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資料2

研究領域の概要および研究総括の略歴

戦略的創造研究推進事業(ERATO型研究)
平成22年度発足

彌田超集積材料(いよだちょうしゅうせきざいりょう)プロジェクト

写真

【研究総括】彌田 智一(いよだ ともかず)氏
(東京工業大学 資源化学研究所 教授)

研究領域「超集積材料」の概要

新材料の発見・創製は、科学技術や産業上、極めて重要であり、今日までに金属、セラミックス、プラスチック、半導体など各種分野でさまざまな性質の新材料が開発され、人類社会の発展に大きく貢献してきました。これまでの新材料の創製は、主に新しい性質が偶発的に発見された物質の周辺を探索・最適化することで行われており、合理的な新機能の設計や新材料の探索は容易ではありませんでした。一方、一昔前から注目されているハイブリッド材料は成分の組み合わせだけでも無限の可能性があり、新材料の宝庫として期待できるものの、異物の混合物として個々の構成成分の性質を併せ持つ程度の複合機能であり、材料科学に大きなブレークスルーをもたらすには至っていませんでした。その最大の理由は、各成分の相互作用を自在に制御できるスケールで精密に配置・配列すること、さらに系統的な混合プロセスと物性探索の方法論が確立していなかったことにありました。

本研究領域は、ナノテンプレート(ナノスケールの鋳型)を利用することで、各構成成分の精密な配置・配列を実現し、各成分同士の相互作用を精密に制御することにより、単なる成分の足し合わせ以上の性質をもつ材料(超集積材料)の創出を目指します。わずか百種類程度の元素から数千万種類を超える分子や高分子、金属、半導体、セラミックスなどの物質ができるように、本研究領域では構成成分をあたかも原子や分子のように扱うことで多様な超集積材料を創出します。また、見方を変えれば、分子を集積する超分子化学的アプローチを材料全般に拡張し、組み合わせと相互作用を自在に操る材料と物性の探索法を開拓するとも言えます。このようにして創製された超集積材料は、次の超集積材料の構成成分として利用されることにより、さらなる新しい新材料創製が期待されます。ここで用いられるナノテンプレートは人工的に作成したものだけでなく、微生物がもつような複雑な構造も利用することで、より高度な相互作用を制御することも可能と考えられます。さらに、分子配線技術をナノテンプレートを利用して開発し、分子で集積回路を作ることで、その回路自体が1つの新しい性質を持つ材料であるという概念も提唱します。このような新材料創出の新しい方法論を確立することにより、合理的に新材料を探索することが可能となり、材料探索に大きなブレークスルーが起こることが期待されます。

本研究領域はナノテンプレートを用いてナノ構造体を構築するというボトムアッププロセスの開発を目的にしており、その研究成果は戦略目標「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」に資するものと期待されます。

概要図

研究総括 彌田 智一 氏の略歴など

1.氏名(現職) 彌田 智一(いよだ ともかず)
(東京工業大学 資源化学研究所 教授) 54歳
2.略歴
昭和54年3月京都大学 工学部 石油化学科 卒業
昭和59年3月京都大学 大学院工学研究科 石油化学専攻 博士課程修了(工学博士)
昭和59年5月京都大学 大学院工学研究科 分子工学専攻 助手
平成 3年8月アルゴンヌ国立研究所 化学科 研究員
平成 6年4月神奈川科学技術アカデミー 橋本「光機能変換材料」プロジェクト 副室長
平成 8年7月東京都立大学 工学部 応用化学科 教授
平成14年4月東京工業大学 資源化学研究所 教授
3.研究分野 分子機能材料、高分子化学、ナノ機能科学、材料電気化学、光機能化学
4.学会活動など
平成20年6月高分子学会出版委員会 委員長(~平成22年5月)
平成22年6月高分子学会編集委員会 委員長(~平成24年5月)
5.業績など  彌田 智一 氏は、高分子化学、物性工学、電気化学、半導体工学に基づき、高分子薄膜の形成プロセスと幅広い機能・物性発現を見据えた「高分子薄膜の構造制御と機能複合化」に関する研究を行ってきた。特に、独自の工夫を凝らした高分子ナノ構造薄膜の作製プロセスを開発し、バルク材料では実現できない構造特異的な物性・機能を実証してきた。具体的には、(1)気液界面の単分子膜の累積操作による電導度異方性が100億倍の導電性高分子超薄膜の作製、(2)電位走査下電解重合法の開発と導電性高分子超格子構造薄膜の作製および量子サイズ効果の観測、(3)両親媒性液晶ブロックコポリマーの特異なミクロ相分離構造の発見とそれを高信頼性ナノテンプレートとして利用した各種材料への転写複合化プロセスの開発などを行ってきた。さらに、本プロジェクト構想の原点となる複数の外場応答機能を組み込んだ多元情報変換分子およびレドックス共役機能分子の提案の他、京都大学、米国アルゴンヌ国立研究所、神奈川科学技術アカデミー、東京都立大学(現 首都大学東京)と異動するなかで、有機無機を問わず幅広く外場応答機能分子・材料の開発を行ってきた。
6.受賞など
平成 3年電気化学会進歩賞(佐野賞)
平成 3年高分子学会研究奨励賞
平成18年米国化学会Arthur K. Doolittle賞
平成19年文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)
平成20年高分子化学会賞(科学)
平成22年電気化学会論文賞