JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第906号別紙2 > 研究領域:「新機能創出を目指した分子技術の構築」
別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「環境・エネルギー材料や電子材料、健康・医療用材料に革新をもたらす分子の自在設計『分子技術』の構築」
研究領域:「新機能創出を目指した分子技術の構築」
研究総括:山本 尚(中部大学 教授・分子性触媒研究センター長)

氏名 所属機関 役職 課題名 課題概要
齋藤 永宏 名古屋大学 グリーンモビリティ連携研究センター 教授 ソリューションプラズマ精密合成場の深化とカーボン系触媒の進化 ソリューションプラズマ精密合成場を確立するために、新たな分光分析手法を構築し、反応場において生成する励起種や活性種を明かにします。この合成場を用い、窒素やホウ素、リンなどのヘテロ元素を含む芳香族系化合物から新規カーボン系材料の合成を目指します。合成場を自由に操り、得られる材料の電子構造をチューニングし、酸素還元反応に対する触媒性を発現させます。2030年の実用化に向け開発が進んでいる金属空気電池の非貴金属触媒・電極材料の実現を目指します。ソリューションプラズマ精密合成場の深化によるカーボン系触媒の合成のみならず、分子技術の1つの柱となるようソリューションプラズマの学理を構築し、一学術領域へと進化させます。
菅 裕明 東京大学 大学院理学系研究科 教授 擬天然物の新機能創出分子技術 微生物の産生する天然物が人の疾患発現機構に効用を発揮することが分かり、新薬開発の手がかりとなることがあります。しかし、それは単に「偶然の賜物」にすぎません。本研究では、天然物に似た化合物、すなわち「擬天然物」群を人工的に合成し、システマティックかつ迅速に活性種を見つけ出す新分子技術を創出することで、偶然から「確実」な発見へとパラダイムシフトを起こしうる「新薬発見の新潮流」を生み出します。それにより、人類の健康に資する技術イノベーションを日本から起こすことを目指します。
山下 正廣 東北大学 大学院理学研究科 教授 分子技術による単分子量子磁石を用いた量子分子スピントロニクスの創成 現在のエレクトロニクスやスピントロにクスにおいては、磁石として磁性金属や遷移金属酸化物のような古典磁石が用いられていますが、本研究の特徴は、21世紀の新しいナノ磁石(次世代型磁石)と呼ばれている単分子量子磁石を用いることです。この単分子量子磁石分子は、分子技術を最大限活用することで古典磁石とは全く異なる磁気特性や機能性を創製することが可能です。分子技術による単分子量子磁石を用いた「量子分子スピントロニクス」という全く新しい分野の創成を目指します。
横田 隆徳 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 教授 画期的な新規核酸医薬の分子技術の創出 急速な高齢化のもと「元気な老い」を実現すべく、分子メカニズムが明らかになりつつあるアルツハイマー病などの難病を克服し、がんなどによる難治性疼痛から解放するために、医薬工の分野横断的な本研究により、独自に開発した新規の核酸医薬を発展させ、既存薬では成し得なかった難病の原因分子の制御を達成します。これによりさまざまな難病に対して、副作用が少なくかつ内服が可能な根本的治療薬を開発し、日本発の基幹的な分子技術として新たな創薬産業分野を創成し、国際貢献を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:山本 尚(中部大学 教授・分子性触媒研究センター長)

本研究領域は、分子技術を飛躍的に推進・構築し、様々な分野への応用と、今後の方向性づくりに貢献し、我が国の真に産業競争力のある究極の物質・材料の創出を目指します。また、やれることをやるのではなく、やらなければならないことを遂行し、ひいては「分子技術」を我が国の「National Pride」としうる研究を進め、これによって、新たな付加価値産業を産み、人類の生存に益する持続可能社会の構築を期待するところです。そのため現在の技術レベルでは達成できない「夢の目標」を掲げ、従前の研究の延長とは一線を画し、全く新規な研究プランを提案し、それを達成するための明確かつ独創的な分子技術の「イメージ・ストーリー」を描いていただくことを求めました。

募集の初回である今年度は、有機材料だけではなく、電子デバイス、電池、触媒や医薬品など実に多様な分野から意欲のある提案が95件もありました。先に述べた通り本研究領域で目指すものは非常に高く、それを達成するための課題を選考することは困難を極めましたが、14名の領域アドバイザーの協力を得て書類選考を進め、12件の面接選考を経て、最終的に4件の研究提案を採択しました。これらの採択課題は、それぞれ新しく展開した分子技術が、我が国の科学・技術の基盤となる分子技術になると確信しております。選考にあたり、前述の「夢の目標」に加えて、それを実現しうる十分な知識、根拠となる具体的な予備データが提示されているか、今後の研究の展開に対して柔軟に対応できる研究体制であるか、研究を通して若い研究者を育てる意欲・環境があるかを重視しました。

今回の研究提案を見ると、サイエンスとして優れたものは多数ありましたが、残念ながら、「夢の目標」の実現に対して具体的データに基づく明快なストーリーを展開した提案は多くはなく、惜しくも選考に漏れた提案が多くありました。これらの点に留意され再度提案されることを期待します。

来年度は、幅広い分野をカバーするためにも研究費種別Ⅰ(年平均3千万~6千万程度)の課題を多く採りたいと考えます。また今回採択できなかった理論的な物質機能デザイン、有機合成触媒反応・プロセス開発、生体材料、などを特に強化し、グリーンイノベーションおよびライフイノベーションに資する総合的・挑戦的に取り組む複合・連携研究体制を作り上げていきたいと考えています。上記に応えていただける多くの応募を期待しています。