H24年度 採択課題 研究機関:平成24年11月~平成27年10月 カテゴリー1 中山間地水害後の農林地復旧支援モデルに関する研究 研究代表者 朝廣 和夫(国立大学法人九州大学 大学院芸術工学研究院 環境・遺産デザイン部門 准教授)

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概要

2012年7月の集中豪雨により、八女市など九州北部の中山間地域は多大な被害を被った。今後、豪雨による災害の頻度は増加することも想定され、中山間地の回復可能性を高める新たな仕組みの確立は急務の課題である。特に本プロジェクトは、共助による農林地の復旧支援を重要課題として取り上げた。

本プロジェクトの目的は、下記の3つである。

・福岡県八女市を対象とし、中山間地の農林地被害の分布と災害ボランティアの活動分布、  そして、対応した被災規模の範囲を明らかにする。 ・被災世帯について、被災前後の生活の変容、復旧の過程と課題を明らかにする。 ・平常時からの備えとして、地域-NPO連携型の農林地復旧支援モデルの構築を行う。

連携機関の八女市および災害支援にあたるNPOの山村塾等の協力を仰ぎ、災害報告データの分析、日々の災害ボランティア活動のデータ化、そして、被災された世帯等への聞き取り調査を行う。連携機関と共に、今後の農林地の保全と復旧に必要なボランティア コミュニティを繋ぐモデルの立案を行う。また、全国への実装を想定し、中山間地の立地と社会的な基礎的条件の整理も加え、貧弱性の改善と強靭化の求められる対象の特定と方法を提起する。

目標

・NPOが農地復旧を行う際の、判断指標を提示します。現在は、復旧工事の見積金額しかありませんが、農家が判断し市民が支援できる選択肢を増やします。
・空間的に水害における中山間地の脆弱箇所と、復旧から村づくりに向け、農林地の総合的活用を目指した将来像を提示します。

関与する組織・団体

  • 福岡県八女市、山村塾

「コミュニティ」紹介

平成24年九州北部豪雨は、下流域に多大な洪水をもたらした一方、八女市の中山間地には、河川の増水による橋梁、道路、家屋、農地の被害のほか、山林、茶畑、棚田の崩壊により大きな被害をもたらしました。特に山間部では土砂災害により道路が寸断され、一部で住民が孤立しました。公民館などに避難した地域住民は、自ら重機を動かし土砂に埋まった道路をあけ、支援の道を開いていきました。

そのような中、山村塾は、八女市黒木町笠原の元笠原東小学校の校舎、「えがおの森」に事務所をおき、被災した平成24年7月14日以降は避難所支援を行い、携帯電話が通じた7月21日から災害ボランティアを呼び掛け、22日から復旧した1本の道路を用いボランティアをピストン輸送し、生活環境の復旧と共に、農林地の復旧支援を継続してきました。八女市社会福祉協議会との連携や、後に立ち上がった星野村災害ボランティアセンターを含め、全国から多くの人々、団体が九州に駆けつけ、支援が行われました。 本研究は、ボランティア・コミュニティを主たる研究対象としています。

<八女市>
福岡県八女市は、2006年から2010年にかけて1市5町村(八女市・黒木町・立花町・上陽町・星野村・矢部村)が合併した、熊本県・大分県に隣接する自治体です。2013年11月時点で人口約6万8千人、面積13,549ha、森林面積は69%であり、旧八女市以外は、中山間地が多く占める立地となっています。

アプローチ

・集落の互助組織、NPOと連携したキーマンの属性を分析し、既存組織とNPOが平常時と災害時にどのように変容したかを探求し、あるべきフレームの基礎とします。
・被災農林地の空間的分布を地形や土地利用と分析し、脆弱箇所を特定します。被災地のシンポジウムなどを通じて、地域の課題と今後について話し合い、まちづくり支援を行います。

到達点と課題

  (H26年2月現在)

アピールしたいこと

 

メッセージ

本研究は「平成24年7月九州北部豪雨」により被害を受けた福岡県八女市の中山間地域を対象に、八女市域の農地の被災分布と集中地区を明らかにし、被災の特徴と共に、生活と農地の復旧活動におけるNPOなどの支援組織の活動の動態を示し、中山間地の農地の保全に資する互助・共助活動の農林地復旧支援モデルを提示することを目的とします。

リンク

アウトカム(プロジェクトの成果)開く

全国各地にある中山間地域は人口減少が進む一方で、豪雨などによる災害リスクの 上昇が予想されています。だからこそ災害時だけではなく、平時の農林地保全にもつな がる新たな災害対策の確立が求められています。そこで、中山間地で平常時から地域で 活動するボランティア・コミュニティが災害時には速やかに復旧支援活動を行えるよ うな体制の確立に取り組みました。

Point1
災害前からの地域外とのつながりが重要なことを明らかにしました。

豪雨災害の実態を把握するために、平成24 年7 月の九州北部豪雨により農地と農業施設で被害を受けた福岡県八女市黒木町、星野村、うきは市を調査し、農地復旧を見送るなど地域が抱えた課題を洗い出しました。豪雨災害の翌年以降の農地復旧までサポートした活動エリアの異なる支援団体を中心にヒアリングをしたところ、どの団体も、災害前から棚田などの保全活動を都市住民とともに地域で実施した経験があることが明らかになりました。この結果から、全国で展開されている都市と農村との交流事業や農業体験、グリーツーリズムなど地域外との活動が将来の防災の基礎になりえると考えられます。
 また、これらの団体は、公的な補助を受けられないほど小さな復旧作業や補助事業に該当しない復旧事業、補助対象事業であっても遅れがちな復旧事業も支援していたことも分かりました。被災から免れた農作物の収穫や、農作物栽培の基礎になる小規模な水路や農地の早い復旧支援は非常に重要な活動で、こうした活動を次の作付け時期内に完了するのが復旧のポイントになることがわかりました。
 一方で、コミュニティの再生を進めるキーパーソンの重要性に着目したところ、I ターン、Uターンにより地域で活動している人や、役場の若手が地域コミュニティを活性化させていることが分かりました。

Point2
共助を支えるために、自治体の適切な関与が重要なことが分かりました。

支援団体の活動地域には特徴がありました。「里地・里山保全市民団体型」団体の支援地域は、その活動地域に限られる一方で、「住民・行政連携型」「行政中心型」の団体は区長会を通じたニーズをもとに広く活動していました。どの団体も行政と適切な協力関係を持って活動していました。それが可能だったのは災害前からお互いに協力して活動した経験があったからです。自治体の関わり方は多様ですが、基本的には適切な関与を行い、共助団体に委ねるノウハウを蓄積する必要が自治体にはあることがわかりました。

Point3
平時からの理想的な共助のために農村デザインセンターの設置を提案しました。

被災前から地域で活動経験のある団体は素早く効果的な支援が可能です。しかし、その際必要になるのが集合場所、復旧のための道具の管理、事務作業、休憩、宿泊などの役割を果たせる施設です。そこで、平時から地域や地域外の人たちが活動を通して連携でき、災害発生などの非常時には農地復旧までの支援に結びつく共助を育み多岐にわたる農地復旧支援に対応するために農村デザインセンターの設置を提案しました。また、「災害後の農地復旧のための共助支援の手引き」をWebで公開しました。

Point4
合宿ボランティアの防災への効果を検証しました。

八女市にある「里地・里山保全市民団体型」の団体、NPO 法人山村塾は、海外ボランティアを20 年近く受け入れ、合宿型ボランティアを実施しています。そして、被災時には海外ボランティアも復旧支援に参加していました。そこで、人口が減少し、空き家や耕作地放棄の増加が予想される日本で、合宿型ボランティアの実施を提案します。多くの作業が必要とされる家屋や農林地の維持に、合宿ボランティアとして市民と楽しく汗を流して交流し、より積極的な共助意識を醸成することが可能だからです。

残された課題

今後、この研究成果は他の地域で水害が発生したときに参考にはなりますが、実際に動き出すには実務レベルで解決しなければいけない課題が残されています。どこにでも活用できる運用方法の開発し、検証をとおして標準的運用方法を確立し、標準的運用方法にもとづく人材育成と体制整備を進める必要があります。

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