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これからヒーロー!Vol.03

トウモロコシが道路を固める?!の巻/岩浦里愛さん(農業・食品産業技術総合研究機構)

#物理・化学#材料・産業#環境・エネルギー

いつも穏やかなワンが、猫田にキレている。聞けば、デコボコした道路に足を取られて、ねんざしたのだという。「まさか、巨人が道路を踏みつけた?」と必死に場を和ませようとする猫田の背後に現れたのは、申し訳なさそうなアスファルトくん。真夏に道路が波打つのは自分のふがいなさのせい。猛烈な暑さでアスファルトの石油の性質が顔を出し、その上を容赦なく車が通るから、デコボコな道路になってしまうのだと嘆いている。
だが、そんな辛い日々に救世主が現れる。その名も「諸越瑛士(もろこしえいじ)」。昭和の名俳優のような名を持つ彼と、アスファルトくんが通う「道路学園」で運命の出会いを果たすのだった。
諸越瑛士はいったい何者?どうやってアスファルトくんのドロドロ体質を改善させた?でんぷん系低分子量オイルゲル化剤「C-AG」の研究を紹介。

研究者:岩浦里愛(農業・食品産業技術総合研究機構 上級研究員)

アフタートーク「ワンの部屋(With猫田)」

★ゲスト★諸越 瑛士(もろこし えいじ)
トウモロコシのでんぷんから生まれたオイルゲル化剤。正式な名前は、「シーエージー(C-AG)」。仲間たちと力を合わせて、いろんな液体を固めるパワーを持つ。最近、農研機構の岩浦 里愛さんによって、“アスファルトを頑丈にする”という新たな能力を開花させた。

~諸越 瑛士、その正体はオイルゲル化剤C-AG~
ワン:諸越 瑛士さん、ヒーロー認定、おめでとう!そして、アフタートーク「ワンの部屋」にようこそ。お、アスファルトくんも一緒なのね。今年の夏もドロッドロに溶けそうな暑さだったけど、モロコシパワーでばっちり固まってるわね。

猫田:ほんとだ。アスファルトくんがデコボコしてない。モロコシ先生、恐るべし!

諸越 瑛士(以下、諸越):モロコシモロコシって言うけど、ぼくの本当の名前は、「シーエージー(C-AG)」。トウモロコシやイモ、米にたくさん含まれるでんぷん由来の物質を使ったオイルゲル化剤なのさ。化粧品に薬にインクと、いろんな液体を固めることが得意だけど、まさかアスファルトまで固めることができるなんて、自分でも驚きだったよ。

ワン:そうよね、トウモロコシがアスファルトを頑丈にして、みんなの大事な道路を守るなんて、思いもよらなかったわ。そんなことができるのは、あなたの「自己集合」というスゴ技のおかげなのよね。

諸越:そのとおり。ぼくのなかの小さな分子たちが勝手に集まって、やがて張り巡らされた網の目のような立体的な構造物を作るのさ。そこにアスファルトくんの分子たちが挟まると身動きできなくなって固まってしまうんだ。

アスファルト:はい、そのとおりでございます。今までは、道路の温度が60度以上になると溶けてドロドロ、デコボコになっていましたが、モロコシ先生のおかげで、ワタクシたちは、70度でも固まっていられる“モロコシアスファルト”へと生まれ変わったのでございます。

ワン&猫田:わあ、アスファルトくん、かっこいい~。

~「自己集合」でアスファルトを固める~
ワン:自己集合といえば、DNAの二重らせん構造も自己集合の現象なのよね。あなたを開発した岩浦さんは、自己集合に魅せられて、ずっとこの研究を続けてきたと聞いているわ。

諸越:岩浦さんは、肉眼では見えないけれど、顕微鏡でのぞいたときに想像もつかないようなおもしろい構造ができているのが楽しくて、いろんな分子を作ってはどんな集合体ができるのか、ワクワクしながら研究していたそうだよ。

ワン:それはたしかに楽しそう!ひとりでに集まって複雑な構造物を作る自己集合って本当に不思議。外から熱や力を加える必要がないから、エネルギーをすごく削減できるのよね。めっちゃエコ!

諸越:その力を使って、何か社会の役に立てないだろうかという岩浦さんの熱い思いが、ぼくの開発とアスファルトを固める改質剤への応用につながったそうなんだ。

ワン:いま使われている石油系の改質剤は、アスファルトが相当高温になるまで溶け出さないという優れものだけど、アスファルトに混ぜ込むには180度前後の高温で何日間も、長いときは1か月間も加熱し続けなければならないという問題があるのよね。

猫田:そうすると、たくさんのエネルギーが必要になるし、作業する人も暑くて大変だよな。考えただけで溶けそうだ~。

諸越:そのとおり。その点ぼくは、アスファルトに混ぜて130度の温度で30分程度加熱するだけでOK。あとは冷える間に、「自己集合」でしだいにアスファルトが固まっていく。石油系の改質剤より、加熱温度を約50度下げられるから、計算上はエネルギーコストとCO2排出量を最大で40パーセントくらい削減できると考えられているんだ。

ワン:C-AGって環境に優しいのね。

諸越:それに加えて、ぼくのもとになるでんぷんを含む植物は、生産サイクルが1年と早いことが大きな強みなんだ。

ワン:なるほど。石油は限りある資源だから、持続可能性のある植物性の資源を材料としたアスファルト改質剤があると安心ね。

~実用化に向けた課題とは?~
猫田:ところで、C-AGをどのくらい入れると、アスファルトは固まるの?

諸越:アスファルトの量に対して、1~2パーセントくらい混ぜると効果が出ると考えられているよ。

猫田:たったそれだけで?すごいパワーだ!

諸越:600平方メートルの道路を舗装するのに必要なアスファルトの量はだいたい10~15トンくらいとされているんだ。だから、C-AGは100~150キログラムくらい必要ということになるよ。

ワン:600平方メートルっていうとどれくらいの広さかしら?

猫田:昔、おじいちゃんが、「学校の体育館の面積は600平方メートルくらいじゃな」って言ってたような・・・。

ワン:さすが猫田家の知恵袋。それにしてもなんて使いづらい、豆知識。

猫田:そうすると、体育館一面くらいの広さの道路を固めるのに、だいたいお相撲さん1人分くらいのC-AGが必要ってことか。

ワン:えっ、なんでそこで急にお相撲さんが出てくるの?

猫田:ほら、そう考えるとイメージがわくでしょ。だから、実際に道路の舗装に使おうと思ったら、お相撲さん100人分?1,000人分?10,000人分?え~と、え~と・・・。

ワン:ちょっとちょっと猫田さん、お相撲さんで考えるのはもういいわ。ありがとう。とにかく実用化を考えると、すごい量のC-AGが必要になるってことは分かったわ。

諸越:そうなんだ。だからこれからは、ぼくを数十トン規模で作る技術も必要になってくるんだ。それと、製造コストの削減にも取り組む必要があるね。そういった課題も含めて、岩浦さんたちは、これから5年くらいで実用化のめどをつけることを目標にしているよ。

猫田:そうすると、いつか日本のどこかに“モロコシロード”ができるってことか!楽しみだなあ~。

ワン:道路っていつもすぐそばにあって当たり前のように存在しているけど、人間の生活を支えるすごく大事なインフラなのよね。道路の大切さを改めて実感したわ。あなたの力で人間の暮らしと、そして地球の環境を守って。これからの活躍に期待しているわ!


企画・制作:科学技術振興機構(JST)
アドバイザー:村松 秀(近畿大学 総合社会学部 教授)、早岡 英介(羽衣国際大学 現代社会学部 教授)