参加者インタビュー
日印連携が加速する国際頭脳循環
——JST「LOTUSプログラム」が生み出す高度外国人材獲得と産学官イノベーションの最前線
2024年度LOTUSプログラム経験者に迫る:ARAVIND ASHWIN氏(富士通株式会社)
近年、世界有数のAI・IT大国として躍進し、独自のイノベーション・エコシステムを構築しているインド。その中核を担うインド工科大学(IT)等に所属する優秀な若手研究者を日本へ招へいし、日印の共同研究を通じて国際的な頭脳循環を促進するのが、JSTが推進する「LOTUSプログラム」です。
今回は、本プログラムを通じて京都大学での研究活動を行ったインド出身の当時、博士課程であった学生が、経済産業省主導の企業インターンシップに参加し、最終的に富士通株式会社への就職を果たした画期的な事例をご紹介します。本事例の最大の特徴は、招へいされた学生が、世界最高峰の理系頭脳が集うインド屈指のトップ大学「IITボンベイ校」に所属する極めて優秀な人材であった点にあります。
高度な数理・AI技術の社会実装を目指すトップエリートは、なぜ研究・活躍の場として日本を選んだのか。そして、激化するグローバル人材獲得競争の中で、受け入れ企業は本プログラムの枠組みにどのような戦略的価値を見出したのか。政策・大学・産業界が一体となった「高度外国人材獲得の成功モデル」として、双方の視点から迫ります。
招へい者のご紹介

-
アラヴィンド・アシュウェン(ARAVIND ASHWIN)氏
インド屈指のトップエリート輩出校であるインド工科大学(IIT)ボンベイ校(ムンバイ校)の博士課程在籍時、指導教員からの勧めを契機にJSTさくらサイエンスプログラム、およびLOTUSプログラムを通じて来日。京都大学での研究滞在を経て、経済産業省との連携プログラムである日本企業でのインターンシップに参加。独自の数理制御モデルと最新技術の融合を追求し、最終的に富士通株式会社への就職を実現した。
【LOTUSプログラム採択課題名】 学習と最適化を統合した頑健な制御系設計の数理基盤
・日本側実施主担当者:京都大学 大学院情報学研究科 大塚 敏之 教授
・インド側実施主担当者:インド工科大学ボンベイ校 デバシシュ・チャタジー 教授
招へい者インタビュー:理論から社会実装へ。日本が提供する「最高の研究・開発環境」
Q1. 日本に関心をもったきっかけと、大学・大学院での研究領域について教えてください。
A1. インド工科大学では電気電子工学を専攻し、タイヤ製造会社で電気設備保全エンジニアとして勤務した経験を経て、「科学技術の発展により深く貢献したい」とシステム制御工学の道へ進みました。大学院では、制御・最適化アルゴリズムをはじめとする高度な数理的理論研究に没頭していましたが、次第に「この理論を現実の物理システムに統合したい」と考えるようになりました。 日本には、Hondaをはじめ伝統的にロボティクス工学の強固な基盤があり、優れた研究環境が整っています。指導教員の勧めもあって参加したJSTさくらサイエンスプログラムでの訪日経験を通じ、自身の理論をロボティクスなどの応用領域へと展開させる上で、日本こそが成長のためのベストな環境であると確信しました。
Q2. LOTUSプログラムでの経験は、その後のキャリアにどう影響しましたか?
A2. インド帰国後も日本での研究機会を模索していた私にとって、LOTUSプログラムはまさに求めていた架け橋でした。京都大学の大塚先生の研究室では、古典的な制御アプローチと近代的な学習アルゴリズムを融合させる研究に従事しました。 インドおよび京都大学での研究は主に理論面が中心でしたが、富士通では、そうした理論を実際のハードウェアに「実装」し、検証できる非常に恵まれた環境を得ることができました。自身の理論的アプローチが、周辺の先端分野とどのように結びつき、実社会のシステムへと応用されていくのかを明確にイメージできたことが、大きな転機となりました。
Q3. インターンシップへの参加、そして日本企業(富士通)への入社の決め手を教えてください。
A3. 先端技術の「社会実装」に強い関心があり、日本企業でのインターンシップに参加しました。富士通では非常に手厚いサポートを受けつつ、「まずは自身で仮説を立ててやってみる」という大きな裁量を与えられ、課題達成のプロセスを心から楽しむことができました。 自身が培ってきた数理的理論やAIの知見を、実践的かつ最先端の産業ニーズ(フィジカルAI等)に直接結びつけながら発展させることができる環境であると感じ、入社を決断しました。
Q4. LOTUSプログラムを通じた来日を検討している海外の学生や若手研究者へメッセージをお願いします。
A4. 日本の大学や企業は、言語の壁を越えて最新の科学技術に挑戦できる開かれた環境を提供してくれます。私自身、日常業務の多くは英語で行っており、研究活動において大きな支障を感じることはありません。研究に取り組むだけでなく、日本の豊かな文化や多様な人々との交流を存分に楽しみ、自身のキャリアの可能性を大きく広げてほしいと思います。
企業ご担当者インタビュー:グローバル人材獲得の「新しい可能性」安部 登樹 氏
Q1. 今回、インドからの高度人材をインターンシップで受け入れた背景を教えてください。
A1. 弊社はインド現地に子会社や研究所を構えており、これまでも現地での新卒採用・リクルート活動に積極的に注力してきました。しかし、従来の「数回の面接で採用を決める」プロセスでは、候補者の技術的ポテンシャルや、未知の課題に対する思考プロセス、チームへの適応力などを十分に把握することが難しいという課題がありました。 インターンシップであれば、実際の開発現場で共に働きながら、履歴書だけでは分からない「実践力」や「人柄」を双方で確認することができ、ミスマッチの低減にもつながります。真に優秀なグローバル人材を獲得する手法として、非常に魅力的な選択肢だと考えました。
Q2. 実際に受け入れてみて、現場での評価はいかがでしたか。
A2. 結論から言えば、我々の当初の期待を上回る非常に高度な専門知識、スキルを持った人材でした。インドでの採用実績に照らしても、技術力と主体性の両面で優れた人材であると評価しています。 弊社では現在、現実空間で人と協調活動するAI技術である「フィジカルAI」の研究を新たに立ち上げたばかりです。日常生活の中で人と複数のロボットが協働するための技術群を束ねるFujitsu Kozuchi Physical OSの研究開発に注力しています。彼はフィジカルAIそのものの研究経験が豊富だったわけではありませんが、世界最高峰のIITボンベイ校で培った高度な数理制御の知見を応用し、自発的に課題を設定して次々と研究を前に進めてくれました。稼働開始からわずか2ヶ月弱で、チームにとって不可欠な存在となっています。
Q3. インターンシップから正式採用に至った最大の決め手は何でしょうか。
A3. 最も高く評価したのは、「仮説を立て、先を見据えて自律的に行動できる力」です。私たちが取り扱うAIやロボティクスの最先端分野は、技術進化のスピードが極めて速く、与えられたタスクをこなすだけの人材では太刀打ちできません。彼がインターンシップで証明してくれた「自ら新しい技術の潮流を読み取り、実践的な解決策を提示する力」は、まさに私たちが求めていたものでした。
Q4. 海外人材の受け入れにあたり、言語や文化の壁への懸念はありませんでしたか。
A4. 大きな障壁にはなりませんでした。研究開発現場では、海外の共同研究先での議論はもちろん、社内でも海外の研究員とのやり取りが多く、英語を日常的に使用しています。また、彼自身が非常に積極的で、日本語ネイティブのメンバーともランチに行くなど、自ら関係性を構築してくれました。多様なバックグラウンドを持つ彼の存在が、組織全体に良い刺激と活力を与えてくれています。
Q5. 産学官連携の視点から、LOTUSプログラムのような仕組みの価値をどう捉えていますか。
A5. 企業単独の採用活動では、IITボンベイ校のような海外トップ大学の極めて優秀な層と深く接点を持つことは容易ではありません。同様に、海外の学生にとっても日本の産業界の魅力を直接知る機会は限られています。 JSTのプログラムにより、大学間の共同研究を基盤として、企業でのインターンシップ、さらには国内就職へとつながる一連の流れが構築されている点は、産学官連携により人材育成・獲得の仕組みとして意義のある取り組みであると感じています。今後、受け入れ時の生活支援などの制度面がさらに充実することで、日本全体における人材交流やイノベーション創出を牽引する強力な基盤になるはずです。企業としても、この卓越した取り組みがさらに拡大していくことを強く期待しています。