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資料3:事後評価結果

I.健康“生き活き”羅針盤リサーチコンプレックス

中核機関:
理化学研究所
提案自治体:
神戸市、兵庫県
提案機関:
塩野義製薬株式会社、シスメックス株式会社、日本電気株式会社、阪急阪神ホールディングス株式会社、株式会社三井住友銀行、京都大学、神戸大学、兵庫県立大学
オーガナイザ:
渡辺恭良(理化学研究所科技ハブ産連本部健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラムプログラムディレクター)

1.拠点の概要

「ヘルスケアのエコシステムを神戸に創る」というビジョンの実現に向け、先端医療技術の研究開発拠点である神戸医療産業都市を中核として国内外の大学及びトップレベルの研究者等を集結させ、学際的なアプローチに基づく研究開発や、得られたビッグデータの利活用を進めることによって「科学的データや理論に基づく“ヒト”の理解を深めて健康を科学し、個別健康の最大化」を進める。あわせて、事業化支援、人材育成を行い、持続的に発展し続ける拠点を構築する。

2.総合評価

「ヘルスケアのエコシステムを神戸に創る」というビジョンの下、健康関数Ⓡの開発及び神戸市民PHRの開発・サービス提供開始等の成果をあげた。また、健康に関する専門人材やヘルスケア・アントレプレナー等の人材育成プログラムを推進し、人材の輩出が始まった。こうした活動により、157の参画機関が集積し、多数の共同研究を創出する等、プロジェクトが掲げたKGIを概ね達成してリサーチコンプレックスの基盤構築が進展した。また、健康関数Ⓡ事業、ヘルスケアデータHub事業をコア事業とする本プログラム終了後の推進体制を整備した。一方で、今後のリサーチコンプレックスの発展に向けては、健康関数Ⓡの科学的な信頼性の確保やヘルスケアデータHub事業の計画の具体化、本プロジェクト終了後の本リサーチコンプレクスの構想の具体化等、重要な課題がいくつか残されている。以上を総合して、「一部不足があるが、概ね十分なリサーチコンプレックスが構築されており、今後の努力により自立的な発展が期待できる。」と評価する。

3. 評価結果の詳細

(1) 基幹事業等の形成とその成果
理化学研究所を中心に健康状態をポジショニングマップで示す健康関数Ⓡを開発し、阪急阪神HDのいきいき羅針盤アプリに適用する等、参画企業と社会実装に向けた共同研究開発へと発展させたことを評価する。また、健康計測や健康関数Ⓡの研究開発を継続する体制とその事業構想を策定したことは、リサーチコンプレックスを駆動する基盤構築を進めたものとして評価する。残された課題として、早急な論文発表や更なるデータ数の追加によって、健康関数Ⓡの科学的な信頼性を確保し、社会的な認知を高めることが必要である。本プログラム終了後も、健康関数Ⓡを健康評価手法として確立するための研究開発を継続し、社会実装へと展開していくことを期待する。
神戸市と理化学研究所が共同で市民PHRシステムを開発し、運用に着手したことは、わが国における先駆的な取組として評価する。また、ヘルスケアデータの2次利用に向けた検討を進め、保険会社等の新しい分野の参画企業を呼び込んだことや、COIプログラム弘前大学拠点と連携して疾病予測モデルを開発したことは、データ駆動型のヘルスケアサイエンスの発展に貢献するものであり、評価する。本プログラム終了後も更に活動を発展させることを期待する。その際、本プログラム終了後の運営を担う神戸リサーチコンプレックス協議会と、市民PHRや健康関数Ⓡのデータ等を管理し運営者となる神戸大学とが共同で、今後の活動の構想・計画を具体化し、実行に移すことが重要である。
神戸大学のアントレプレナー育成講座や、理化学研究所を中心とする健康コンシェルジュ(健康科学の専門人材)の育成講座から、ヘルスケア事業を牽引する人材が育成されつつあることも評価する。本プログラム終了後、神戸大学や新設の法人等によって、これら講座を自立的に継続するとしており、本リサーチコンプレックスの基幹事業の発展等を担うヘルスケア人材を輩出することを期待する。
(2) 推進体制
神戸市、兵庫県が主導して、理化学研究所リサーチコンプレックス戦略室とともにビジョンの実現に必要な機能やKGI・KPIを設定した。その上で、提案機関とともに構成する幹事会でのKGI・KPIに基づく進捗管理の下、本プログラムを推進する体制を築いて、KGI・KPIを概ね達成したことを評価する。
また、事業化コーディネータの活動や設備共同利用の仕組みによって、参画機関間のネットワークの構築等が進み、健康関数Ⓡ事業やヘルスケアデータHub事業を中心に共同研究が拡大・発展したことを評価する。こうした活動を通じて157にのぼる参画機関が集積し、リサーチコンプレックスの基盤整備が進展した。本プログラム終了後もネットワークの構築等の活動を継続し、更に発展させることを期待する。
(3) ビジョン実現に向けた発展構想
神戸市・兵庫県が責任主体となり、本プログラム終了後の活動を継承する神戸リサーチコンプレックス協議会を立ち上げた。リサーチコンプレクスの柱となるコア事業として、健康関数Ⓡ事業とヘルスケアデータHub事業を掲げるとともに、プラットフォームとして事業化支援、人材育成、シーズ創出の3つの機能を設定した。これらの取組により、リサーチコンプレックスが駆動・発展する基盤を整備したことを評価する。今後、神戸市、兵庫県がイニシアティブを発揮して、参画機関とともにコア事業やプラットフォーム間の連携・融合を図り、本リサーチコンプレックスを発展させることを期待する。その際、本プログラムで中核機関を担った理化学研究所が、地域に立地する機関としてシーズ創出を中心に引き続き重要な役割を担うことを期待する。
一方で、神戸市、兵庫県を中心とするヘルスケアの将来に向けた取組の姿、それらと連携させた本リサーチコンプレックスの将来のエコシステムとしての発展構想は、十分には示されなかった。神戸に構築していくヘルスケアのエコシステム像を、コア事業の将来構想と整合させながら具体化することが重要である。神戸リサーチコンプレックス協議会を中心に、関係者・関係機関間でそのエコシステム像を共有し、また良好なコミュニケーションを図りながらリサーチコンプレックスを発展させていくことを期待する。

II.世界に誇る社会システムと技術の革新で新産業を創るWellbeing Research Campus

中核機関:
慶應義塾大学
提案自治体:
川崎市、神奈川県、横浜市、東京都大田区
提案機関:
東京大学、東京工業大学、横浜市立大学、神奈川県立産業技術総合研究所、富士フイルム株式会社、CYBERDYNE株式会社
オーガナイザ:
青山藤詞郎(学校法人慶應義塾常任理事)

1.拠点の概要

持続的に世界中の人々のWellbeingを高め、より魅力的で豊かな生活を実現させるための知見とサービスを生み出すことを目標とし、地域に集積している研究機関、企業、大学等が活動を融合させ、異分野融合による最先端の研究開発、成果の事業化、人材育成を一体的・統合的に展開するための複合イノベーション推進基盤の構築を行う。同時にその基盤から誕生するシーズを新しいビジネスアイデアとし、速やかに実現に向かわせるための仕組みづくり、事業家の育成システムの構築も行い、「より魅力的な生き方」の実現に向けての国際的拠点の構築を目指す。

2.総合評価

中核機関である慶應義塾大学の主導のもと、提案自治体、提案機関とともに、異分野融合共同研究開発の活動を4つのエコシステム(知的創薬基盤、再生・細胞医療生産基盤、データ・情報基盤PeOPLe、医療機器ロボティクス基盤)へと整理し、研究開発等を推進した。その結果、各エコシステムについて社会実装に向けた産学官連携体制が構築され、本リサーチコンプレックスの基幹事業として、今後自立的に発展していく見通しを得た。また、川崎市殿町地区での立地機関の集積が進むとともに、本リサーチコンプレックスのビジョン共有を行い、機関間の連携を進めた。さらに、本プログラム終了後のクラスターマネジメント組織を整備した。これらを通じて、将来リサーチコンプレックスとしてさらに発展していく基盤を構築した。以上を総合して、「十分なリサーチコンプレックスが構築され、今後の自立的な発展が期待できる」と評価する。

3. 評価結果の詳細

(1) 基幹事業等の形成とその成果
リサーチコンプレックスのビジョンの実現に向け、異分野融合共同研究開発の活動から、前述の4つのエコシステムを設定した。その中で、例えば、知的創薬基盤では、東京工業大学のバイオインフォマティクスや機械学習、高性能計算の技術を統合して創薬支援ベンチャーを設立した。また、再生・細胞医療生産基盤では、細胞品質評価技術を確立するとともに、実験動物中央研究所を中核とした品質評価受託体制を整備した。このように、各エコシステムについて、本プログラム終了時点でのKGIを概ね達成するとともに、社会実装に向けた産学官連携体制を構築したことから、各々が今後の活動継続によって自立的なイノベーションエコシステムへと発展する見通しが得られたものと評価する。
なお、データ・情報基盤PeOPLeでは、NCD(National Clinical Database)等から必要なデータを移送する基盤技術を確立して、乳がん学会のデータと連携した乳がん患者予後システムを開発する等の研究開発が進展したが、残された課題としては、広く展開を目指す健康・医療データ利活用プラットフォームとしての具体像の提示、データ利活用に向けた個人情報取得ルール等のELSIに対応する運用ルールの整備等がある。今後の活動継続により、これらを克服して、本エコシステムを発展させていくことを期待する
また、神奈川県と神奈川県立産業技術総合研究所が協働で、将来に向けた機動的な研究シーズ発掘・育成の取組を実施し、その中で、新型コロナウイルスの検出にも適用可能な感染症の検査技術を育成した。今後、こうしたシーズ技術の発展にも期待する。
人材育成では、慶應義塾大学が、ファーマコメトリクス分野の実践的な教育プログラムを実施し、新薬開発等に役立つ解析技術を習得した人材を輩出する一方、地域の小中学生等を対象にした先端的なアウトリーチを実施する等、幅広い人材育成活動を行ったことを評価する。また、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科が開学し、慶應義塾大学殿町タウンキャンパスと連携協定が締結された。今後、ライフサイエンス分野の機関が集積する殿町地区の特長を活かした、データサイエンス分野やイノベーション人材の育成が加速することを期待する。
(2) 推進体制
本プログラムの実施期間中に、慶應義塾大学殿町タウンキャンパスの整備、東京工業大学の研究拠点の設置、国立医薬品食品衛生研究所の移転や企業の拠点の設置等、川崎市のエリアマネジメントによって立地機関の集積が進展した。また、慶應義塾大学・横浜銀行・川崎市産業振興財団の3者連携協定に基づき横浜銀行にギャップファンドが組成され、事業化・社会実装に向けた支援が開始された。以上のように、殿町地区でリサーチコンプレックスのマネジメントの仕組み・機能の構築や、人材・資金の流入が進みつつあり、イノベーションエコシステムの基盤構築を進めたものとして評価する。さらに、中核機関である慶應義塾大学を中心とした緻密なプロジェクトマネジメントと積極的な広報活動等により、リサーチコンプレックスのビジョンがよく共有され、参画機関数が増大して機関間連携が進展したことも評価する。
(3) ビジョン実現に向けた発展構想
本プログラム終了後、本リサーチコンプレックスを推進するための運営会議を設置するとともに、川崎市の下で川崎市産業振興財団に本プログラム終了後のクラスターマネジメント組織を構築したことを評価する。
一方で、クラスターの運営計画やマネジメント機能について、更なる具体化が必要である。運営の中核となる川崎市及び川崎市産業振興財団が、慶應義塾大学や神奈川県をはじめ、関係自治体、機関と連携して、本プログラム終了後の本リサーチコンプレックスの中長期的なビジョンを策定・共有し、一丸となってリサーチコンプレックスを発展させていくことを期待する。その際、羽田空港に隣接し国内外にアクセスが優れているという殿町地区の強みを活かし、他地域や海外からの人材の呼び込みや広域連携を進めることが重要である。また、慶應義塾大学の学内諸部局間及び近隣アカデミア間を繋ぐハブ機能を有する殿町タウンキャンパスが、本リサーチコンプレックスでのアカデミア発の事業化推進の一つの中核となっていくことにも期待する。
4つのエコシステムに関しては、上記の中長期的なビジョンの下で、各エコシステムの目指す具体的な将来像と活動計画を明確にすることが重要であり、その上で研究開発と社会実装を推進し、活動や成果を全国やグローバルに展開していくことを期待する。

III.i-Brain×ICT「超快適」スマート社会の創出グローバルリサーチコンプレックス

中核機関:
関西文化学術研究都市推進機構
提案自治体:
京都府
提案機関:
情報通信研究機構、奈良先端科学技術大学院大学、同志社大学、奈良県立医科大学、オムロン株式会社、サントリーホールディングス株式会社、株式会社島津製作所
オーガナイザ:
細井裕司(関西文化学術研究都市推進機構オーガナイザ、奈良県立医科大学理事長・学長)

1.拠点の概要

i-Brain(脳科学・人間科学)の研究成果の豊富な蓄積と高度なICT(情報通信技術)を融合し、未だ十分に解明・活用されていない脳科学分野の研究開発を戦略的に推進すると同時に、平安、活力、共感等、「ココロ」の豊かさ向上に着目した「超快適」につながる新しい技術・サービス等を社会実装することにより、人のココロに寄り添う「次世代型スマートシティ」の実現を目指す。

2.総合評価

オーガナイザの主導の下、「けいはんなの誓い」を基盤とした拠点内の信頼関係の醸成により、企業間の交流を誘起し、オープンイノベーションの気風を育んだ。また、海外の主要イノベーション拠点との戦略的な連携や、超快適実証フィールドを活用した事業化プロジェクト等を推進し、具体的な成果を生み出した。これらを通じて、けいはんな学研都市を多彩なプレイヤーが集結・育成・融合し、i-Brain×ICTを軸とした研究開発を社会実装につなげる場として、国内外から注目される拠点へと発展させた。更に、京都府の主導で本プログラム終了後の発展構想や推進体制を具体化し、超快適なスマート社会を実現するグローバルなリサーチコンプレックスとして発展する基盤を築いた。以上を総合して、「優れたリサーチコンプレックスが構築され、今後の自立的な発展が特に期待できる。」と評価する。

3. 評価結果の詳細

(1) 基幹事業等の形成とその成果
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が中心となり、海外の有力なイノベーション機関と戦略的な連携関係を構築しつつ、KGAP+等のスタートアップ支援、KOSAINNによる事業化プロジェクト創出支援の仕組みを立ち上げた。こうした活動等を通じて、けいはんな学研都市を多彩なプレイヤーが集結・育成・融合するオープンイノベーションの拠点へと発展させ、国内外からの注目を集めるに至ったことを高く評価する。
また、けいはんな学研都市の強みである実証フィールドを活用しつつ、関西文化学術研究都市推進機構(KRI)や情報通信研究機構等が主導して、i-Brain×ICTを軸とした異分野融合研究開発プロジェクトを実施し、オープンイノベーションの取組を推進したことを評価する。特に、企業の自主財源による事業化プロジェクト(自主プロジェクト)、異分野融合研究開発プロジェクトとKOSAINNとの連携等は、リサーチコンプレックスの自立に向けて重要な取組である。
以上のような活動を連携させることにより、連続的に研究成果と社会実装が生まれる仕組み・体制を整備・発展させ、成果を創出していくことで、本プログラム終了後もグローバルなリサーチコンプレックスとして発展していくことを期待する。その際、実証フィールドの充実・発展を図り、あわせて、ATRの脳科学研究に代表されるけいはんな学研都市に特徴的な最先端の研究シーズ等も活用して、けいはんな発の事業、製品を創出していくことが重要である。また、知的財産をはじめ研究開発成果の取扱いに関する方針を関係機関で議論、策定し、共有することも重要である。
更に、国内外から有望なスタートアップ企業を選抜し、メンタリングによりアントレプレナーとして輩出するKGAP+のシステムも優れた人材育成体制として評価する。あわせて人材育成の効率化を図るヒューマンスキル・アセスメント・システムを確立し、これを活用したイノベーション・プロモートからプロジェクトマネジメントや共同研究の伴走支援を担う人材の輩出が始まっていることを評価する。今後もこうした取組を継続し、本プログラム終了後のリサーチコンプレックス運営を担い、牽引する求心力のある中核的なプロデューサーやプロジェクトマネジメント人材を発掘・育成していくことを期待する。
(2) 推進体制
オーガナイザの主導の下、「けいはんなの誓い」に基づいてオープンイノベーションの文化を醸成するとともに、けいはんな学研都市設立以来ほとんどなされていなかった立地企業間の交流を実現・発展させて、オープンイノベーションの気風を育んだことを評価する。
また、マネジメントチームと自立化戦略本部により効率的にプロジェクトを推進してきたこと、融合研究・事業化支援・人材育成の各ツールに関してKGI・KPIを設定し、それらに基づいた進捗管理により着実に成果をあげたことも評価する。
(3) ビジョン実現に向けた発展構想
けいはんな学研都市の将来構想を踏まえ、本プログラム終了後のリサーチコンプレックスの拡大・深化を目指した発展構想を描き、その実行に向けて、京都府の関与の下で設置するコンパクトなコア組織をハブとするネットワーク型のリサーチコンプレックス推進体制を提案したことを評価する。
中核機関であるKRIは、本リサーチコンプレックスの活動を一つの契機として、その役割を「世界トップクラスのイノベーション拠点の推進役」と再定義したところである。今後は、KRIとコア組織を中心に、けいはんなにおけるオープンイノベーション拠点としての発展が加速されることを期待する。また、2025年大阪・関西万博を一つの重要目標と捉えて本プログラムの成果を継承・発展させ、周辺地域の巻き込みを進めることも期待する。