JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第906号別紙2 > 研究領域:「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」
別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「再生可能エネルギーをはじめとした多様なエネルギーの需給の最適化を可能とする、分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論、数理モデル及び基盤技術の創出」
研究領域:「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」
研究総括:藤田 政之(東京工業大学 大学院理工学研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 課題名 課題概要
石井 秀明 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 准教授 電力システムにおける系統・制御通信ネットワークに対する分散型侵入検知手法の構築 将来的な電力システムでは、インターネット等の汎用通信の導入が避けられないため、セキュリティ確保が重要な課題となります。本研究では、電力システムへのサイバー攻撃を検知する分散型の手法を構築します。特に、電力系統と制御通信の2つのネットワークの挙動を数理的なモデルで表現するアプローチを取り、モデルと実際のデータ間の差異を用いて攻撃箇所や不正レベルを推定します。また、本手法をテストベッド上に実装し、実験評価を行います。
井村 順一 東京工業大学 大学院情報理工学研究科 教授 太陽光発電の予測不確実性を許容する超大規模電力最適配分制御 本研究では、太陽光発電が大量導入された超大規模な電力システムをリアルタイムに最適運用する電力最適配分制御系の基礎理論を構築することを目指します。具体的には、不確かさを有する太陽光発電予測と需要予測のもとでも、電力予測精度と最適性の関係に着目して調整用電源と蓄電池などを適切に制御することで、最小限の調整力・予備力で太陽光発電を効率よく最大限利用するための制御理論を構築します。
岩船 由美子 東京大学 生産技術研究所 准教授 消費者の受容性を考慮した住宅エネルギー管理システム 不安定な発電出力特性を有する再生可能エネルギーの大量導入を実現させるためには、電力システムにおけるエネルギー需給調整力を確保することが必要です。そのために、消費者の快適性・利便性を維持しつつ必要に応じて電力需要を調整できる機能を持つ住宅エネルギー管理システム(HEMS)の開発を目指します。また、HEMS普及促進のために、社会に受け入れられる仕組み・制度に関する検討や付加価値を高めるための研究も行います。
上田 博 名古屋大学 地球水循環研究センター 教授 洋上風力発電に必要な洋上風況把握と予測方法の開発 雲解像度非静力学気象モデルCReSS(Cloud Resolving Storm Simulator)を用いて、日本全域を対象とした洋上の日々の風況予測実験(水平解像度2km)を行います。また、輪島市沖で実施予定の「洋上風況観測システム実証研究」におけるウィンドファーム候補地の詳細な(水平解像度100m)風況把握を行い、洋上風力発電エネルギー計算方法の確立を目指します。
内田 健康 早稲田大学 理工学術院 教授 エネルギー需給ネットワークにおけるエージェントの戦略的行動を公共利益に統合する最適化メカニズム 次世代のエネルギー需給システムは、エネルギー伝送ネットワークと双方向情報通信機能をインフラとして備えるものとなります。また、これらのインフラを活用して自由にエネルギーを取り引きする需要者と供給者、さらには公共の利益を守る事業体から構成されます。本研究では、再生可能エネルギー導入に伴う環境変動に対応しながら、ダイナミクスを持つ需要者と供給者の戦略的な意思決定・制御を束ね、公共の利益確保に導くための最適な統合メカニズム(公益事業体の意思決定・制御)の理論と設計法の確立を目指します。
太田 快人 京都大学 大学院情報学研究科 教授 事故時運転継続要件を満たしつつ分散協調された系統連系インバータと蓄電池を含む送配電系の構築 系統連系インバータと蓄電池を含む送配電系の分散協調制御方法を提案します。事故があったとしても運転を継続できるように、応答性の早い制御器を設計するための理論を構築して、インバータの制御を行います。また、負荷や発電量に応じて周波数や電圧が生じますが、個々のインバータ・蓄電池特性の変動に対しても影響を受けにくい協調制御方法を構築します。さらに、模擬電源を用いて制御方法が実用可能であることを実証します。
大森 浩充 慶應義塾大学 理工学部 教授 電力需要の約75%を自然エネルギーによって賄うことを可能とする分散ロバスト最適制御 本研究では、自然エネルギーの大量導入により、電力需要の大部分(約75%)を賄うことを可能とするロバスト分散最適制御アルゴリズムを開発し、有効性を検証します。自然エネルギーの大量導入実現には2つのボトルネックが存在します。1つめは「最悪ケース」を想定できない確率的な不確定性に起因するリスクです。2つめは分散化した大量の自然エネルギー発電システムの大規模分散最適化問題です。1つめには確率モデルに基づく制約条件つき最適制御アプローチを、2つめにはローカル(各需要家)最適とグローバル(市場)最適の2段階のアプローチを、それぞれ提案します。さらに、アルゴリズムの有効性を数値シミュレーションと小規模プラントを用いて実証します。
加藤 丈和 京都大学 学術情報メディアセンター 特定准教授 「エネルギーの情報化」に基づく地域ナノグリッドの構築および実証 本研究は、数年前から提唱して来た「エネルギーの情報化」の考え方に基づき、家庭やオフィス、工場などの電力需要家が自律的に電力消費・発電・蓄電を管理する需要家内電力管理システムおよび地域内に分散する需要家内電力管理システム群の協調連携システムの開発により、地域コミュニティ全体に渡る電力ネットワークの安定化・電力消費の平準化を実現することを目指します。具体的には、(1)需要家内電力管理技術およびそれらの協調連携技術、(2)コミュニティ全体の平準化・安定化のための需給マッチング技術、(3)電力の双方向フローの推定・制御技術という3つの技術的課題について研究開発を行うとともに、小中規模コミュニティを対象とした実証実験、大規模コミュニティを想定したシミュレーション実験による効果の検証を行います。
鈴木 達也 名古屋大学 大学院工学研究科 教授 車載蓄電池を活用したモデル予測型エネルギー管理システムの設計 電気自動車やプラグインハイブリッド車に内蔵される車載蓄電池をエネルギー管理システム(EMS)に組み込むことで、より柔軟でロバストなEMSが実現できます。車載蓄電池はEMSへの接続(駐車時)とEMSからの離脱(走行時)を繰り返す特殊な蓄電池とみなせることから、その有効利用のために解決すべき課題も数多くあります。本研究では、車載蓄電池を活用したモデル予測型の家庭用EMS(HEMS)とコミュニティ用EMS(CEMS)の設計問題に取り組みます。
鈴木 秀幸 東京大学 生産技術研究所 准教授 再生可能エネルギーの大量導入を考慮した電力システムの複雑ネットワーク動力学モデル構築とその最適化理論の創成 再生可能エネルギーが大量導入される様々な状況のもとで、電力システムの挙動を理解・解析・最適化するためには、電力システムの数理モデルが必要です。結合振動子系による定性的数理モデルは理論解析が可能ですが、単純すぎて現実とは大きな乖離があります。また、電力系統の詳細な特性を考慮した複雑な定量的モデルでは理論解析が困難です。そこで本研究では、これらの定性的・定量的数理モデルの橋渡しが可能な電力システムの複雑ネットワーク動力学モデルを構成し、その分散協調的ダイナミクスの理論的解明とネットワーク最適化の実現を目指します。
薄 良彦 京都大学 大学院工学研究科 講師 マルチエネルギーシステムの動的解析技術 マルチエネルギー源(多様なエネルギー源)を分散的に含むエネルギーシステムの物理的本質はマルチスケール性です。マルチスケールで生起する動的現象を制御する技術の実現はエネルギーの有効利用に必須です。本研究では、マルチエネルギーシステムの動的特性に関する汎用解析技術の開発を力学系、電力・エネルギー、システム制御、情報処理の融合研究により進めます。
中島 孝 東海大学 情報技術センター/情報デザイン工学部 教授 再生可能エネルギーの調和的活用に貢献する地球科学型支援システムの構築 再生可能エネルギーを調和的に活用するためには、エネルギーの需要と供給の両方に関係する日射量、風、地上気温などの地球物理量を精度良く、かつタイムリーに把握する必要があります。本研究では、最新の衛星観測技術と大気モデルを用いることで、気象状態によって短い時間スケールで大きく変動するこれら地球物理量の実況値/予測値を地球上の任意の場所と時刻で計算します。さらに、地上観測システムによる精度検証をセットにした研究を実施します。
馬場 旬平 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授 エネルギー貯蔵デバイスの新しい応用方法および負荷側機器の制御手法に必要となる基礎的な理論・モデルの構築 家庭用太陽光発電や風力発電など、分散型の再生可能エネルギー電源が大量に導入されても安定的に電気の供給ができることが喫緊の課題となっています。このため、再生可能エネルギー電源が導入された予測困難な系統運用条件においても、安定的かつ高信頼な電力供給システムを維持するために、電池や揚水発電などのエネルギー貯蔵デバイスの新しい応用方法、安定化のために操作されていることを気付かせない負荷側機器(ヒートポンプ機器や電気自動車)の制御手法を研究します。さらに、実際の電力系統で利用されている制御系が組み込まれた全系統デジタルシミュレータを用いて効果の実証も行います。
林 泰弘 早稲田大学 理工学術院 教授 協調エネルギー管理システム実現手法の創出とその汎用的な実証および評価の基盤体系構築 本研究では、住宅のエネルギー管理システム(HEMS:Home Energy Management System)と、系統電力による中央制御型の配電ネットワークのエネルギー管理システム(GEMS:Grid Energy Management System)の双方に着眼し、「予測→運用→制御」の一貫型のエネルギー管理フローに基づくHEMSとGEMSが協調する新しいEMSの実現手法を創出します。また、EMSの実現手法をシミュレーションと実験で評価可能な汎用的プラットフォームを構築します。
原 辰次 東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授 地域統合エネルギーシステム設計に向けたシステム制御理論の構築:グローカル制御の視点 自然環境の変動や様々なレベルでの需要変動に対して安定的に稼動し、かつトータルエネルギーという視点で効率的な「地域統合エネルギーシステム」を構築することは極めて重要です。本研究では、グローカル制御(ローカルな計測・制御でグローバルな望みの状態を実現)の視点から、異なる3つのエネルギーシステムを対象とした実問題への適用を通して、システム設計に系統的手法を与えるためのシステム制御理論の構築を目指します。
藤崎 泰正 大阪大学 大学院情報科学研究科 教授 ネットワーク構造をもつ大規模システムのディペンダブル制御 再生可能エネルギーの大量導入に対応した安定性の高い電力システムの実現を目指し、ディペンダブル制御の基礎理論構築を行います。電力システムは電力網と情報網から構成される多層的な大規模ネットワークであるため、局所的な変動や故障が各層間の相互干渉により伝播し、大規模な停電を引き起こす可能性があります。本研究では、この種の構造的な変動の伝播をモデル化して解析し、変動や故障に能動的に対処するディペンダブル制御を実現するための方法論を構築します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:藤田 政之(東京工業大学 大学院理工学研究科 教授)

本研究領域は、再生可能エネルギーをはじめとした多様なエネルギー源と様々な利用者をつなぐエネルギー管理システムにおいて、エネルギー需給を最適制御するための理論、数理モデル、および基盤技術の創出を目的としています。またこれらの研究を推進するにあたり、分散協調型エネルギー管理システムの構築という出口を見据え、システム、制御、情報、通信、エネルギー、社会科学など様々な研究分野をつないだ連携や融合に取り組もうとしています。

このため、本研究領域では、真の異分野融合の実現と優れた研究者の力を社会的課題の解決に向けて最大限発揮していただくため、CRESTの持つ仕組みを最大限活用できる領域運営を行うこととしています。具体的には、今年度の募集では、まず本研究領域でカバーすべき各分野の基礎理論や要素技術について研究する小規模チーム(種別Iレベル)を募集しました。研究期間は2.5年間とし、この間に我が国の目指すべきエネルギーシステムの姿を研究領域外の研究コミュニティを含めてオープンに議論し、異分野間の相互理解を徹底的に深める場を設定します。このような取り組みを経た上で、今回の公募で採択した研究チームをコアとした異分野融合チーム(最強チーム)の再編を行います。

このような方針を掲げる本研究領域に対し、今年度の公募では総計125件というCRESTでは最多の応募がありました。選考は、10名の領域アドバイザーと13名の外部評価委員の協力を得て、厳正かつ公平に進めました。書類選考では、研究分野に配慮しつつ各研究提案について4名ずつの領域アドバイザー・外部評価委員が査読を担当しました。さらに精査するべき研究提案については、領域アドバイザー全員による再査読を行いました。その結果、27件の研究提案に対して面接選考を行い、最終的に16件の研究提案を採択しました。

本研究領域の目指すところを達成するため、選考にあたっては次のような点を重視しました。(1)2.5年後に最強チームとして良いものが再編できるであろうこと、(2)最強チームを含めた総研究期間(8年間)での伸びしろが大きいであろうこと、(3)CRESTとして相応しい、イノベーションを予感させるトップサイエンスであること。したがって、例えば研究提案のカバーする範囲がやや狭い、他分野の研究に関する認識が必ずしも十分でないという場合でも、最強チームへの再編につながるしっかりとした基礎研究であると判断できるものは採択しました。

採択した課題では、エネルギーシステムの構築に主として携わっているエネルギー分野をはじめ、システム、制御、情報、通信、気象、数理科学など様々な分野から研究者が集まりました。研究代表者に若手が多いことも特徴となっています。今後は関連する研究コミュニティを含めたオープンな議論、実証事業との連携等を進めていきます。研究提案のキーワードの中には、HEMS/BEMS(家庭/ビルエネルギー管理システム)、EV(電気自動車)、蓄電池、気象予測、デマンドレスポンス、セキュリティ、系統シミュレータなど、最強チームを構成する際に必要な要素が多く揃うことになりました。しかしながら厳しい競争の中での選考でしたので、不採択となった提案の中にも欠かせない重要なテーマに取り組んでいるものが多く見られました。ただ、世界に誇れる高度な研究でありながら、それが本研究領域の目指す分散協調型エネルギー管理システムの構築においてどのような役割を担うのかがあまり説明されず、ご自分の専門分野から異分野融合に向けて飛び出す意欲が十分には感じられない提案がいくつかみられたことは残念でした。異なる分野への展開を述べるのは難しいと思いますが、可能性が感じられるイメージや方向性を示していただければ、異分野融合へと飛び出す意欲が強くあれば、上記(1)~(3)の方針に基づいた幅広い視点での選考を行うことができます。来年度の募集でも、最強チームを創り上げるために大いに貢献していただける挑戦的な研究提案を強く期待しています。