H26年度 採択課題 研究機関:平成26年10月~平成29年9月 カテゴリー1 医療における地域災害レジリエンスマネジメントシステムモデルの開発 研究代表者 棟近 雅彦(早稲田大学 理工学術院 教授)

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概要

東日本大震災での医療の経験からも明らかなように、災害が発生しても医療事業を継続可能にすることは、医療機関だけでなく地域の安全・安心な社会を作る責務を持つ自治体にとっても不可欠な活動である。災害時における医療の継続性を確保するには、医療の地域レジリエンスを評価し、高めることが急務となっている。医療の地域レジリエンスとは、災害が発生しても、対象地域における医療事業に関係する組織・団体が、通常診療業務と災害時の緊急医療業務を継続・運用でき、万が一機能喪失した場合にも速やかに復旧できる状態・状況を常に維持し、さらに必要に応じて向上できる能力である。

本プロジェクトでは、医療の地域レジリエンスを高めるための方法論の提案を目的とする。

具体的には、埼玉県川口市周辺地域を対象コミュニティとし、医療の地域レジリエンスを評価するための評価モデル、およびそれを向上させる仕組みである地域災害レジリエンスマネジメントシステムのモデルを開発する。

目標

・医療の地域レジリエンスを高める施策としては,様々なものが考えられるが,マネジメントシステムを構築,運用することが,一つの有力な方法である。
・医療の地域レジリエンスを向上させる仕組みを,医療における地域災害レジリエンスマネジメントシステム (ADRMS-H)と呼び、川口市周辺地域での中核病院である川口市立医療センターと関連組織からなるADRMS-Hを構築することを通じて,次のことを達成する
(1) ADRMS-Hモデル構築の前提となる概念の明確化とモデル構築
(2) ADRMS-Hを継続的に評価するための評価モデルの開発

関与する組織・団体

  • 東海大学情報通信学部
  • 東京理科大学工学部
  • 川口市
  • 川口市立医療センター
  • 川口市災害拠点病院
  • 川口市医師会、薬剤師会、歯科医師会
  • 保健所

「コミュニティ」紹介

本プロジェクトでのコミュニティは、医療の地域レジリエンスを高めるために必要な関連組織の共同体である。具体的には、関与する組織・団体の図に示した川口市ADRMS-Hに関わる川口市、川口市立医療センター、医師会、薬剤師会等から成る。ただし、どこまでをADRMS-Hの範囲に含めるかは、本プロジェクトで解決すべき課題の一つである。

アプローチ

-2013昨年度、川口市周辺地域において、図1や図2のようなBCPを継続的に改善するためのマネジメントシステムである医療のBCMSモデルを開発 ※1
-これをADRMS-Hの基礎とし、拡張や修正すべき点を考察することで、ADRMS-Hモデルを構築、検証する

※1 経済産業省「事業継続等の新たなマネジメントシステム規格とその活用等による事業競争力強化モデル事業」の支援を得て実施

到達点と課題

  (H27年6月現在)

本プロジェクトの最終目的は,真に医療の地域レジリエンスを向上できるマネジメントシステムモデルを構築することである.そのためには,以下のアウトプットが不可欠と考えており,本プロジェクトでの達成を目指している.
・地域レジリエンスの定義,考え方
・レジリエンスの評価モデル,特に最終パフォーマンスを考慮した評価指標
・ADRMS-Hモデル
 ADRMS-Hの特性上,最初から参画すべき組織を特定して構築していくのは困難であり,その範囲を確定することも研究課題の一つである.

アピールしたいこと

 

・「ADRMS-Hというマネジメントシステムで,医療の地域レジリエンスを高めることができるか」という仮説を検証すること
-この仮説が検証できれば,マネジメントシステムは普遍的な仕組みとなりうるので,どの地域でも,誰が行っても医療の地域レジリエンスを高める可能性を大きくすることになる.また,マネジメントシステムの運用により,一過性ではなく,継続的な活動とすることができる.
・研究者らは、10の病院との共同研究でQMS-Hモデル開発、導入・推進を行ってきた。
-10病院は,地域,特性,規模など様々であるが,普遍的なQMS-Hモデルを開発し,医療の質向上に貢献してきた.病院におけるマネジメントシステムに関しては,豊富な経験を有している.

メッセージ

・現時点でも,日本では地震や噴火が頻発しています.いつでも東日本大震災の再来があってもおかしくない状況にあるといえます.パッチワーク的な活動ではなく,災害に備えたシステマティックな活動を行っていくことが,現在の日本に課せられた重要な課題と認識しています.そのためには,災害対応のためのマネジメントシステムの構築が不可欠と考えています.
・複数の関連組織からなるマネジメントシステムがいかにあるべきかは,明確になっていません.また,地域レベルの事業継続、レジリエンスの向上は、まだ極めて未知な部分が多い問題です。決して容易な課題ではありませんが,多くの方々の協力を得て,この課題に挑戦していきたいと思います.

リンク

アウトカム(プロジェクトの成果)開く

大規模災害が発生した場合に、医療機関が業務を継続できるようにすることはとても大事な問題です。災害発生後は、被災者を救助するだけでなく既存の患者の継続的な診療も行わなければいけません。そのためには、1つの病院が単独で対応するのではなく、対象となる地域の複数の医療機関が連携する必要があります。このプロジェクトでは、地域における複数の医療機関を連携させたマネジメントシステムを開発。熊本地震で検証を行いました。

Point1
地域の様々な医療機関が連携できるマネジメントシステムの枠組みを構築しました。

災害時における医療の継続性を確保するには、医療の地域レジリエンスを高める必要があります。レジリエンスを高める方策の1つとして、病院がBCP(事業継続計画)/BCMS(事業継続マネジメントシステム)を構築しておくことは有効ですが、医療機関は既存の患者に対応するだけでなく、刻一刻と変化する災害医療ニーズにも対応しなければいけません。このプロジェクトでは、BCP/BCMSの考え方をベースに、地域の医療関係機関が連携する災害時マネジメントシステム「ADARMS-H」を開発しました。具体的には、埼玉県川口市をモデルケースとし、川口市、災害拠点病院、後方医療機関、医師会・薬剤師会・歯科医師会、保健所、DMAT(災害時派遣医療チーム)、JMAT(日本医師会災害医療チーム)などを連携させたマネジメントシステムを構築することで、地域医療のレジリエンスを向上させることを目指しました。

Point2
地域医療に携わる関係組織が連携できる組織連携図と関係表を整理しました。

このプロジェクトでは、医療の地域レジリエンスについて「地震で災害等が発生しても、対象地域における医療事業に関する組織・団体が、当該地域在住のすべての住民に対して必要な通常診療業務と災害時の災害医療業務を継続・運用でき、しなやかに復旧できる状態・状況を常に維持し、さらに必要に応じて向上できる能力」と定義しました。そして地域医療のレジリエンスを高めるため、埼玉県川口市をモデルケースとして、災害発災からのフェーズごとに、地域で行うべきことと、それを担う組織や関連機関が連携するために必要な機能を整理。川口市と川口市立医療センターを主導組織とした指揮命令系統を明確化しました。

Point3
熊本地震でADARMS-Hの効果を検証しました。

2016年4月に発生した熊本地震で災害医療に携わった熊本県職員、医療者、災害支援チーム関係者に対してインタビュー調査を行い、ADARMS-Hの効果を検証しました。組織体系や命令系統、情報収集など7項目について分析をした結果、このプロジェクトで整理した「機能組織構造関連表」「関連組織体系図」の有効性が確認できました。一方で、東日本大震災以降、DMATなどの災害医療支援チームが非常に進化しており、従来よりもその役割が大きくなっていたため、いくつかの項目で現モデルでは対応ができないと判断されました。また、熊本地震では被災者が病院に避難してくる「病院避難」が行われましたが、これについてもまだ検討できておらず、今後の課題として残りました。

残された課題

ADARMS-Hモデルは川口市周辺地域では実装が進むものの、まだプロトタイプの段階で繰り返し検証が必要です。災害が発生する各地域で実装しないと意味がありません。また、DMAT本部をはじめとした災害支援チームとの連携は不可欠なため、これらのチームとも共同研究を進めていくことが重要な課題となっています。

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