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別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「環境・エネルギー材料や電子材料、健康・医療用材料に革新をもたらす分子の自在設計『分子技術』の構築」
研究領域:「分子技術と新機能創出」
研究総括:加藤 隆史(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
青木 伸之 千葉大学 大学院融合科学研究科 准教授 万能性基幹分子による再生型エレクトロニクス創生 通常型 3年 既存の半導体は複数種類の金属で構成されているため、再生再利用プロセスが妨げられています。本研究では、フラーレン分子を「万能性基幹分子:PS分子」として利用する、再生型フレキシブルエレクトロニクスの構築に挑戦します。フラーレン分子間の結合状態の違いで「金属」、「半導体」、「絶縁体」の機能を創発し、フラーレンだけで電子回路を構成します。使用後の再利用も可能で、プロセスもドーピングなどが不要になる画期的なフレキシブルデバイスとなります。
石井 宏幸 筑波大学 大学院数理物質科学研究科 助教 高性能有機材料創出のための分子描像に立脚した大規模量子伝導計算理論の確立とその応用 通常型 3年 実用化のための有機材料研究で重要な点は、無限の多様性を持つ有機分子性材料の中からいかにしてトランジスターや太陽電池などに有用な高性能材料を構築できるかにあります。本研究では、分子レベルから数値計算により高精度に伝導物性を解析・予測できる量子論的伝導計算手法を確立し、これを用いて高性能有機材料創出のための分子設計の指針を提案します。
長田 健介 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 pDNAの量子化折り畳み構造形成の解明と遺伝子送達への応用 通常型 3年 本研究では、標的とする細胞へ治療用遺伝子を送達する遺伝子キャリアの開発を行います。第一に注力するのはDNAがどのように折り畳まれ、キャリアにパッケージングされるのかという遺伝子キャリアの構造形成原理を理解することです。その上で遺伝子発現に至る各ステージにおける特性評価を行い、治療戦略に最も適しているパッケージング構造へ制御する“オーダーメード型遺伝子キャリア”を創製し、遺伝子治療効果を飛躍的に向上させます。
葛谷 明紀 関西大学 化学生命工学部 准教授 核酸ナノ構造を活用したトポロジカル超分子合成技術の創成 通常型 3年 本研究では、さまざまな合成分子を、知恵の輪(カテナン)、フラフープ(ロタキサン)、結び目、といった複雑なトポロジー(かたち)に正確に組み上げる新しい技術を開発します。そのために、設計通りの種々のナノ構造を自在につくる手法が確立しているDNAを、トポロジーを制御するための道具として最大限に活用します。
齊藤 尚平 名古屋大学 物質科学国際研究センター 助教 「π電子系を動かす」技術に基づく新規機能材料の創出 通常型 3年 π電子系化学は、有機FET、有機ディスプレイ、有機太陽電池といった現代の有機エレクトロニクスを根底から支えています。特に、どのように目的に応じたπ共役分子を設計するかは、これらの材料の性能を直接左右することから、全ての電子材料にとっての死活問題となります。本研究では、「π電子系を動かす」というアイデアのもと、さまざまな動的物性を備えた分子群を開発し、次世代の光電子機能材料を創出することを目指します。
杉原 伸治 福井大学 大学院工学研究科 准教授 ナノ分子材料を目指した自己組織化高分子の精密直接水系重合 通常型 3年 天然脂質に見られるような低分子界面活性剤は、水中で自然に自己組織化し、ミセルやヘキサゴナルやラメラといった機能性分子集合体を形成します。これらは、濃度や温度に依存し、容易に形態を変化します。本研究では、この自己組織化理論を低分子から逐次組織化し反応する精密重合技術に適用し、形状やそのサイズを直接コントロールできる“選択的ナノ組織化直接水系重合法”を確立し、新規なナノ分子材料の構築を目指します。
東口 顕士 京都大学 大学院工学研究科 助教 超分子構造体の光誘起形態変化と光駆動物質輸送 通常型 3年 超分子構造体は有機分子が水中で特有の配列状態になったものです。光反応性有機色素を用いて超分子構造体を作ると、分子の形状が光反応前後で大きく変化して、構造体の形態や運動性も光可逆的に変化させることが可能になる場合があります。本研究では、この性質を利用して、水中での光駆動物質輸送を目指します。例えばベシクル形成による物質取り込みと輸送や、ブラウン運動モーターによる物質輸送を目標としています。
牧浦 理恵 大阪府立大学ナノ科学・材料研究センター 特別講師 液相界面を利用した高配向性機能分子膜の創製 通常型 3年 有機材料を用いた光電変換素子において、電荷を効率良く分離させる場を多く設け電子・正孔の迅速な移動パスを構築する研究開発が重要なテーマとなっています。また、素子作製は簡便で低エネルギープロセスであることが実用化には不可欠です。本研究では、液相界面で分子が自己組織化しかつ配向する仕組みを利用して、電子供与性分子のカラムと電子受容性分子のカラムがナノレベルで交互に規則配列した分子膜を作製する技術を確立します。
村田 靖次郎 京都大学 化学研究所 教授 炭素π共役系分子錯体の非平衡単分子界面科学 通常型 3年 構造の明確な単分子同士の界面を創出することができれば、これまでは不可能であった界面の分子レベルでの理解が可能となります。本研究では、炭素π共役分子の内部に原子を閉じ込めるという手法により、熱力学的に非平衡な単分子界面を創出します。得られた分子錯体において、包接化学種の核スピンと電子スピン制御、サブナノ空間内部での化学反応、並びに機能性材料としての応用等の分子技術へと展開します。
藪 浩 東北大学 多元物質科学研究所 准教授 バイオミメティック分子技術と自己組織化による磁性機能素子の創出 通常型 3年 本研究では、表示素子等に展開可能な磁場応答型機能性素子の創出を目指します。そのために、色素材料、および磁性応答材料表面をバイオミメティック接着分子により被覆する技術、並びに独自微粒子作製法である自己組織化析出(SORP)法により、球(粒子)の半分ずつが異なる色を有し、磁場により回転するヤヌス型微粒子を作製する技術を開発します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:加藤 隆史(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

分子を基盤とする新材料・新デバイス・新プロセス等の創出、分子材料に関する我が国の学問と産業力のさらなる発展と新たな展開、さらに社会の持続的発展に貢献するために、本研究領域においては、分子の働き・振舞いを自在に制御する「分子技術」を開拓・確立し、それにより分子材料の新機能創出を推進して行く所存です。「分子技術」を技術として確立していくために、「分子の設計・創成技術」、「変換・プロセスの技術」を基盤として、「分子の電子状態制御技術」、「分子の形状・構造制御技術」、「分子集合体・複合体の制御技術」、「分子・イオンの輸送・移動制御技術」の本質的な開発と新機能の創出を目指します。

本研究領域は、本年度24年度より26年度まで、募集を行う予定です。最初の公募となる本年は、多くの方に関心を持っていただき、きわめて多数の応募をいただきました。その数は359件(3年型のみ、大挑戦型の提案は44件)に上りました。公募説明会へも多数ご参加いただきました。環境、資源、安全安心、健康・医療問題等、地球上における様々な課題の克服と人類の永続的発展のために分子材料の貢献が分子材料に求められ、それらの低環境負荷・資源制約への対応、そして生体への高い親和性といった性質が期待されている折から、分子技術の領域設定がタイムリーなものであったとともに、重要性を理解いただけたものと考えています。説明会に参加された皆様、また応募していただいた皆様にお礼申し上げます。16名の領域アドバイザーと共に14名の外部評価者の参加を得て書類選考を行いました。面接対象の研究提案30件を選考し、2日間の面接選考を経て10件を採択しました。選考では利害関係にある評価者の関与を避け厳正な評価を行っております。

選考で重視したことは下記のようなものですが、さらに、個人研究としての主体性を持ちつつ、分野の融合・異なる分野の協力も視野に入れた提案も評価しました。

1)分子とその集合体の振舞いと性質の本質的な理解を深め、「分子技術」に大きく貢献する研究提案であること。

2)多様かつ複雑な分子の相関関係を理解して、高いレベルの機能創出に結び付けていく研究提案であること。

3)オリジナリティーの高い独創的な研究提案であること。

今年度採択された課題は、次の様な幅広く分子技術に取り組むものとなっています。

・機能発現を明確に見据えた分子の設計・合成・変換技術、

・ナノからミクロ・マクロなスケールに至る1次元・2次元・3次元の分子集合体・複合体の秩序構築技術、

・電荷やイオンの動きを制御するエネルギー・デバイス材料構築技術、

・高選択的に分子・イオンを人工膜・ミセルなどの集合構造により輸送する環境・健康・医療材料の構築技術、などに関する基盤的研究、

・材料化・応用への流れを総合的に意識した研究、分子の計測・解析技術を創出する研究

など、多彩な提案が採択されました。

本研究領域が、「分子技術」体系を構築・確立することに貢献し、新しい革新的な材料創成につながる学問体系を強化する多面的な思考やアイデアを生み出せるヘテロな集団になると期待しております。異分野の研究者を、本研究領域という共通のプラットフォームにおいて融合させて、新しい本質的な学問の構築へ展開していく所存です。

今回は、採択が非常に厳しい選考となり、採択に至らなかった提案にも優れたものが数多く見受けられました。多くの方に来年度の再チャレンジをしていただきたいと思います。来年度応募される皆さんには、次の様なことに留意をいただき積極的な応募をお願いいたします。

1)本研究領域は、分子とその集合体の振舞いと性質の本質的な理解を深め、「分子技術」に貢献する事を目指します。次回応募では、皆さんの実績と経験を踏まえつつ、この「分子技術」の主旨に沿った挑戦的かつ戦略的な研究提案を望みます。

2)「高いレベルの夢の機能創出目標」に向かって、分子技術の展開する独創的な道筋を示す研究提案であるのは勿論ですが、研究の新規性を明らかにすると共に、分子技術の概念との関係についてより具体的に記述してください。

3)自分の他人に負けない何をもってこの研究にアプローチするか、全く新しいコンセプトか、発見に基づくのか、あるいは、ユニークな手法か、関連と考えられる研究にはどのようなものがあり自分のオリジナリティーはどこにあるか、どのような夢の「分子技術」につながるのか、どのような重要問題の解決につながるのか、どのような社会を目指して提案するのか、等を的確に明示してください。

4)今回採択された提案がカバーする以外の分子材料・デバイス・プロセス分野におけるご提案も歓迎いたします。

5)また、今回の選考での指摘を受けた方は、1年間の準備の中で得られた実験データや、より深められた概念の追求・仮説等を具体的に盛り込むようお願いいたします。