H24年度 採択課題 研究機関:平成24年11月~平成27年10月 カテゴリー2 いのちを守る沿岸域の再生と安全・安心の拠点としてのコミュニティの実装 研究代表者 石川 幹子(中央大学理工学部人間総合理工学科 教授)

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概要

背景:東日本大震災後、日本における防災の考え方は、被害ゼロを目指す取り組みに加えて「被害を最小化するための減災」を合わせて検討していくことに大きく変化した。このためには、地域コミュニティを主体とする多様な施策の導入により、安全・安心な地域を平時から創出することが重要である。

目的:東日本大震災の「復興まちづくり」の調査、支援、社会実装活動を通して、コミュニティの力を最大限に活用した巨大災害からの、復興の道筋を示すことを目的とする。これを踏まえて、国際的に必要とされている「災害リスク学」の柱となる「レジリアンス都市地域計画」の構築を目指す。

①災害からの回復力の高い「レジリアンス都市地域計画」の開発。
②安全・安心の拠点となるコミュニティのプラットフォームの構築を目指す。
③微地形や生物多様性を考慮した減災の視点を導入した津波からの防御力の高い「いのちを守る沿岸域」の再生像を提示する。

目標

コミュニティ・レジリアンス論の構築・展開
・回復力(レジリアンス)の高い沿岸域の再生とコニュニティの形成

関与する組織・団体

  • 東京大学 工学系研究科
  • 東京大学 社会科学研究所
  • 東京大学 新領域創成科学研究科
  • 首都大学東京 都市環境科学研究科
  • 日本大学 生物資源科学部
  • 岩沼市市役所
  • 特定非営利活動法人 オープンコンシェルジュ

「コミュニティ」紹介

対象となる主なコミュニティは、岩沼市沿岸部に存在していた6集落(相野釜・藤曽根・二の倉・長谷釜・蒲崎・新浜)である。この6集落は東日本大震災の津波によって、壊滅的被害を受けた。被災直後の2011年4月には、すみやかに内陸部へ集団移転の意志表示をしており、行政と一体となり防災集団移転促進事業への取り組みが行われてきた。2013年12月には、第一陣の宅地の引き渡しが行われた。順次、移転地の整備が完了するに伴い、新しいコミュニティが創り出されていく予定である。また沿岸部から、やや内陸部には半破壊、床上浸水などの被害を受けた地域のコミュニティ(林、押分、早股)が広がっており、これらの既存コミュニティが農業支援などを通して協力関係を築き、今日に至っている。この地区における特徴は、復興トマト、メロンなど農業がいち早く復興しており、また、仙台空港周辺の工業団地も存在することから、農地の大規模化を合わせた次世代のコミュニティの形成が課題である。

アプローチ

具体的なアプローチ:防災集団移転促進事業が進められている宮城県岩沼市玉浦地区を含む仙南平野を対象に、「環境の持続性」、「経済の持続性」、「コミュニティの持続性」の視点を据え、まちづくり、経済学、環境教育学、生態学、GISやGPSなどを活用した空間情報処理などの観点から、現地調査、分析、社会実装を行う。まちづくりについては、防災集団移転促進事業における環境整備の考え方について支援、提案を行い、コミュニティのプラットフォーム形成の支援を行う。命を守る沿岸域の形成については、失われた集落の暮らしの調査を行うと共に、最新の機器の導入により沖積平野における今後の防災の要となる微地形分析を行い、復興土地利用の基礎となる詳細なデータの提示を行う。経済については、震災後、激変している農業、産業について詳細な現地調査を行い、持続的な雇用創出を生み出す環境づくりについて研究を行う。これらのテーマは、日本の将来にとって、いずれも極めて重要である。

メッセージ

東日本大震災からの復興が見えにくい中で、宮城県岩沼市では、被災直後より、行政、市民、NPO、学術研究者が協働で復興まちづくりを進めてまいりました。このプロジェクトは、この取組を更に支援すると共に、この中から得られる教訓を日本のみならず、世界の皆さんの共有財産とし、巨大災害から命を守る取り組みに貢献したいと考えております。

アウトカム(プロジェクトの成果)開く

大規模災害からの復興について、「回復力(レジリエンス)」の核となる社会的な共通資本をいかに形成していけばいいのか、その方法論を構築するとともに、「安全で安心な都市・地域の創造」という最も基本となる持続可能(サスティナブル)な社会の構築に向けて、コミュニティの回復力はいかに達成しうるかという問題の解決に取り組みました。

Point1
コミュニティ・レジリエンス論を構築することで1000人規模の集団移転を実現しました。

コミュニティの回復力(レジリエンス)とは、危機に瀕した際に、コミュニティが状況の変化を認識し、判断を行い、回復・再生・創造に至る時間軸を持つ力のことです。その力を評価するために、「社会のレジリエンス」「環境のレジリエンス」「文化のレジリエンス」という3つの柱から考察を行い、総体として立ち上がるものを「コミュニティ・レジリエンス」と考えました。これら3つのレジリエンスは、被災からの段階的な時間の経過に伴い、ステージごとに変化をしていきます。その過程において、誰が、どこで、何をしたか、ステークホルダーを明確にしながら協働のプラットフォームをつくりだしていくことで、各段階で必要とされる社会的共通資本とレジリエンスの向上につながる施策が見えてきました。このスキームに基づき、現実に復興が進む地域で社会実装を行った結果、対象とした岩沼市では、1000人規模の集団移転が被災地で初めて実現し、人口減少にも歯止めをかけることができました。

Point2
災害時において雇用・経済を持続させるためには、コミュニティの維持が大切なことがわかりました。

東日本大震災では、日本全体で570.1万人もの労働者がなんらかの仕事への影響を受け、このうち225.7万人が離職もしくは休職によって、震災後に働く機会を失い、2012年10月時点でも21.4万人は無業状態でした。今回の研究では、災害によって離職・休職した人のなかでも、避難を継続していたり、避難後に転居した場合ほど、無業を継続していたり、さらには就業を断念する統計的に有意な傾向が観察され、岩沼市で実装された防災集団移転促進事業のすみやかな実現によるコミュニティの維持が、被災者の雇用や生活の維持にとってきわめて重要であることが明らかになりました。

Point3
多重防御における海岸林の役割と整備方針を、津波被災の実態調査、および歴史的に形成されてきた文化的景観という視点から提案を行い、あわせて、革新的沿岸域調査の方法論を提示しました。

沿岸地帯には、微地形に応じた多様なエコシステムが存在し、これが減災、生物多様性に大きな貢献をしています。特に海岸林は、強靭な国土づくりに向けて災害リスクから人命・財産を守り、社会生活、産業を持続的に維持していくための防災・減災対策の基盤となる社会的共通資本であり、津波の被災を受けた場合にも減衰効果を発揮し回復力(レジリエンス)の高い森林とするため、国及び県は、海岸地域の生態系(エコシステム)の特質を踏まえ、現行の均一整備の考え方から、多様性を踏まえた整備・保全へと方針の転換を行う必要があります。
 また、海岸林の整備にあたっては、当該地域の復興計画との整合を図ると共に、広域的視点に基づき、国・県・市町村・民間の土地所有の枠を超えて一体的に海岸部の整備の基本方針を策定する必要があります。これに伴い、海岸林の管理・運営・マネジメントに対して、被災者が主体的に関わる仕組みを創設し、新たな展開として、地方自治体において「持続可能な発展のための教育」プログラムの開発を行うことが望ましいと考えられます。
 沿岸域の革新的な調査方法としては、応用植物社会学に基づく植生調査に、人間の手により歴史的に形成されてきた文化的資産という視点を導入し、旧集落のコミュニティとしての特性を明らかにしました。そのうえで、画像解像度数㎝程度という超高解像度画像を可能とするUAV(無人ヘリコプター)技術・G空間情報処理技術と生態学を連動させることにより、沿岸域には多様な微地形に対応するエコシステムが存在していることを明らかにしました。

Point4
沿岸域の環境モニタリングと復興のデジタルアーカイヴを作成しました。

G 空間情報技術、生態学調査の協働により、沿岸地域の環境モニタリングを継続的に行う革新的技術開発を行いました。モバイルマッピングシステムによる360 度画像や小型 UAV による空撮データによる復興アーカイヴを作成し、被災地域の住民や自治体にデータ提供しました。これらは地元NPOや自治体の情報発信や被災地の状況を伝える新聞やテレビ番組などにも利用されました。
 デジタルアーカイヴは、当該地域の風景を形づくってきた居久根や、昔から続けられてきた子ども御神輿など被災住民にとって過去の記憶を思い出すことでコミュニティ意識を確認し、今後の復興につなげられるだけでなく、未来の世代に対してコミュニティの歴史を知り、意識を継承する機会を与えることになります。

残された課題

本研究で欠けていたものが、エネルギー問題でした。自然エネルギーの導入、スマートグリッドの導入など、多くの提案が行われましたが、コストパフォーマンスの視点から、メガソーラー以外は実現しませんでした。弱小で人口減少が続く地域におけるエネルギー戦略は、今後の大きな課題と言えます。

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