園ジュニア」(中学生対象)を毎年開催している。どちらの大会でも全ての競技は、チーム対抗で行われる。
「科学の甲子園」「科学の甲子園ジュニア」は、個人の能力を発揮すると同時に、チームで考え協力して取り組むことのできる貴重な機会となっている。
全国から科学好きな生徒が集い、競い合い、活躍できる場を構築することで、科学好きの裾野を広げるとともに、トップ層を伸ばすことを目指している。
「第12回科学の甲子園全国大会」を2023年3月17日~19日に茨城県つくば市で開催
第12回大会実技競技の様子
第12回大会では神奈川県代表栄光学園高等学校が
総合優勝
「第10回科学の甲子園ジュニア全国大会」を2022年12月2日~4日に兵庫県姫路市で開催
第10回大会実技競技の様子
第10回大会では富山県代表チームが総合優勝
(入善町立入善中学校、砺波市立庄西中学校、
富山大学教育学部附属中学校)
将来グローバルに活躍し得る人材を育成(グローバルサイエンスキャンパス(GSC))
優れた資質・能力のある高校生等が、高度な理数教育を受けられる育成プログラム「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」では、最新の研究成果を学べる講座や研究室での研究指導、留学生との交流など、各機関で工夫を凝らしたカリキュラムを用意している。2022年度は、全国12の機関(「情報科学の達人」育成官民協働プログラム実施機関含む)による育成プログラム実施を支援した。
GSCの受講生が各機関の育成プログラムの下で個人やグループで取り組む日頃の研究成果を発信する場として、全国受講生研究発表会を毎年開催している。2022年度は、2022年10月16日にオンラインで一次審査を実施し、代表として選ばれた受講生12名が11月6日にJST東京本部で発表を行い、優秀な研究を表彰した。
受講生の研究成果が国際論文の投稿につながるケースもあり、2022年度では12件の論文発表に至っている。
〈受講生の声(令和4年度全国受講生研究発表会 文部科学大臣賞受賞者)〉
田中 翔大さん
(東京大学 イノベーションを創出するグローバル科学技術人材の育成プログラム)
- 研究テーマ:バイオリンのハーモニクス奏法における倍音の持続現象に関する数理的研究
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GSCを知る前は、学校の全ての教科の課題に対して「音」「音楽」「バイオリン」を結びつけながら探究をするというこだわりを持って研究していました。学校の掲示板で東大GSCのポスターをたまたま見つけ、初めは自信もなく北海道からの参加ということで躊躇していましたが、先生に相談したところ「やってみなよ!」と背中を押してもらい、思い切って応募をしました。
私は4歳の頃からバイオリンを弾いており、ハーモニクス奏法は特に大好きな超絶技巧です。本研究テーマは私がバイオリンの練習中にふと疑問に思った「ハーモニクス音が指を離した後も一定時間伸びる」という不思議な現象についての研究です。もしかしたら数学を使ってこの不思議な現象がなぜ発生するのかを明らかにすることができるかもしれないと思ったのが研究の一番初めのきっかけです。
単純な数理モデルから私が経験的に感じていたハーモニクス奏法における倍音の持続現象が定性的に再現されました。パラメータ依存性を詳しく調べることにより、弓が弦をどれだけ阻害するかという要素が現象の本質であり、持続時間が極端に長くなる指を離す瞬間における魔の位相関係の存在が明らかになりました。しかし、この現象にはまだまだたくさんの謎があります。摩擦曲線と持続時間の関係性は特に複雑で、将来的に全力で取り組み続けていきたい課題です。
これからも「音楽の美しさとは何か」という問いに対して鋭く考え続けていきたいです。私はGSCが大好きです。GSCは本当に楽しいプログラムで、ワクワクをたくさん感じさせてもらいました。GSCを通して感じることができた「研究の楽しさ」を原動力として、これからも研究に励んでいきたいです。
数値解析結果と対話している様子
UTokyoGSC成果発表会での研究発表の様子
卓越した意欲・能力を持つ小中学生を育成(ジュニアドクター育成塾)
科学技術イノベーションを牽引する傑出した人材の育成に向けて、高い意欲や突出した能力のある小中学生を発掘し、さらに能力を伸長する体系的育成プランの開発・実施を支援している。2022年度は大学・高専・NPO法人・企業等30機関が企画を実施した。
ジュニアドクター育成塾での日頃の学習活動の成果を発信するとともに、受講生や指導者の交流を深める場として、ジュニアドクター育成塾サイエンスカンファレンスを開催している。5回目となる今回は、2022年11月12日・13日にオンラインで開催した。各機関の代表として選ばれたジュニアドクター育成塾の受講生78名が53件の研究発表を行い、分野賞および特別賞を選出した。また、交流企画として日本科学未来館提供の「月開発」「水産資源」を題材としたワークショップを実施し、受講生同士の意見交換を通じて、自分の考えを深めるとともにさまざまな価値観に触れながら、これからの社会や行動について考える機会を設けた。

ワークショップの様子
〈受賞実績等成果の例〉
- 〈日本学生科学賞プレスリリース〉
- 〈受賞内容〉
- 第66回日本学生科学賞 内閣総理大臣賞
- 〈受講生〉
- 寺地 優太さん(三重大学「三重ジュニアドクター養成プログラムによる未来の科学者育成」)
- 〈研究作品名〉
- ウミホタルは血の匂いを感じて餌をみつける
女子中高生の理工系分野への進路意識を醸成(女子中高生の理系進路選択支援プログラム)
女子中高生の理工系分野に対する興味・関心を高めるとともに、教員および保護者等を含め理工系分野への進路選択に関する理解を促進し、文理選択や将来の進路に迷っている女子中高生を継続的に支援する体制構築を推進している。
各実施機関ではそれぞれの特色を活かして、理工系分野での多様な学びの機会を提供し、科学技術に関係する職業や幅広い進路の紹介、多様なロールモデルの提示といった取組を実施している。
2022年度は16の大学・高等専門学校・科学館を実施機関として支援した。
取組例1:理工系分野での多様な学びの機会提供
(お茶の水女子大学「海の生き物観察会」)取組例2:科学技術に関係する職業や進路の紹介
(京都光華女子大学「天然林VRツアー」)
取組例3:教員・保護者に向けた体験の機会や情報の
提供(琉球大学「教員研修会」)
また2022年度は、プログラムの認知度向上や実施機関の取組を社会に発信することを目的に、サイエンスアゴラ2022にてパネルディスカッションを開催した。過年度採択機関である長崎大学、小山工業高等専門学校、プログラム推進委員長をパネリストに、女子中高生、教員、保護者に対する効果的なアプローチについて議論を深めた。また高専女子学生も登壇し、当時の進路選択の経験や教員、保護者の関わりについて発表があった。会場参加者からも活発な質問や意見が交わされ、女子の理系進路選択を社会全体で支援していく重要性について、会場が一体となって考える機会となった。

パネルディスカッションの様子
(サイエンスアゴラ2022「理系女子育成推進フォーラム」)