H26年度 採択課題 研究機関:平成26年10月~平成29年9月 カテゴリー1 災害マネジメントに活かす島しょのコミュニティレジリエンスの知の創出 研究代表者 岡村 純(日本赤十字九州国際看護大学  看護学部 教授)

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概要

2005年福岡県西方沖地震で被災した玄界島は、甚大な被害にもかかわらず、住民が協力して2次災害防止と迅速な全島避難のために行動し、発災3週後には住民主体の復興計画を策定して、3年で帰島に至った。この復興過程は、厳しい自然環境のなかで漁業をともにしてきた住民同士のつながりと歴史文化が寄与している優れた災害復興事例と考えられる。

本プロジェクトは、玄界島住民の復興経験・復興過程を多角的に分析し、災害マネジメントに活かすことのできるコミュニティレジリエンスの知として抽出し、この知を宗像市地島において住民とともに活用・検証することで、より多くの島しょに応用可能なコミュニティレジリエンスの知を創出することを目的とする。

本研究ではコミュニティレジリエンスの知を、コミュニティが歴史文化として創り上げ、柔軟に変化させてきた暗黙の社会的ルールと暫定的に定義する。この知を他の島しょを始め各所で活用できるようにすることで、災害に強いコミュニティを育成することが可能となる。

目標

玄界島におけるコミュニティレジリエンスの形式知を抽出する
 ①玄界島の地区踏査、②玄界島住民のインタビューの質的探索的分析、③玄界島復興計画記録の探索的分析、を統合し、玄界島のコミュニティレジリエンスの形式知を抽出する。

地島、大島におけるコミュニティレジリエンスの形式知を創出する
 ①地島の地区踏査・健康調査、②地島の防災・復興計画の分析を踏まえ、玄界島のコミュニティレジリエンスの形式知からアクションリサーチによって、地島の形式知を創出する。
 ①大島の地区踏査・健康調査、②大島の防災・復興計画の分析を踏まえ、地島のコミュニティレジリエンスの形式知からアクションリサーチによって、大島の形式知を創出する。

玄界島、地島、大島に共通するコミュニティレジリエンスの形式知を創出する

関与する組織・団体

  • 日本赤十字九州国際看護大学
  • 福岡教育大学
  • 佐賀大学
  • 宗像市(健康づくり課、生活安全課、元気な島づくり課、大島診療所担当)
  • 玄界島コミュニティ(地区長、漁協組合長)
  • 大島コミュニティ(漁協組合長、コミュニティ運営協議会)
  • 地島コミュニティ
  • 一般社団法人地域社会継続研究所

「コミュニティ」紹介

玄界島は、2005年の福岡県西方沖地震で甚大な被害にもかかわらず、①住民による要援護者の迅速な避難、②2次災害防止行動、③発災から3週間後に、官民協力体制の下での復興計画策定、ができたコミュニティである。
自助・共助が有効に機能した玄界島の背景には、島しょでの生活・健康を基盤とした知の蓄積(=コミュニティレジリエンスの知)があると考えられる。

アプローチ

本研究開発は、地島・大島住民と研究者が災害に強い安心で安全なコミュニティづくりという目標を共有し、研究活動そのものが未来構想的な実践を意図しているため、地区踏査・健康調査・住民インタビュー・質問紙調査などを通じたアクションリサーチを行う。そして、玄界島におけるコミュニティレジリエンスの形式知を地島・大島での適用を試みることで、平時から災害に強い安心で安全なコミュニティづくりを目指す。

※アクションリサーチ:
目標とする社会的状態の実現へ向けた変化を志向する、目標を共有する研究参加者(住民)と研究者による共同実践的な研究。

到達点と課題

  (H27年6月現在)

平成26年度は、島しょの災害に関する先行研究の文献的検討と玄界島における予備的インタビューと防災訓練の参与観察から、玄界島の復興過程を記述し、「玄界島のコミュニティレジリエンスの暗黙知」に関する作業仮説を確定できた。玄界島は被災前に形成されていたコミュニティレジリエンスの暗黙知によって、新しいコミュニティが(再生ではなく)創造できたという仮説である。被災前のコミュニティレジリエンスの暗黙知としては①漁協という近代的な組織による漁業の運営、②島特有の居住環境による濃厚な近隣関係の維持、③女性組織による島内の安全維持、④以上によって形成された島民のコミュニティアイデンティティを仮説としている。
さらに、今後のコミュニティレジリエンスに影響する要因として、①迅速な全島避難と人的被害の少なさ、3年で全員帰島という成功体験と誇り、②近隣関係のネットワーク化、③共有空間への「生活の滲み出し」の少なさ、仮説している。 今後は玄界島での地区踏査や島民へのインタビューを継続し、以上の仮説を検証するとともに、宗像市地島・大島に検証した仮説を適用することによってその有効性を検討する。

アピールしたいこと

 

 本研究は、グッドプラクティスとされる福岡市玄界島の復興過程をコミュニティ形成の立場に立って解明し、コミュニティレジリエンスの暗黙知を抽出し、形式知として言語化する。
 この形式知の有用性を福岡県宗像市地島、大島で検証することによって、島しょにおけるコミュニティレジリエンスの形式知として確立する。
 島しょという、被災時に孤立する環境におけるコミュニティレジリエンスの形式知は、半島地域や過疎地域、限界集落などに応用可能であると考えている。
 さらには、超高齢社会となり、人と人とのつながりが希薄になると予測される地域社会において、本プロジェクトの成果はコミュニティを復活・再生させる形式知として活かすことができるかも知れないと考えている。
 本研究は、災害看護の研究者が地域計画、社会教育の専門家と共同することによって、コミュニティレジリエンスという新しい概念に挑戦するものである。

メッセージ

福岡県西方沖地震から早10年が経過し、最大の被災地福岡市玄界島も災害サイクルの災害準備期(将来の災害に備える時期)に入っていると考えられます。
 しかし、災害復興の「グッドプラクティス」(優良事例)と称賛される玄界島の避難・復興経験は、福岡県内はもとより、全国の島しょの人々にも共有されていないのが現実です。
 そこで、玄界島の人々に現在までの復興の道のりを振り返ってもらうことによって、コミュニティレジリエンスの知(コミュニティが災害から復興し、再生していく知恵)を見つけ出し、自然・社会的条件の似ている福岡県宗像市地島・大島の人々とともに考えることで、全国の島しょにおけるコミュニティレジリエンスの知恵を防災・減災計画や復興(予定)計画に活かし、創っていきましょう。

アウトカム(プロジェクトの成果)開く

人口規模の小さな島しょのコミュニティを、被災後にも安全・安心なコミュニティとして存続させるための手本は存在しません。そのため、2008年福岡県西方沖地震で被害を受けた福岡県の玄海島をフィールドとして、①被災以前、②被災時、③全島避難~帰島、④帰島後に分け、被災地域を安全・安心な島しょコミュニティとして復興させる上で起こる課題や対応策を整理し、リーダーの育成や重層的な人間関係のネットワークなど、多くの被災島しょコミュニティで安全・安心な島しょコミュニティづくりに役立つコミュニティレジリエンスの形式知の創出に取り組みました。

Point1
地域で積み重ねられたリーダー養成システムが迅速な避難や住宅の復興を支えていたことがわかりました。

玄界島では、福岡県西方沖地震が発生するとその日のうちに全住民が島外避難。島内では住宅再建に地域が一体となって取り組み、避難から1100日ぶりに全員帰島が実現しました。全戸島外避難と迅速な復興を可能にした決定的な要因は、漁協の組合長が発揮した強力なリーダーシップでした。島の将来像やこれまでの課題対策を取り入れた復興計画を作成した復興委員会の委員長にも、漁協の組合長が選挙で選ばれました。つまり、漁協を中心とした地域で積み重ねられたリーダー養成システムが全戸避難、住宅再建で有効に機能していたことになります。
 さらに、重層的な人間関係のネットワークがコミュニティのレジリエンスを支えていることもわかりました。所属集団で組織する海上消防団や女性自衛消防クラブ、少年少女消防クラブと地域組織の自衛消防組織が重層的に存在し、全島民が消防組織を必ず経験し、退団後も消防活動に協力し島民の防災力向上させる仕組みになっていました。また、中学生の少年少女消防クラブでは過去に防災マップの作成に取り組むなどで大人の地域意識にも影響を与え、小学校で実施している防災キャンプはコミュニティ活性化にもつながっていました。加えて、西方沖地震以前からの災害経験(大火や山火事)が地域に共有、蓄積され、「コミュニティレジリエンスの知」として福岡県西方沖地震の被災から住宅再建、全戸帰島に至るまで復興に大きく役立っていたことが明らかになりました。

Point2
住宅の復興を終えた後に、コミュニティレジリエンスの低下がみられました。

「コミュニティレジリエンスの知」とは、地域特有の自然環境、歴史、文化、生活のなかで住民自らコミュニティで生き抜くために築きあげ、共通認識されている暗黙知のことです。玄海島では、被災前まで、住宅の新築や解体時の資材運搬を地域で協力して実施する「もやい」という共同作業が存在しました。また、「八軒竃」という地域の仕組みを中心としたイベントで行う共同調理と共食が地域を長年結束させる地域レジリエンスの基盤になっていました。全戸島外避難後に住宅再建や全戸帰還を議論したときにも、「もやい」や「八軒竃」で培われた共同性が合意形成を支えていました。ところが復興で住宅の配置が変わったために「八軒竃」の共同調理と共食が不可能になり、道路が整備されたため「もやい」も滞ってしまいました。さらに、リーダー養成システムが漁協の不祥事をきっかけに崩壊しました。地域の共同性の低下とリーダーシップの低下が重なり、福岡西方沖地震の復興期と比べると「コミュニティレジリエンスの知」は低下していると考えられます。

残された課題

コミュニティレジリエンスを実現させるには、玄界島のケースから過去の被災経験の蓄積と共有、重層的な防災組織の整備、コミュニティに共同性の維持と強化、強力なリーダーシップが重要だと明らかになりました。しかし、どの島しょでも全ての要件を満たせるわけではありません。今後、具体的な対策を含め島しょで共通項の抽出に取り組みます。

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