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科学技術振興機構報 第885号

平成24年5月24日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

歯科臨床実習用の「ヒト型患者ロボット(SIMROID®)」の開発に成功

ポイント

JST(理事長 中村 道治)は、独創的シーズ展開事業「委託開発」の開発課題「ヒト型患者ロボットを含む歯科用臨床実習教育シミュレーションシステム」の開発結果をこのほど「成功」と認定しました。

本開発課題は、日本歯科大学附属病院 羽村 章 病院長らの研究成果を基に、平成21年1月から平成24年1月にかけて株式会社モリタ製作所(取締役社長 塚本 耕二、本社住所 京都府京都市伏見区東浜南町680番地、資本金 3億9,500万円)に委託して、企業化開発(開発費 2.3億円)を進めていたものです。

歯科教育現場においてはこれまで、歯を削るような実習には人間の顔面を模擬したマネキンに人工模型の歯を設置したものが使用され、実習生の技術・技能の向上に役立てられてきました。しかし、実際の診療現場において、歯科医師には、正確で安全な治療行為だけでなく、治療中の患者の表情や動作に対するきめ細かな配慮や対応が求められます。

今回開発に成功した新技術は、信頼と安心の治療のために、総合的な歯科医療を実践できる歯科医師の養成を目的としたものであり、人に非常によく似ている患者ロボットとこの患者ロボットを用いたトレーニングシステムです。これまでの臨床実習前教育(模擬患者が対象)では、手術・けが・病気・検査などに伴う、痛み・出血など、肉体の通常の状況を乱す外部からの刺激を伴うような実習(例えば、注射や虫歯の治療など)はできませんでした。開発品を使用することによって、人相手の診療に限りなく近づき、臨場感を伴った実習が可能となります。また、実習中の様子を2台のカメラで記録・保存・再生することにより、治療内容に加えて術者の診療態度についても客観的に評価することが可能となります。

本技術の活用により、実習生はあたかも現実の患者の表情を読み取りながら適度な緊張状態のなかで、臨場感あふれる実習を行うことが可能となります。その結果、基本的な治療能力や患者への対応能力の向上が効率的に図られ、患者中心の医療の確立、歯科医療の安心・安全に貢献できます。

本製品は、平成24年度中に販売開始の見通しです。

独創的シーズ展開事業・委託開発は、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。本事業は、現在、「研究成果最適展開事業【A-STEP】」に発展的に再編しています。詳細情報 https://www.jst.go.jp/a-step/

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)

マネキンや模型を用いた従来の実習では、「患者負担(表情や動作に対するきめ細かい配慮)を考慮する」ことの実現が難しい状況となっています。

現在市販されている歯科用の実習装置は、ファントムと呼ばれる人間の顔面を模擬したマネキンや模型であり、人体に極めて似ている外観と反応(表情・動作・会話)や対話形式での臨床実習機能はありません。また、マネキンであるため、臨場感を持った実習は困難となっています。さらに、実習生が不適切な診療を行ってもマネキンの表情や動作に反映されることがなく、人間が相手である実際の治療現場と大きく異なっていることから、歯科医師の養成には、リアルな診療を再現するインタラクティブ(対話式)な教育シミュレーションシステムが望まれていました。

(内容)

本開発品は、人に非常に似ている外観と反応(表情・動作・会話)を備えたヒト型患者ロボット、および多様な臨床実習プログラムに対応可能なソフトウェアから構成される対話型臨床実習教育シミュレーションシステムとなっています。

本技術は、人に非常に似ているヒト型患者ロボット、患者ロボットを動作・制御するための操作パソコン、実際の治療器具を配置した歯科用ユニット、および一連の実習内容を記録するためのCCDカメラなどから構成されています。(図1

実習に用いるヒト型患者ロボットは、実習生に臨場感や緊張感を持たせるために、人にそっくりな顔や形を実現しました。さらに、患者ロボットは、眼球(上下左右)・まつげ・口・首(前後左右)・左手といった部位を動かすことができ、これらの動きを適時組み合わせることにより、人らしいしぐさ(痛みや不快な表情)や歯科治療時に特有の反応(例:嘔吐(おうと)反射)を再現させることに成功しました。(図2図3

患者ロボットの操作および実習の記録・再生などは、市販のパソコンにインストールした専用ソフトウェアにて操作することができ、以下の機能を含みます。(図4図5

(効果)

実習生の基本的技能や基本的臨床技能の質の向上と教育の効率化、また患者中心の医療の確立、医療の安全に貢献できます。

本技術を用いた歯科実習システムとして、次のことが可能となります。

上記のメリットを有することにより、以下の教育現場での活躍が期待されます。

<参考図>

図1

図1 SIMROID®システムの構成

図2

図2 患者ロボットの駆動可能部位

図3

図3 嘔吐している表情の写真

図4

図4 英語版におけるデータ記録画面

図5

図5 データ比較画面

<用語解説>

注1) 共用試験
共用試験とは、臨床実習開始前に学生の知識・技能・態度を評価するための試験。学生が臨床実習で患者に接し、医療行為を行う診療参加型の臨床実習(クリニカルクラークシップ)を実現するには、臨床実習開始前に基本的医学知識・技能・患者との基 本的コミュニケーションを知っておくことが必要との認識に立っている。試験は共通基準を設けた組織的評価を行うために、知識の評価にはCBT(Computer Based Test)を、診察技能・態度の評価にはOSCEを用いる。基本的な臨床能力の確実な修得を目指す。
注2) OSCE(Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)
OSCEとは、複数の課題をこなすためのステーション(試験場)を使用して、1ステーションあたり5分から10分程度の時間内に臨床能力(問題解決能力、態度・技能)の評価を行う試験である。

開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

株式会社モリタ製作所
営業部 西川 和夫(ニシカワ カズオ)
研究開発グループ 西村 巳貴則(ニシムラ ミキノリ)
〒612-8533 京都府京都市伏見区東浜南町680番地
Tel:075-611-2141 Fax:075-605-2349

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 産学連携展開部
平尾 孝憲(ヒラオ タカノリ)、株本 浩揮(カブモト ヒロキ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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