JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第906号別紙2 > 研究領域:「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」
別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「二酸化炭素の効率的資源化の実現のための植物光合成機能やバイオマスの利活用技術等の基盤技術の創出」
研究領域:「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」
研究総括:磯貝 彰(奈良先端科学技術大学院大学 学長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
秋山 拓也 東京大学 大学院農学生命科学研究科 助教 化学反応性に則したリグニン高分子構造の解析 通常型 3年 木質化した細胞壁にはリグニンが多く含まれますが、この高分子構造を理解することにより木質系バイオマスの有効利用への貢献が期待できます。リグニンの基本構造を保持したまま低分子化することができれば、木部細胞壁のほぼ全ての成分をバイオマスとして高付加価値に利用するための道筋を示すことができます。本研究では、その低分子化反応の際に要となる化学構造の詳細を示し、リグニンの高分子構造の実態解明に迫ります。
有村 慎一 東京大学 大学院農学生命科学研究科 准教授 植物ミトコンドリアゲノム人為改変技術と雄性不稔植物の作出 通常型 3年 植物ミトコンドリアは二酸化炭素資源化・物質生産力強化のための重要な改良ターゲットです。しかしながらいまだにそのゲノムを人為的に改変することができないため、潜在能力を生かしきれていません。本研究は、人工制限酵素などを用いて植物ミトコンドリアゲノム上の標的遺伝子破壊・改変に挑戦します。また、この過程でF1ハイブリッド育種に重要な細胞質雄性不稔系統の作出、並びに新規遺伝子導入技術の確立に取り組みます。
千葉 由佳子 北海道大学 創成研究機構 特任助教 ショ糖過剰ストレス耐性に関わる転写とmRNA分解の協調制御 通常型 3年 植物にとってショ糖は生育およびバイオマスに影響を与える重要な要素であり、その量は厳密に調節されています。私はこれまでにショ糖応答に関連した遺伝子発現制御では、転写制御に加えてmRNA分解制御が重要な役割を担っていることを見出しています。本研究ではその協調制御システムを解明することによって、植物の持つ優れた環境適応能力をバランスよく増強し、環境変化に強い植物を作成することにつながる知見を得ることを目指します。
塚越 啓央 名古屋大学 高等研究院/大学院生命農学研究科 特任助教 バイオマス生産性を支配している細胞機能転換転写制御ネットワークの人工構築 通常型 3年 植物の根は外環境と密接に関わり、根のバイオマス向上は植物全体のバイオマス生産性の向上につながります。本研究では、根端の分裂から伸長への機能転換を司るUPBEAT1(UPB1)が制御する転写ネットワークに着目します。多色蛍光ライブイメージングとシステム生物学を組み合わせ、UPB1転写ネットワークの人工構築を試みます。最終的には根の細胞機能転換の人工制御によって根の成長を促進し、それを通じて植物全体のバイオマス生産性の向上を図る技術を創出します。
中島 清隆 東京工業大学 応用セラミックス研究所 助教 固体ルイス酸による高効率バイオマス変換:植物由来の炭化水素類の必須化学資源化 通常型 3年 本研究では、現在化石資源に依存しているエンジニアリンングプラスチックなどの必須化学品原料を、バイオマス由来の含酸素炭化水素類を材料として、環境低負荷な化学プロセスで獲得するための基盤技術の構築を目的としています。高機能な固体触媒の創出およびその高機能化・高性能化を図ることにより、環境低負荷と高い効率を併せ持つ、バイオマス資源を原料としたバルクケミカル、ファインケミカル合成の基礎技術を確立します。
永野 惇 京都大学 生態学研究センター 日本学術振興会特別研究員(PD) フィールドオミクスによる野外環境応答の解明 通常型 3年 実験室とは異なり、温度や光などが刻一刻と複雑に変化する野外環境下では、植物はどのように環境に応答しているのでしょうか?本研究では、野外で栽培したイネのトランスクリプトームやメタボロームのデータを収集し、栽培地の気温や日射量などの気象データと統合的に解析することで、この問題にアプローチします。植物の栽培における野外と実験室のギャップを埋める本研究は、これまでに実験室で蓄積された膨大な知見を現実の問題解決につなげるための基盤となります。
平野 展孝 日本大学 工学部 准教授 セルロース/ヘミセルロース/リグニン分解酵素群の集積・近接化による協働作用の創出 通常型 3年 次世代バイオ燃料製造分野における植物性バイオマスの効率的酵素糖化には、セルロース/ヘミセルロース/リグニン分解酵素群の協働作用の創出が重要と考えられます。本研究では、糖質(セルロース/ヘミセルロース)画分に対して高分解活性を示す酵素複合体(セルロソーム)を対象に、その酵素組成―糖化活性相関の解明と、酵素集積・近接化によるセルロソームとリグニン分解酵素群の協働作用のための基盤技術の創出を目標とした研究を行います。
藤本 龍 新潟大学 大学院自然科学研究科 助教 雑種強勢の分子機構の解明とその高バイオマス作物への活用 通常型 3年 植物の生産量を増加させるためには、バイオマスの増加に関する分子機構の解明や、それに関わる遺伝子の同定が必要です。本研究では、収量増加に対する効果が既に明らかとなっている雑種強勢に関わる遺伝子の同定を試みます。また、同定された遺伝子の機能を明らかにし、育種の効率化、高バイオマス作物の作出に活用し、ナタネ等の有用作物の生産量の増加を可能にしたいと考えています。
松本 謙一郎 北海道大学 大学院工学研究院 准教授 光合成と連動するバイオポリマー合成系の構築 通常型 3年 本研究では、植物が持つ二酸化炭素の固定能力と微生物が持つポリエステルの合成能力を融合させ、新たなバイオマテリアルを生産するシステムを構築します。植物が光合成により合成する化合物から、ポリエステルの原料となるモノマーを合成し、それを重合させることでポリエステルを得ます。これらの反応を可能にするために、天然には存在しない新たな代謝経路を構築し、植物細胞内で機能させることを目指します。
山口 礼子 京都大学 大学院生命科学研究科 助教 miRNAによる植物の年齢制御メカニズムの解明と応用展開 通常型 3年 桃・栗三年、柿八年と古くから言われるように、植物の年齢は花を咲かせるまでにかかる年数として認識されてきましたがそのメカニズムは不明でした。近年、小分子RNAの一種miR156が、植物の年齢制御に関わることが示されました。本研究では、植物の年齢を人為的にコントロールし物質生産力を最適化する基盤を確立するために、miR156の機能や蓄積メカニズムを明らかにし、それを制御する化合物の探索を行います。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括: 磯貝 彰(奈良先端科学技術大学院大学 学長)

本研究領域は、植物の光合成能力の増強を図るとともに、光合成産物としての各種のバイオマスを活用することによって、二酸化炭素を資源として利活用するための基盤技術を創出することを目的としています。具体的には、(1)光合成制御機構の統合的理解と光合成能力向上についての研究、(2)環境適応機構の解明に基づく光合成能力向上や炭素貯留能向上および有用バイオマス産生についての研究、(3)バイオマス生合成・分解機構の理解とその活用技術の研究を対象としています。

募集の結果、幅広い分野から116件(大挑戦型:13件)の応募がありました。各研究提案について、書類選考では10名の領域アドバイザーおよび9名の外部評価者の協力を得て、21件を面接選考の対象としました。続いて、11名の領域アドバイザー出席のもと面接選考を行い、研究分野の多様性なども考慮し、最終的に10件の優れた研究提案を採択しました。なお、選考にあたっては、個人型研究であるというさきがけとしてふさわしい研究提案を選考するために、提案内容と提案者の独立性や独創性、挑戦性についても重視しました。また、他制度による助成についても留意しました。また、選考にあたっては利害関係者の評価への関与を避けたことは言うまでもありません。

本年度は非常に広い分野からの提案があり、様々な切り口からバイオマス増産を目指す植物研究だけでなく、基礎研究の成果を応用していく上で欠かせない視点を与える研究や、バイオマスの構造解析と分解、活用技術の研究についても優れた提案を採択することが出来ました。昨年度採択された課題を含め研究領域の多様性が増し、更なる議論の活発化を期待しています。

昨年度と同様に、基礎科学として優れているものの、本研究領域の目的である二酸化炭素の資源化に向けて必要と考えられるブレークスルーやそのブレークスルーをどのように達成しようとするかという点が明確でない研究提案を多く見受けました。基礎科学として優れたものであっても、この説明が欠けている場合は不採択としました。来年度が最後の募集となりますが、まず解決したい課題を設定し、その解決方法へのアプローチとそこに自分の研究の現状がどのように役に立つのかを示していただきたいと思います。その意味では、ボトムアップ型の科研費の申請とは研究目的や計画の設定が大きく異なることをご理解ください。また、昨年度の不採択理由を参考にして内容を修正した上で、再提案していただいた結果、本年度採択となった研究提案もあります。新たな提案に限らず、不採択であった方も指摘事項について検討した上での再応募をお待ちしております。大挑戦型については、残念ながら本年度も採択はありませんでしたが、研究方法などのリスクとその解決方法を示した上での多くのチャレンジをお待ちしています。

本研究領域は、CRESTと共同運営していきたいと考えています。採択された研究者の方々には、本研究領域の利点を有効に活用して交流を広げ、本研究領域が目指す課題の達成に向けて、大いに活躍していただきたいと考えています。