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別紙

研究成果展開事業(産学共創基礎基盤研究プログラム)
採択研究代表者・研究課題 一覧

(氏名五十音順)

研究代表者 研究課題名 研究概要
氏名 所属 役職
浅田 雅洋 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 教授 共鳴トンネルダイオードによる超小型・高効率の室温テラヘルツ発振器の研究
テラヘルツ周波数帯に期待されるさまざまな応用にとって、光源の開発は非常に重要な要素です。本研究では、コヒーレントな半導体単色光源として、共鳴トンネルダイオードと微細アンテナを集積した超小型・高効率の室温テラヘルツ発振素子の実現を目指します。産業界との対話を通じて、テラヘルツ帯の種々の応用に必要とされる出力や周波数などの素子特性を把握し、それに向けて素子の高周波化、高出力化、高機能化に取り組みます。
小川 雄一 京都大学 農学研究科 准教授 テラヘルツ波を用いた革新的次世代細胞計測・操作のための基盤技術の開拓
細胞が、従来の研究対象である分子に比べて巨大であることや、水分子が単純な構造であるにも関わらず水素結合を介して細胞内外で多様な状態で存在するため、細胞-物質、細胞-水の相互作用を計測する手法が不足しています。本研究では、テラヘルツ波による近接場顕微鏡技術、非標識相互作用計測技術、高出力テラヘルツ波パルス光源を組み合わせて、革新的な細胞計測・操作プラットフォームを創成し、産学共創の場を利用して次世代細胞研究に資する装置を開発します。
川瀬 晃道 名古屋大学 エコトピア科学研究所 教授 先端非線形フォトニクス・テラヘルツ発生/検出技術の開発
光の時代21世紀において、技術開発の進んだ光科学技術と非線形光学技術を活用して、テラヘルツ波領域ではいまだ達成されていない光導波路型テラヘルツ光源、および波長変換テラヘルツ光検出技術の開発を行います。光源には高効率、高強度、広帯域可変性、室温動作、また検出には高感度、高速応答、室温動作といった重要課題を課し、非破壊検査や生体計測などのテラヘルツ波の産業応用に役立つ性能の実現を目指します。
水津 光司 千葉工業大学 工学部 准教授 テラヘルツ・エバネッセント波による複素誘電率分光計測
テラヘルツ波は強い吸収体や散乱体の分光が苦手です。つまり、実環境で使用するにはテラヘルツ波を取り巻く周辺技術が未成熟であり、産業応用への壁となっています。本研究では、非線形光学効果によるテラヘルツ・エバネッセント波の発生とテラヘルツ波の情報を光で検出する新手法を提案します。この手法を用いると散乱体などの高感度テラへルツ分光が実現できます。産業界からの要望を反映しながら測定対象物の新規開拓・拡張を行います。
斗内 政吉 大阪大学 レーザーエネルギー学研究センター 教授 レーザー走査型テラヘルツイメージングシステムの開発と応用分野開拓
テラヘルツ放射イメージング手法は、電子材料中の電荷の動きや生化学反応過程などを可視化できる新しい技術として、その産業応用が期待されています。本研究では、高分解能化やダイナミック計測手法の確立、ならびに可視化用ケミカルチップなど周辺技術の開発により、電子材料・デバイスの高速動作時空間評価手法、次世代半導体開発支援ツール、抗原抗体反応分析装置、細胞イオン活動計測技術など、さまざまな応用開拓を産業界と連携して取り組みます。
富永 圭介 神戸大学 分子フォトサイエンス研究センター 教授 凝縮相テラヘルツ分子科学の深化
テラヘルツ波によるセンシングやイメージングは、産業界がテラヘルツ波の応用で最も期待している分野です。本研究では、分子性固体、液体・溶液、高分子などの凝縮相のスペクトルの精密測定を行い、「物質のテラヘルツ帯のスペクトルは分子について何を語るのか」という根源的な問題を明らかにします。また、産業界との対話を通して、食品、安全・安心、医療、薬剤などへのテラヘルツ波の産業応用の基盤技術構築に貢献します。
永井 正也 大阪大学 大学院基礎工学研究科 准教授 極限的高効率THzパルス発生技術の確立と高性能物質-THz結合デバイスとの融合と応用
テラヘルツ(THz)光は物質の特性に関する詳細な情報を提供するだけではなく、能動的に物質の機能性を操作することができます。これは代替技術のない高付加価値THz装置のニーズの創出をもたらします。このようなTHz技術応用を展開するために、超短光パルスにおける非線形光学過程を巧みに用いることで高強度THzパルス発生の光整流過程における究極的効率を追求します。またこのTHzパルスを物質に入射させる際に効率よく物質と結合させるデバイスを開発します。
平山 秀樹 (独)理化学研究所 テラヘルツ量子素子研究チーム チームリーダー THz量子カスケードレーザの動作高温化と周波数拡大に関する研究
テラヘルツ量子カスケードレーザ(THz-QCL)は、小型・高効率、長寿命、連続出力、安価なテラヘルツ光源として、各種透視検査・計測機器など幅広い応用分野での利用が期待されています。本研究では、THz-QCLに新しい量子構造や新規半導体材料系を導入するなど素子構造を革新することで、動作温度の向上、周波数領域の拡大、閾値電流の低減などの高性能化を行い、実用化を目指したTHz-QCLの開発を行います。
廣本 宣久 静岡大学 創造科学技術大学院 教授 1THz帯高検出能常温検出器技術の研究
テラヘルツ(THz)波が持つ特性を利用し、産業、医療・健康、安全などの現場で用いられる高度なセンシング・イメージング技術の開発が求められています。本研究では、物質の「透視」性と「識別」性に優れた1THz帯の電磁波を、これまでよりも一桁以上高い感度で検出できる常温動作のTHz検出器の実現に取り組みます。産業界との対話を通じ、さまざまな現場で必要とされる専用の非接触検査装置への応用を目指します。
保科 宏道 (独)理化学研究所 基幹研究所 研究員 テラヘルツ分光による高分子構造の解明と操作
高分子の高次構造は物性や機能に直結しているため、その解明は新しい機能性素材開発の基礎になります。本研究では、テラヘルツ周波数領域に現れる高分子の吸収スペクトルの解析手法を確立し、そこから高次構造形成過程や高分子物性の起源を明らかにします。また、高強度テラヘルツ光を用いて、高次構造形成に重要な役割を示す分子間結合ポテンシャルを変化させ、構造的・機能的変化の制御を目指します。
安井 武史 徳島大学 大学院ソシオテクノサイエンス研究部 教授 国家標準にトレーサブルなコヒーレント周波数リンクの創生とそれに基づいたテラヘルツ周波数標準技術の系統的構築
現在のテラヘルツ(THz)関連機器は、装置間で周波数の整合性が取れていないため、今後、日本の産業競争力を強化する上で障害になることが予想されます。本研究では、電波や光波領域と同等の不確かさを有する周波数標準技術をTHz領域で確立するため、電波・光波・THz波という3つの異なる電磁波の周波数を周波数コムでコヒーレントにリンクし、SI基本単位の1つである時間(秒)の国家標準にトレーサブルなTHz周波数標準技術を構築します。
山下 将嗣 (独)理化学研究所 基幹研究所 研究員 テラヘルツ波を用いたアモルファス薄膜のキャリア輸送特性非破壊評価技術の開発
アモルファス薄膜は、フレキシブル・プリンテッドを特徴とする次世代エレクトロニクス産業を支える材料として期待され、新材料合成やプロセス技術の開発によるキャリア輸送特性向上が求められています。本研究では、アモルファス薄膜の研究開発加速化に向けて、テラヘルツ分光の高感度化と広帯域分光解析手法の確立により、アモルファス薄膜のキャリア輸送特性を非破壊で定量評価する技術開発に取り組みます。これにより、この分野の国際競争力強化に貢献することを目指します。

<プログラムオフィサー(PO)総評>

プログラムオフィサー(PO) 伊藤 弘昌(JSTイノベーションプラザ宮城 館長)

本技術テーマでは、日本で活発に独自の研究開発が続けられ、新たな各種応用が期待されているテルヘルツ波技術を真の産業応用に展開するため、科学に基づく革新的な基盤技術と戦略的な産学連携によってその要素技術を確立し、テラヘルツ波新時代を日本から切り拓くことを目的とします。このため、この制度の特徴である産業界と研究者との対話の場である「産学共創の場」の活用により、産業界の基本的ニーズを共有し、世界をリードする産業に展開できるような基盤的な研究を推進していきます。

本技術テーマは平成22年度にスタートし、今回第1回の研究課題公募を行いました。応募総数は59件にのぼり、多岐にわたるテラヘルツ波技術について、幅広い層から興味深い研究提案をいただきました。提案には、テラヘルツ波の光源や検出器から、イメージング技術を含む応用展開やそのための光学素子、そして得られるスペクトルの解明とデータベース、など多岐にわたりました。

これら多彩にして数多くの研究提案を、産のニーズと学のシーズに優れた見識を持つ、産業界・アカデミアからなる全9名のアドバイザーの協力のもとに書類選考と面接選考を行いました。慎重な審査の結果12課題の採択とさせていただきましたので、競争率は約5倍となりました。

審査にあたっては、サイエンスの内容、技術の高さ、新規性、研究計画の妥当性はもちろんのこと、特に産学共創という観点から、日本の産業競争力に将来どのようなインパクトを与えうるか、どのように産業界と関わりながら研究を発展させていけるかなど、当制度独特の観点も十分考慮いたしました。

採択は悩み抜いた末の12件となりましたが、いずれも目的をきちんと見据えて、産業界にユニークな成果を提供しうる研究であります。

テラヘルツ技術の普及には、光源の高出力化・高安定化、高感度検出器の実現、計測手法の高度化・高速化、スペクトルの分光学的理解など、まだまだ乗り越えるべきハードルは沢山あります。そのため本プログラムの特徴を生かし、個々の研究者には必要に応じ、産業界の要望に耳を傾け、研究に反映してもらおうと思っています。

残念ながら、今回は断腸の思いで不採択とさせていただいた課題にも、すばらしい可能性が多々ありましたことを、ここに特記させていただきます。

今後研究推進の段階に入りますが、「産学共創の場」という当制度のユニークな機能を存分に生かし、産業競争力の強化に資するという大きな目標に向けて前進したいと思います。