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採択プロジェクト

平成19年度採択

油流出事故回収物の微生物分解処理の普及


実装責任者  大分県産業科学技術センター 主任研究員 斉藤 雅樹

はじめに 石油はバイオで分解できます

 意外に思われるかも知れませんが、重油やガソリンなどの石油類は、微生物の力で分解できるのです。
 私たちは、海で発生する船の事故などで流出した油を、従来のように焼却処理するのではなく、バイオ処理することを提案しています。
 試算では、従来の「プラスチック製の吸油マット+焼却処理」の方法に比べて、「バイオマス製の吸油マット+バイオ処理」では、CO2を1/3に減らすことができます。


【油流出事故の例】  
転覆した貨物船から海に流れ出たドロドロの重油を オイルフェンスで囲い、吸油マットで回収する様子

実装活動の紹介

 油がバイオで分解できることは、専門家や業界の人間にはよく知られていることなのです。

石油の説明
 

 油流出事故が発生すると、「回収」が求められます。その方法は色々とあり、発生状況などにより最適な手段が選ばれます。主に、4種類があり、よく使われるのは「油吸着材」すなわち「吸着マット」とか「吸油マット」と呼ばれるものです。

従来の方法

  ところで、回収したものはどう処理されるのでしょうか?実は、わが国では現在は100%焼却処理なされています。しかし、事故で回収されるもののうち、「油」は意外に少なく、我々のある事故での実測データでは17%ほどしかなく、あとは大半が海水でした。これを焼却するのには燃料油の添加が必要になります。焼却処理はいかにも不合理で、環境負荷も大きくなります。
 そこで、我々の実装グループでは、回収物のうち悪者である「油」を分解してやれば、あとは環境中に戻せると考え、バイオの力でその「油」を分解させようと考えました。これにより、CO2排出量はトータルで1/3ほどに減少するため、環境負荷が低く抑えられ、コストも低くなります。

回収物をどう処理する?

  バイオで油の処理をするには、欧米で行われているような現場処理は我が国には向きません。現状では、法律上の制限があるほか、コンセンサス形成が困難と考えられるからです。
 そこで、現実的な仕組みとして、いったん海から油を回収し、陸上の安全な場所(生態系に影響を与えにくい閉鎖系の場所)に移送し、そこでバイオ処理を行う、ということを提案しています。我々は日本全国で製造され、容易に入手可能な「バーク堆肥」と呼ばれる樹皮と畜糞から出来る堆肥の発酵工程を使って、油を分解する研究を平成14年から行ってきました。その成果を社会で使ってもらうことにより、環境により負担の少ない油回収・処理システムを実現しようと考えています。
 現在、大分県、北海道、山口県のバーク堆肥には油を分解する機能があることが確かめられており、今後、他の地域でも同じデモ試験を行い、全国の油流出事故に対応できるよう体制を整える計画です。同時に、関係官庁や市民、事業者の理解が不可欠ですので、普及啓発のためのシンポジウムを開催するなど、多面的な実装活動を行っています。

今回の構想

大分県産業科学技術センターでは、(独)海上災害防止センターNPO法人日本バーク堆肥協会などの協力を得ながら、「油流出事故回収物の微生物分解処理の普及」の実装活動を行っています。