H26年度 採択課題

研究期間:
平成26年10月~平成29年9月

カテゴリーI

災害救援者のピアサポートコミュニティの構築

研究代表者
松井 豊(筑波大学大学院人間総合科学研究科人間系 教授)

図:日本地図

写真:松井 豊


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概要

自然災害などの際に職業的に被災者を支援する災害救援者が被る惨事ストレスに対する社会的認識は高まっている。しかし、多くの災害救援者のストレスケアは自治体単位、施設単位での実施に留まっており、より組織だったケアシステムが必要である。

本プロジェクトでは、各種の災害救援者(消防職員、看護職員、小中学校教師、保育士、障害者施設・高齢者施設などの介護施設職員、一般公務員)の惨事ストレスケアを可能とするピアサポートコミュニティ(ネットワーク)の構築を目的とする。

具体的には、消防・看護職員に関しては、ネットワークの構築と、研修と効果測定を行う。他の職種に関しては、震災時の職員に対するストレス対策の実態調査や意識調査を実施し、コミュニティ構築を試みる。

目標

本プロジェクトでは、被災した職員とピア(同職種で惨事ストレスケアの訓練を受けた他地域の職員)をつないで、ピアサポートという支援の手をつなぐことを目指します。支援の具体的な内容は、惨事ストレスや悲嘆にたいする個別傾聴や電話による個別支援(リモートサポート)などを、その職種にあった支援の仕方を探りながら、展開します。

本プロジェクトでは、広域災害時における各種の災害救援者(消防職員、看護職員、一般公務員、保育士・幼稚園教諭など(以下「保育士」と表記)、小中学校教師、障害者施設・高齢者施設等の介護施設職員)の惨事ストレスケアを目的とした、ピアサポートコミュニティ(ネットワーク)の構築とそのノウハウの構造化を目標とします。

本プロジェクトの具体的な活動と目標は、職種によって異なります。 消防職員・看護職員では:

ネットワークを呼びかけ、ピサポートの研修を行います。研修では、惨事ストレスやピアサポートに関する学習、傾聴技術やピアサポートの実習などを行い、効果測定を行います。効果測定のための測定ツールも開発中です。研修後は、ネットワーク(コミュニティ)を構築し、そのノウハウを体系化します。  写真は、消防研修の様子です。

 

他職種では:
 東日本大震災における職員のストレスケアの実態を、被災地職員への面接調査や質問紙調査で把握し、効果的なケアシステムを試作します。また、システム構築のために、行為記載賀に見舞われて職員のストレスケアを行った海外の組織に対するフィールド調査も行います。

本研究の背景には、東日本大震災における災害救援者の惨事ストレスの実態があります。表には東日本大震災において様々な災害救援者が、どの程度惨事ストレスを残したかという調査結果を示します。外傷性ストレス症状を測定するIESRという尺度のハイリスク率を表記しました。消防だけでなく、被災地の様々な職種の災害救援者が外傷性ストレス(惨事ストレス)をかかえていたことが分かります。本プロジェクトの背景には、こうした災害救援者の惨事ストレスの強さがあります。

本プロジェクトの活動目標は以下の通りです。
消防:全国で約150人程度の消防ピアの養成
看護:全国で50名の被災看護管理職経験者ネットワーク構築
他の職種:調査結果を踏まえて、各職種で30-50名程度の被災管理職経験者ネットワーク構築を目指しますが、具体的な内容は職種によって変わります。

本プロジェクトで構築を目指すシステムは、下記のピアサポートネットワークです。
①平常時には、各職種への研修や訓練、メイリングリストなどによる交流
②災害時には、被災地域職員への連絡をとり、必要な物資や情報提供
  現地からの要望で(研究者のコンサルテーションの下)
  被災地にネットワークメンバーを派遣し、傾聴ボランティアや個別面接、
  管理職への個別支援(電話を用いた傾聴などを含む)
対象となる災害救援者は、
  消防職員、看護管理職員、一般公務員、高齢者施設職員、障害者施設職員、教員、保育士です。
ただし、職種によって、異なるネットワークを構築する場合があります(現在調査中です)。

関与する組織・団体

  • 総括・すべての班:筑波大学人間系(大学院生涯発達専攻)
  • 消防班:東京消防庁惨事ストレス部会有志、福岡市消防局有志ほか
  • 看護班:東京医科大学医学部 山崎研究室、福島県・岩手県・宮城県の被災病院管理職有志
  • 公務員班:立正大学心理学部 髙橋研究室
  • 教師・保育士班:埼玉学園大学 佐々木研究室
  • 高齢者施設班:一般財団法人田中教育研究所、明治学院大学 岡本研究室
  • 障害者施設班:東北工業大学 ライフデザイン学部 古山研究室、国立のぞみの園 研究部 相馬研究室

「コミュニティ」紹介

本プロジェクトの「コミュニティ」は、地理的条件ではなく、同じ職種、同じ志を持つ仲間のネットワークを指します。上記のような活動を行うために、全国に散らばるピアの集まりが、本プロジェクトのコミュニティです。共有する志は、「被災地の中で被災者のために活動する仲間を支えたい。」です。
 本プロジェクトが対象とする災害救援者の職種は
   職業的災害救援者…消防職員、一般公務員
  災害時に救援する職業 …看護職、教員、保育士、高齢者施設・障害者施設職員です。

アプローチ

本プロジェクトでは、右記のような方法でプロジェクトを展開しています。  消防と看護では、研修の効果測定とネットワーク構築を行っています。研修の効果測定は、図のような形で行っています。

他の職種では、ストレスケアを行った組織への聴き取り調査、ストレスケアに関する管理職への実態調査を実施しました(結果は集計中)。

今後は、海外組織への聴き取り調査などを経て、ピアサポートを含むシステム構築のノウハウの体系化を目指しています。

到達点と課題

  (H27年6月現在)

現在の到達点は、職種(班)によって異なっています。消防班では第1期(東京)第2期(福岡)の研修を終え、効果測定の集計中です。看護班では、被災3地点での研修を終え、被災した看護管理職への質問紙調査も終了しました。教師・保育士班、公務員班、介護施設班では、被災地の各組織への面接調査を展開し、質問紙調査や海外調査の準備をしています。大きな課題は、各班の調査結果の共有化(これは今年度から対応を開始しました)と職種による支援の仕方の違いをどう統合的にとらえるかなどにあります。

アピールしたいこと

 

本プロジェクトは以下のような点に、独自性があります。
第1に、惨事ストレスケアの対象を拡大したことです。従来の惨事ストレス対策は、消防、自衛隊、海上保安庁が中心でしたが、本プロジェクトでは、これまでストレスケアの対象と見なされてこなかった職種の方へ支援の手を広げています。
第2に、専門家による治療ではなく、ピアサポートに焦点を当てた点です。従来は、精神科医療やカウンセリングという専門会によるアプローチが重視されてきましたが、専門家に対しては「こころの敷居」が高く、受診が進まぬ面があります。また、、専門が元々少ない地域では、長期的な支援を受けにくい面がありました。訓練された同職種者の支援は、受ける側の「敷居」が低く、長期的な支援も可能になります。
第3に、本プロジェクトが考案したシステム構築のノウハウに関しては、海外でも発表されていませんので、成功すれば新たなシステムが開発されると期待されます。

メッセージ

東日本大震災では、多くの災害救援者が惨事ストレスを受け、多くの対策が採られました。しかし、その効果は必ずしも万全とはいえませんでした。その背景には、精神科医療・臨床心理士が普及していなかった被災地が多かったことや、「こころの専門家」への敷居の高さや、消防や介護施設や病院では施設単位や自治体単位の対応しかできなかったこと等があげられます。

こうした背景を踏まえて、本プロジェクトでは、広域災害における災害救援者を支援するピア(ストレスケアの訓練を受けた同職者)サポートネットワークの構築とそのノウハウの構造化を目指します。次の広域災害に備えて、「被災地外の仲間(ピア)が仲間(被災した災害救援者)を支えるシステム」を作り上げたいと願っております。同じ志を持つ方のご協力やご参加を頂ければ、幸いです。

リンク

アウトカム(プロジェクトの成果)開く

東日本大震災における消防職員、看護管理職員、一般公務員、教師、保育士、高齢者施設職員、障害者施設職員など災害救援者による被災者支援は素晴らしいものでした。しかし、支援する側の災害救援者に、早期離職やメンタルヘルス不調が多発するなど問題が発生しました。一方で、災害救援者をサポートするのは同じ職種の人(ピア)が適していることが明らかになってきました。このプロジェクトでは、災害救援者のサポートを、同じ職種の人たちができる体制づくりに取り組みました。

Point1
同職種同士が支えあうことがストレスケアにつながることを確認しました。

東日本大震災においては、消防職員、看護管理職員、一般公務員、教師、保育士、高齢者施設職員、障害者施設職員など災害救援者が惨事ストレスに苦しんでいることを明らかにした上で、同じ専門職能を持つ人たちの中にもコミュニティが存在し、その同職種者(ピア)同士が支え合うことが惨事ストレスなどの軽減につながることを確認し、ピアサポートの効果を明らかにしました。

Point2
ピアサポートの研修法を確立しました。

同職業者による支援であるピアサポートを災害時に実施するため、惨事ストレスケアやコミュニケーションスキルなどを学ぶ研修を消防職員と看護管理職員、教師に実施。研修内容を改善するため、例えば、災害時の学校で教員が体験する嫌悪的出来事の構造解明や低減するための訓練法の検討も行い、ピアサポートの研修法が確立しました。また消防職員の研修は筑波大学で継続的に実施され、看護管理職員研修の継続も決定しています。プロジェクトを継承するNPO法人・日本消防ピアカウンセリング協会が、消防職員を対象にした研修を九州で実施する計画です。

Point3
ピアサポートに取り組めるマニュアルをつくりました

看護管理職員、教師、保育士、障害者施設職員に向けた、災害時のピアサポートマニュアルを公開しました。東日本大震災を詳細に分析できた看護チームのマニュアルは、直面する各種トラブルの詳しい説明、ストレスの紹介、対応方法などで構成されています。高齢者施設職員用は公開準備中です。
 また、熊本地震では、岩手で被災経験のある看護管理職が熊本地震で被災した看護管理職のサポートを行いました。また、熊本の保育園長にもピアサポートを試験的に実施し、サポートを受けた人たちの感想からケアは有効だったと確認できました。

残された課題

被災した救援者は多忙を理由にストレスを自覚しなかったり、「強い存在」であることを自他に課す傾向が強いため、ピアサポートを申し出ても断られるケースもあります。被災地に知人がいるとピアサポートの提供がスムーズに進むためにネットワークの拡大は大変重要です。災害前のネットワークづくりやピアサポート有効性の広報が必要と考えます。

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