JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第906号別紙2 > 研究領域:「エネルギー高効率利用のための相界面科学」
別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「エネルギー利用の飛躍的な高効率化実現のための相界面現象の解明や高機能界面創成等の基盤技術の創出」
研究領域:「エネルギー高効率利用のための相界面科学」
研究総括:笠木 伸英((独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー)
副研究総括:橋本 和仁(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 課題名 課題概要
安部 武志 京都大学 大学院工学研究科 教授 多孔性電極中のイオン輸送現象の解明と高出入力電池への展開 リチウムイオン電池に代表される蓄電池を高速に充放電反応させるためには、蓄電池に用いられている電極中でイオンと電子が速やかに動く必要があります。本研究では、これまでよく知られていない電池活物質、導電助剤、バインダーからなる複雑な構造を有する電極内のイオンの動きを明らかにし、高速にイオン移動が生じる電極の設計指針を与えます。これにより速やかなイオン移動を達成し、電池の充放電反応の高速化を目指します。
早瀬 修二 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授 酸化物半導体プリカーサーを用いる相互侵入型無機有機バルクヘテロナノ界面の一括構築と太陽電池への応用 本研究は低コスト・高効率を狙った新太陽電池に関するものです。一般に太陽電池は多くの層が必要であり、それらの層を逐次作製するためセル作製に時間がかかり、高コストの原因の1つになっていました。本研究では太陽電池の心臓部である電荷分離界面を一度の塗布で作製できる新プロセス、新材料、新素子構造を設計します。①計算化学研究者、②化学合成研究者、③分光研究者、④プロセス研究者が結集し最適な電荷分離界面を設計し実現することによって低コスト・高効率太陽電池を目指します。
宮武 健治 山梨大学 クリーンエネルギー研究センター 教授 革新的アニオン導電性高分子を用いた三相界面の創製とアルカリ形燃料電池への展開 アルカリ形燃料電池の高性能化・高耐久化の最重要課題である、①安定なアニオン導電性高分子の開発、②高性能な卑金属系電極触媒の開発、③反応場を制御した三相界面の創製、に取り組みます。共役イオン型アニオン導電性高分子とナノカプセル法により調製する卑金属ナノ粒子触媒を組み合わせて電極触媒層を作製し、燃料の酸化反応や酸素の還元反応が効率良く進行する電極触媒構造を明らかにします。最適化した電極触媒層とアニオン導電性高分子薄膜を用いて、アルカリ形燃料電池の性能と耐久性の大幅な向上を目指します。
山下 晃一 東京大学 大学院工学系研究科 教授 エネルギー変換計算科学による相界面光誘起素過程の設計 太陽光エネルギーの利用拡大の鍵を握る技術を“相界面光誘起素過程”の観点から捉え、各技術で求められる素過程の制御と最適化について理論化学・計算化学により解析します。エネルギー変換技術として有機系太陽電池と光触媒反応を取り上げ、有機高分子、遷移金属酸化物、Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体、カーボンナノチューブ、グラフェンを基礎材料として相界面を構築し、相界面構造、不純物ドーピング、構造欠陥等の複合的要因を制御、最適化するためのエネルギー変換計算科学を推進します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:笠木 伸英((独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー)
副研究総括:橋本 和仁(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

本研究領域は、豊かな持続性社会の実現に向けて、エネルギー利用の飛躍的な高効率化を実現するため、エネルギー変換・輸送に関わる相界面現象の解明や高機能相界面の創成などの基盤的科学技術の創出を目的としています。今年度は51件の応募があり、10名の領域アドバイザー、5名の外部評価者の協力を得て書類選考を進め、11件の面接選考を経て、最終的に4件の研究提案を採択しました。いずれも基礎科学的な課題への挑戦を通じてエネルギー高効率利用の実現を図るものです。

本研究領域の目標を着実に達成するため、今年度は以下の視点を重要視しました。

(1)エネルギーは我が国が直面する主要課題の1つであり、CRESTはその解決に結びつく課題達成型基礎研究を国として集中投資して推進する事業であることを念頭に、エネルギー高効率利用に向けた優れた基礎研究提案を選ぶ。

(2)エネルギー高効率利用への量的貢献あるいは低コスト化による広い市場普及に繋がる、具体的な技術目標を見据えた基礎研究を期待する。すなわち、目標技術の革新性だけでなく、量的貢献も含めた観点からの課題設定を重視する。

(3)研究課題としては、界面現象のプロセス・素過程の解明、計測技術とモデリング・シミュレーション、相界面の設計(最適化、制御)などがあり得るが、単なる現象解明や一般的な解析・計測技術の開発に留まる研究よりも、エネルギー高効率利用に貢献する明確な道筋を有する研究提案を重視する。

今年度の研究提案を見ると、研究内容自体は基礎研究として優れたものが多数ありましたが、エネルギーの高効率利用への量的貢献も含めた挑戦的な研究計画の提案、相界面に関わる根源的な基礎課題を抽出して飛躍的な効率向上を展望する提案、そして分析、解析だけでなく新たな相界面を創成することを目標に掲げた提案は多くありませんでした。また、異なる分野間の協働によって新たな学術と技術の創成という困難な課題を達成しようとする共同研究チームからの提案も少数でした。こうした観点から、選考に惜しくも漏れた提案が多くありました。

このように、社会的な期待に応える研究課題の設定や研究者の協働が容易ではないことを再認識しましたが、まずは採択研究提案の推進を通じてその実現を図りたいと考えています。来年度は最後の募集となりますが、本研究領域の意義と目的を念頭に十分練られた計画を含む、妥当性と説得力のある研究提案を改めて期待します。