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科学技術振興機構報 第934号

平成25年2月7日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

変身ロボットを実現するベンチャー企業設立
(JST若手研究者ベンチャー創出推進事業の研究開発成果を事業展開)

JST(理事長 中村 道治)は産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進しています。

平成21年度より横浜国立大学に委託していた研究開発課題「ロボットへの仮想キャラクタ映像合成システムの開発」において、拡張現実注1)を利用した変身ロボットの開発に成功しました。また、この成果をもとに平成25年1月8日(火)、研究開発担当者が出資して「株式会社異次元」を設立しました。

これまで、天気予報などで現実世界にコンピューター・グラフィックス(CG)物体が存在するかのように、合成映像を体験できる複合現実感と呼ばれる技術が開発されています。一方、近年ではヒューマノイドロボットの研究開発が盛んで、一般向けのホビーロボットも普及してきています。しかし、複合現実感の技術とロボット技術を組み合わせた事例は、それほど多くありません。

本研究開発では、現実のロボットをCGの人物像で塗りつぶしてロボットが変身したように見せる技術『バーチャルヒューマノイド』を開発しました。従来より同様の技術開発が試みられていましたが、ロボットとCGとのずれが目立ち不自然さが感じられるものでした。本技術では、このずれを独自の画像処理により工夫し、違和感の少ない画像合成を実現し、完成度の高い製品を作りました。

ユーザーは、ビデオカメラと一体となったヘッドマウントディスプレイ注2)を装着すると、目の前のヒューマノイドロボットがCGの人物に変身した映像を体験できます。ロボットを動かせば、連動してCGも動きます。会話のやりとりもできます。これによって、映像の人物との握手のような身体接触を伴う体験が実現します。娯楽用途だけではなくロボット技術が発展し精密な動きを再現できるようになれば、将来的には名選手や名演者との共演を通じた教育やトレーニングなどのさまざまな用途に活用可能と考えられます。

今後は試験的に個人向け開発キットの販売を行い、利用者の意見を反映して活用範囲を広げる提案を行っていく予定です。

今回の企業の設立は、以下の事業の研究開発成果によるものです。

若手研究者ベンチャー創出推進事業

研究開発課題 「ロボットへの仮想キャラクタ映像合成システムの開発」
JST起業研究員 庄司 道彦(横浜国立大学 成長戦略研究センター 中核的研究機関 研究員)
研究開発期間 平成21~23年

若手研究者ベンチャー創出推進事業では、起業意欲のある若手研究者が、大学の起業支援組織(ベンチャー・ビジネス・ラボラトリーなど)から施設の提供やビジネスプラン作成への助言などの支援を受けつつ、自らが関与した研究成果を実用化するための研究開発を行い、ベンチャー企業の創出や事業展開に必要な成果を得ることと、若手研究者の起業家へのキャリアパス形成を促進することを目的としています。本事業は、現在、「研究成果最適展開支援プログラム【A-STEP】」に発展的に再編しています(詳細情報:https://www.jst.go.jp/a-step/)。

今回の「株式会社異次元」設立により、JSTの「プレベンチャー事業」、「大学発ベンチャー創出推進」、「若手研究者ベンチャー創出推進事業」および「A-STEP」によって設立したベンチャー企業数は、124社となりました。

<開発の背景>

実環境を撮影した映像に、CGをその場でほとんどコマ遅れを生じさせずに合成した映像を提示する複合現実感と呼ばれる技術について、大学をはじめとする研究機関で1990年代より研究開発が行われてきました。一方、日本ではヒューマノイドロボットの研究開発が盛んで、ホビーレベルのロボットは技術的に成熟しつつあります。また、ビデオゲーム業界ではゲームを単なる娯楽ではなく、教育・トレーニングなどに積極的に活用する“シリアスゲーム”と呼ばれる潮流が生まれており、この分野にバーチャルリアリティーの技術が活用され始めています。

本研究開発では、複合現実感の技術を用いて現実のロボットにCGキャラクターを重畳合成する全く新しい形態のロボット『バーチャルヒューマノイド』を開発しました。ユーザーはビデオカメラと一体となったヘッドマウントディスプレイを装着すると、目の前のヒューマノイドロボットにCGの人物が上書きされた映像を体験できます。このような、映像の人物との握手のような身体接触を伴う体験が提供可能なシステムは、娯楽用途だけではなく、ロボット技術が発展し精密な動きを再現できるようになれば、前述のシリアスゲームのように名選手や名演者との共演を通じた教育やトレーニングなどのさまざまな用途に活用可能と考えられます。

<研究開発の内容>

庄司研究員が2006年に開発した変身ロボットは、今回開発したものと基本的に同じ原理で、緑色のロボットに、映画の特撮に使うブルーバック合成注3)の手法を利用して人物映像を合成し、ヘッドマウントディスプレイを装着して合成映像を体験するものでした(図1)。これは等身大で非常に高価なシステムであっただけでなく、ロボットは合成される人物映像よりも太っていなければ、人物の映像周縁部が欠けてしまうという欠点がありました。また、合成される人物映像のコンテンツは録音されたセリフの再生をするだけで、ユーザーとの会話のやりとりができませんでした。

今回のシステムは、ブルーバック合成した映像をヘッドマウントディスプレイで体験するというスタイルは以前のシステムと共通ですが、以下の特徴があります。

<今後の事業展開>

再生コンテンツを自作できるユーザー向けにキットとして2013年3月に予約受付を開始する予定です。販売目標は初年度120セット、翌年度180セット、翌々年度270セットを目指します。

<参考図>

図1

図1 2006年に開発された従来型複合現実感による変身ロボットのイメージ

ユーザーはビデオカメラ一体型ヘッドマウントディスプレイを通して、ロボットがCGの人物像で塗りつぶされた合成映像を体験します。CGの人物とロボットは、常に同じポーズを取るように同期して動きます。緑色の領域にしか画像が合成されないため、CGの人物の髪の毛などがはみ出た分は表示されません。そのため、できるだけ映像が欠けないようにロボットを太らせる必要がありました。

図2

図2 試作した成人の60%サイズの変身ロボット
   横のペットボトル(280ml)はサイズ比較用。

高さは35cm。ひじのみ可動するソフトウエア動作確認用の試作です。現在、製品化目指して製作中のモデルは首(前後、左右、ねじり)、肩(前後、左右、ねじり)、ひじ、前腕のねじりが可能となっている。

図3

図3 今回開発した変身ロボットの合成イメージ

基本的な原理は従来のものと同一ですが、合成アルゴリズムの高度化により緑色の領域からはみ出た部分の映像も表示されるようになりました。

<用語解説>

注1) 拡張現実
拡張現実(augmented reality)または複合現実(mixed reality)とは、現実空間にコンピューターで文字情報や映像を付加した合成映像をディスプレイやビデオゴーグル越しに体験できるようにした、バーチャルリアリティーの一手法のこと。
注2) ヘッドマウントディスプレイ
眼鏡のように装着して使用するゴーグル型のディスプレイ装置のこと。レンズに相当する部分に映像が表示される。
注3) ブルーバック合成
特撮の一手法で、青や緑のスクリーンの前で俳優に演技させ、単色の背景領域のみを抽出して別映像に置き換える手法。
注4) MMDAgent
名古屋工業大学 国際音声技術研究所(代表:徳田 恵一 教授)が開発・公開しているソフトウエア。画面上のキャラクターと会話ができるシステムを構築することができる。

<添付資料>

参考:企業概要

<お問い合わせ先>

株式会社異次元
〒240-8501 神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79-5(横浜国立大学 VBL内)
庄司 道彦(ショウジ ミチヒコ)
Tel:045-339-4285 Fax:045-339-4285
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 産学連携展開部
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加藤 豪(カトウ ゴウ)
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