微生物や微生物の酵素を用いる物質生産は、酵素反応由来の極めて温和な条件下で起こります。これらはホワイトバイオテクノロジーと呼ばれ、環境に優しい化学工業技術の1つとして注目されています。これまで微生物の酵素は、天然物の加工、化学工業の触媒に留まらず、疾病検出のためのキットや遺伝子操作やゲノミクス研究の試薬などとして幅広く社会や産業などに貢献していますが、今後、地球温暖化や環境破壊の抑制および改善に向けた取り組みとして、さらなる革新的な基盤技術の創出などを強力に推進していくことが必要です。
本研究領域では、微生物のみならず植物や動物などにおける高活性な酵素分子が示す反応を探究し、有用物質生産や健康診断法などに資する手法の基盤創出へと展開することを目標とします。まず、有用物質生産を目標とする研究では、微生物・植物・動物から見いだされる新たな酵素を活性分子として活用し、発酵法や酵素的結晶変換法によるニトリル(R-C≡N)やアミノ酸などの有用化合物の合成に取り組みます。具体的には、光学活性アミノ酸の100%収率での合成や、水中での酵素的転換反応などを行うことで、これまでの有機合成化学や酵素工学では実現不可能であった技術の基盤となるものを創出し、物質生産プロセスの開発に新たな展開を誘発することを目指します。
また健康診断法開発を目標とする研究では、アミノ酸代謝に関与する微生物の酵素などを用いて、いくつかの新しいアミノ酸定量法の基盤技術の創出に取り組みます。アミノ酸単体を定量し分析できる高選択的な酵素は現在、わずか数種類の存在しか知られていません。本研究領域では、自然界からより高選択的な酵素を見いだし、さらに分子工学の手法を駆使することによって、血液中のアミノ酸単体の定量に利用することなどを目指します。
本研究領域では、微生物・植物・動物のアミノ酸や窒素代謝に関与する酵素分子を見いだし、それらの酵素分子や生物そのものの機能を改変して人為的制御を加えることで活性分子として酵素反応の効率を上げ、さらに天然にはないアミノ酸代謝経路などを構築し、有用物質の生産や人類の健康維持に有効利用することを目指します。新たな酵素などによって効率的バイオマス利活用技術を確立するなどの展開が予想されることから、戦略目標「二酸化炭素の効率的資源化の実現のための植物光合成機能やバイオマスの利活用技術等の基盤技術の創出」に資するものと期待されます。
1.氏名(現職) | 浅野 泰久(アサノ ヤスヒサ) (富山県立大学 工学部/生物工学研究センター 教授) 58歳 |
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2.略歴 |
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3.研究分野 | 応用微生物、酵素化学、生物有機化学 | ||||||||||||||||||
4.学会活動など |
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5.業績など | 浅野 泰久 氏は、微生物が生み出す酵素の機能などに着目し、それらを活用した環境に優しく、かつ省エネルギーな物質生産プロセスの開拓などにおいて卓越した業績を上げてきた。具体的には、(1)アクリルアミドやニコチンアミドの工業生産に現在用いられている生体酵素「ニトリルヒドラターゼ」の発見および命名(京都大学の山田 秀明 名誉教授との共同研究)、(2)フェニルアラニン脱水素酵素の結晶化と利用(この成果を経て、日本におけるフェニルケトン尿症の検査試薬として厚生労働省の認可を受ける)、(3)酸性フォスファターゼを用いるイノシンのリン酸化反応の発見およびイノシン酸の工業生産への応用(味の素株式会社の三原 康博 博士らとの共同研究)などの業績である。 | ||||||||||||||||||
6.受賞など |
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