本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。
近年、ポストゲノムの流れとして、プロテオーム解析技術が注目されています。これは蛋白質の量的、質的な変化を網羅的に解析することのできる技術です。病気には多くの蛋白質が複雑に関わっているため、健常時と比べて体内で発現している蛋白質に違いがあります。その違いを解析すれば、疾病の診断に応用できる有効な手段になると考えられます。 従来の臨床検査法は、病態を反映する一つの蛋白質の量的な変化を測定して病気の有無を診断しています。しかしながら、病気の発症、重篤化、治癒に至る過程では多くの蛋白質が複雑に関わっており、単一因子の測定だけでは疾病の進行度など病態の把握に結びつかない場合もあります。 プロテオーム解析法による疾病診断法は、病態に関係して変化する複数の蛋白質の情報が得られるために、より正確で詳細な病態、病勢を把握することができると考えられます。本技術では非侵襲的に採取できる尿検体を用い、尿に病態が反映されると考えられる膀胱癌の診断法を開発しました。
本新技術は二次元電気泳動法を用いて、検体中の蛋白質を展開して解析し、病態を反映する複数の蛋白質の情報から疾病の検査を行います。今回は膀胱癌の検査法を対象に開発を行いました。具体的な方法は、尿を群特異性アフィニティー担体のひとつであるゼラチン固定化ビーズと反応させ、そこに吸着する蛋白質を二次元電気泳動法によって分離し、ゲル上に展開されたフィブロネクチン(FN)とその断片、2種類のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP-2, MMP-9)の各スポットの強度の合計値から癌の浸潤の度合い(進行度)の情報を得ることができます。新技術の工程は、次の通りです。 (1) 尿検体を透析により脱塩する。 (2) ゼラチン固定化ビーズと反応させ、吸着する蛋白質群を得る。 (3) 二次元電気泳動法により蛋白質を分離する。 (4) 検出されたFNとその断片, MMP-2, MMP-9 のスポット強度を測定し、それらの総和値(診断スコア)から病態を把握する。
本技術には、次のような特徴があります。 (1)複数の尿中蛋白質の情報を一度の検査により得ることができる。 (2)膀胱癌の治療方針に重要な、癌の進行度を把握できる。 (3)非侵襲的に採取が可能な尿から膀胱癌の情報を得られるので、患者への負担が少ない。 本技術による検査結果と実際の臨床との相関性は、有病正診率 73%、無病正診率 81% でした。 膀胱癌患者は毎年人口10万人当たり17人程度新たに発生し、ほとんどが50歳以上で、女性より男性で3倍から5倍ほど発生頻度が高いのが特徴です。また、治療後の再発率は一年以内で50%、三年以内で80%と非常に再発しやすい癌としても知られています。このことと上記特徴から、以下の用途への利用が期待されます。 (1) 膀胱癌患者の再発のモニタリング (2) 膀胱癌の進行度の判定 (3) 抗癌剤の効果判定 【用語解説】
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