トピックス

アルギン酸ナトリウムを主成分とする国内初軟骨修復材の開発に成功
~関節軟骨損傷に対する新たな治療法を実現~
(産学共同実用化開発事業(NexTEP)の成果)

産学共同実用化開発事業(NexTEP)

https://www.jst.go.jp/jitsuyoka/

<ポイント>

  • 北海道大学と持田製薬株式会社は、エンドトキシンを低減した高純度アルギン酸ナトリウムを主成分とする軟骨修復材「dMD-001」を開発しました。
  • dMD-001は塩化カルシウムとの接触により容易にゲル化する性質を持っています。dMD-001により、膝または肘の関節軟骨損傷の修復の補助および修復された軟骨による臨床症状の緩和が可能となりました。
  • 持田製薬株式会社は本開発により、2025年7月に軟骨を修復する国内初の医療機器として薬機法に基づく製造販売承認を取得しました。

JST(理事長 橋本 和仁)は、産学共同実用化開発事業(NexTEP)の開発課題「硬化性ゲルを用いた関節軟骨損傷の治療」の開発結果を成功と認定しました。この開発課題は、北海道大学 大学院医学研究院 専門医学系部門 機能再生医学分野 整形外科学教室の岩崎 倫政 教授らの研究成果を基に、JSTが支援し、2014年8月から2025年6月にかけて持田製薬株式会社(本社:東京都新宿区、代表者:代表取締役社長 持田 直幸)において実用化開発を進めていたものです。

関節軟骨は、交通事故やスポーツなどで一度損傷を受けると自然に修復されにくいことが知られており、外科的な治療に至る場合が多くあります。既存の主な外科的治療法には、骨髄刺激法、自家骨軟骨柱移植術および自家培養軟骨移植法があります。しかし、これらの治療法は、侵襲性、修復軟骨の強度・耐久性、医療費といった面でそれぞれ課題があり、改善が求められています。

そこで、北海道大学および持田製薬株式会社は低エンドトキシン化高純度アルギン酸ナトリウムに着目し、アルギン酸ナトリウムを主成分とする新しい軟骨修復材「dMD-001」を開発しました。アルギン酸ナトリウムはカルシウムイオンとの接触により即座にゾルからゲルへ転移するというユニークな特性を持っています。dMD-001により、膝または肘の関節軟骨損傷(外傷性軟骨欠損症または離断性骨軟骨炎。ただし、変形性関節症を除く)の修復の補助および修復された軟骨による臨床症状の緩和が実現しました。

同社はdMD-001を用いた非臨床試験および臨床試験での有用性と安全性の確認を行い、2025年7月に軟骨を修復する国内初の医療機器として薬機法に基づく製造販売承認を取得しました。

今回開発された軟骨修復材を用いた骨髄刺激法は新たな外科的低侵襲性軟骨再生治療法として治療の選択肢を広げ、医療への貢献が期待されます。

<背景>

関節軟骨は、交通事故やスポーツなどで一度損傷を受けると自然に修復されにくいことが知られており、外科的な治療に至る場合が多くあります。

交通事故など外部からの強い衝撃により生じる外傷性軟骨欠損症や、スポーツなどで軟骨へ繰り返し力が加わることで生じる離断性骨軟骨炎の主な既存治療法には、骨髄刺激法(マイクロフラクチャー)、自家骨軟骨柱移植術および自家培養軟骨移植法があります。しかし、これらの治療法には侵襲性、修復軟骨の強度・耐久性、医療費といった面でそれぞれ課題があり、改善が求められています。

そこで北海道大学および持田製薬株式会社は、低エンドトキシン化高純度アルギン酸ナトリウムに着目しました。アルギン酸は海藻から抽出された多糖類で、カルシウムイオンなど2価イオンの添加により即座にゾルからゲルへ転移し、また生体内の酵素によって分解されないなどユニークな特性を持つため、生体内の損傷部位の保護材や組織再生の足場材などへの応用が期待されていました。

本開発では、アルギン酸ナトリウムの特性を生かし、膝および肘の関節軟骨損傷部位の修復および修復された軟骨による臨床症状の緩和を目的に、高純度アルギン酸ナトリウムを主成分とする新しい軟骨修復材「dMD-001」を開発し、治療法の確立を目指しました。

<主な試験結果>

非臨床試験では、大腿骨関節面を一部欠損させたイヌ関節軟骨欠損モデルにおいて、臨床現場で使用されている骨髄刺激法にゲル化したdMD-001を併用した群は、併用しない場合と比べ良好な修復効果を示し、dMD-001の併用による有用性が報告されました※1)

臨床試験では、膝および肘の関節軟骨損傷部に骨髄刺激法による処置後dMD-001を施した治療法の安全性および有効性に関する試験が実施されました。dMD-001を用いた群ではdMD-001に関連した有害事象、および不具合は認められず、また、痛みや症状などの改善が報告されました※2)。これらの結果をもって、持田製薬株式会社は2023年5月にdMD-001の製造販売承認申請を行い、2025年7月に国内初の軟骨を修復する医療機器として承認を取得しました。

<期待される効果>

骨髄刺激法は手術が1回で済み侵襲性が少ないという利点がありますが、形成される線維軟骨の強度が乏しいという課題があります。骨軟骨柱移植術は正常な骨軟骨柱組織を損傷部に移植するため、移植部位は強度・耐久性が維持されますが、骨軟骨柱を採取した部位に障害が発生する可能性があり、また多くの場合、侵襲性の高い関節切開術を必要とします。今回、これら既存治療法の課題を克服すべく低侵襲かつ強度・耐久性にも優れた新しい軟骨再生治療法が確立されました。軟骨損傷の外科的治療における新たな選択肢の1つとして医療への貢献が期待されています。

<参考図>

  • 図1 製品パッケージ(イメージ)

    図1 製品パッケージ(イメージ)

  • 図2 治療イメージ

    図2 治療イメージ

  • 軟骨欠損部においてゲル化したアルギン酸ナトリウム溶液は、骨髄液から滲出した幹細胞が軟骨細胞へ分化するために適した3次元的足場(scaffold)となり、これにより分化した軟骨細胞から硝子様軟骨が形成される。

    <用語解説>

    ※海藻由来の多糖類物質であるアルギン酸ナトリウムは、生体親和性のあるバイオマテリアルとして、軟骨修復への利用のほか、細胞移植の足場材料など、再生医療分野での応用が期待されています。

    <参考文献>

    ※1):R.Baba, N Iwasaki et al., Am J Sports Med 46(8):1970-1979, 2018

    ※2):(膝)T. Onodera, N Iwasaki et al., Bone Joint J. 2023 Aug 1;105-B(8):880-887.
    (肘)D. Momma, N Iwasaki et al., Orthop J Sports Med. 2021 Mar 11;9(3):2325967121989676.

    <お問い合わせ先>

    • <開発内容に関すること>

      持田製薬株式会社 経営企画部 広報室

      Tel:03-3225-6303

    • <JST事業に関すること>

      下田 修(シモダ オサム)

      科学技術振興機構 スタートアップ・技術移転推進部

      〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町

      Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-0017

      E-mail:jitsuyoka【@】jst.go.jp 【@】は”@”に変更してください。

    掲載日:2025年07月23日