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SATREPSタイプロジェクトの成果を元にデングウイルス感染症治療薬開発を目指す

タイでのSATREPSプロジェクト「デング出血熱等に対するヒト型抗体による治療法の開発と新規薬剤候補物質の探索」(研究代表者:生田 和良 大阪大学 微生物病研究所 教授)の共同研究機関だった株式会社医学生物学研究所は、デングウイルスに対する予防と治療の両面でウイルス増殖抑制効果のある完全ヒト型デングウイルス抗体の開発に成功したと発表しました。

これは、SATREPSプロジェクト(2009年~2013年)と、その後に同研究所が事業者となって採択された独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2012年度イノベーション実用化ベンチャー支援事業「抗デング出血熱・治療用ヒト抗体候補の動物試験での有効性評価」(2013年~2014年)の両方の成果とされています。

デング熱やデング出血熱などのデングウイルス感染症は熱帯地域において、年間5千万人が感染し、25万人の重症化例をみる、蚊媒介性の疾患です。日本国内でも、2014年8月以降に発生しているデング熱の感染事例は、140件を超えています(2014年9月25日現在)。デングウイルスに対する抗体医薬の研究はいくつか報告されていますが、効果的な薬剤、ワクチンはまだ無く、その治療薬の開発は世界的に期待されているところです。

タイの保健省医科学局およびマヒドン大学熱帯医学部の研究グループと連携したSATREPSプロジェクトでは、急性期の患者に由来する血液由来細胞(末梢血単核球)を取り出し、新たに株式会社医学生物学研究所により開発されたフュージョンパートナー細胞(SPYMEG)との細胞融合法を用いて、デングウイルスのいずれの血清型(1型~4型)ウイルスにも広く反応するヒト型単クローン中和抗体を作製しました。これは当初、回復期の患者の血液サンプルを用いる計画だったのが、相手国の事情もあり急性期の患者の血液サンプルを用いたところ、予想に反して多くの広域性中和抗体の作製に成功したものです。これらの成果は2011 年に米国へ特許を仮申請し、2012年には PCT 出願を行っています。また、これらの抗体に関する解析は、今までに論文として3報報告を行い、そのうちAntiviral Researchに報告した論文(Tadahiro Sasaki et al.)は、Antiviral Research Awards 2014を受賞し、本研究に対する注目の高さが伺えます。

デングウイルスについて、これまで、サル(アカゲザル、マーモセット)を用いた評価系は知られていましたが、試験に高額な予算が必要であり、小型の動物モデルの開発が待たれていました。SATREPSプロジェクトでは、デングウイルス感染を評価するマウス実験系の構築にも成功しました。これは今後のデングウイルス感染症への対策研究に大きく貢献すると考えられ、次のNEDO支援事業では、SATREPSプロジェクトで開発したデングウイルス感染モデルマウスを用い、マーモセットによる評価試験にて実施したものと同様の有効性と安全性を確認しました。

デングウイルス感染症の医薬品開発については、従来、「顧みられない熱帯病(NTDs: Neglected Tropical Diseases)」として熱帯地域が想定されていましたが、最近の国内での感染事例増加を受けて、国内外の製薬企業へのライセンス導出による、抗体医薬としての早期の実用化が一層、待ち望まれています。

  • 2012年度イノベーション実用化ベンチャー支援事業採択事業
    ※86 株式会社医学生物学研究所 「抗デング出血熱・治療用ヒト抗体候補の動物試験での有効性評価」
  • http://www.nedo.go.jp/content/100553054.pdf
  • JSTトピックス (2013/7/18)
    “顧みられない熱帯病”デング熱の治療薬開発に向けて大きな一歩~タイ・バンコクで製薬企業向け説明会を開催~
  • https://www.jst.go.jp/report/2013/130718.html
  • SATREPS
  • https://www.jst.go.jp/global/
  • 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)の略語。
    科学技術と外交・国際協力を相互に発展させる「科学技術外交」の一環として、文部科学省、外務省とJST、JICAが連携して実施する3~5年間のプログラム。地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行っています。
  • 「デング出血熱等に対するヒト型抗体による治療法の開発と新規薬剤候補物質の探索」
    (研究代表者:生田 和良 大阪大学 微生物病研究所 教授/採択年度:2008年度/研究期間:5年間/相手国:タイ)
  • https://www.jst.go.jp/global/kadai/h2011_thailand.html