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科学技術振興機構報 第731号

平成22年4月20日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL https://www.jst.go.jp

LSIの次世代高誘電率材料の気化供給装置開発に成功

JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「減圧沸騰噴霧による気化供給装置」の開発結果を成功と認定しました。

この開発課題は、同志社大学 理工学部 千田 二郎 教授の研究成果をもとに、平成18年10月から平成21年10月にかけて株式会社 堀場製作所(代表取締役社長 堀場 厚、本社住所 京都市南区吉祥院宮の東町2、資本金120億600万円)に委託して、企業化開発(開発費約2億6000万円)を進めていたものです。

近年、LSIの微細化が進み、トランジスタのゲート絶縁膜やコンピューターのメモリなどに使われているDRAM注1)のキャパシタ(コンデンサー)などに利用される高誘電率材料注2)は、さらに高い誘電率の材料へ移行することが予測されています。

LSIの製造で使われる従来のCVD注3)装置は原料を気化器などで加熱・気化して成膜室に送り、Si基板上で化学反応させて成膜する「加熱気化」方式です。利用が期待される高誘電率材料の原料の多くは蒸気圧が低いため、気化させる際の加熱温度が高くなります。そのため、原料自体の熱分解や気化した原料が結合・凝縮して生成物が発生して配管が詰まるなどの課題があり、安定した供給が困難でした。

今回開発した新技術は、蒸気圧が高い有機溶剤と低い出発原料を混合することで原料の蒸気圧を上げ、加圧した液体の状態から減圧に保持した成膜室内に直接噴射して噴霧・気化させる「減圧沸騰噴霧気化注4)」方式です。開発の中心となった特殊な噴射弁により、噴射弁内部から発生する微小なゴミを抑制でき、従来の「加熱気化」方式では気化が困難な、蒸気圧が低い原料の成膜が可能となります。

この新技術により次世代DRAMのキャパシタ材料とみられる高誘電率材料の五酸化ニオブ注5)などの蒸気圧が低い原料の供給が可能となります。そのため、LSIのさらなる高集積化が可能になることでコンピューターや携帯電話などの高機能化へつながります。また、Siデバイス分野に限らず、太陽電池分野や有機EL分野などへの成膜装置に応用展開が期待されます。

独創的シーズ展開事業・委託開発は、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています(平成22年度の課題公募は、既存事業を再編し新規事業A-STEPにて実施します。詳細情報 https://www.jst.go.jp/a-step/)。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 次世代デバイスの実現には次世代の新型液体原料気化供給装置が必要。

近年、LSIの微細化の要求はますます強くなり、トランジスタのゲート絶縁膜やコンピューターのメインメモリなどに使われるDRAMのキャパシタなどに使用される高誘電率材料は、さらに高い誘電率の材料へ移行することが予測されています。

従来のCVD装置は原料を気化器などで加熱・気化して成膜室に送り、Si基板の上で化学反応させて成膜する「加熱気化」方式です。高誘電率材料の出発原料は低蒸気圧であることが多いため、加熱温度を上げる必要があり、原料の熱分解や結合・凝縮などで配管詰まりを起こすなどの課題があり、安定した成膜が困難でした。

(内容) 「減圧沸騰噴霧気化」方式のSi半導体仕様の気化供給装置を開発。

本新技術は、蒸気圧が高い有機溶剤と低い出発原料を混合することで原料の蒸気圧を上げ、加圧した液体の状態から減圧に保持した成膜室内に直接噴射して噴霧・気化を行う「減圧沸騰噴霧気化」方式です。従来の内燃機関などの技術を成膜装置に応用したもので、「加熱気化」方式では気化が困難な、蒸気圧が低い原料の成膜が可能です(図1)。

本新技術ではCVD法の成膜プロセスに対応した噴射弁を主に開発しました(図2)。試作噴射弁により原料を噴射し、噴霧形状を分析して噴射弁の先端部分の形状や材質などを最適化することで気化効率の上昇や、噴射弁内部から発生する微小なゴミを抑制することができました。また、駆動方式や駆動部品の形状などを検討し、実用可能な駆動耐久性を実現しました。

この噴射弁を用いた気化供給装置で、従来の技術では安定気化が困難なペンタエトキシニオブ注6)から五酸化ニオブの成膜を行った結果、12インチサイズのSi基板上に± 2.5%以内の膜厚分布で成膜が可能であることを実証しました(図3)。

(効果) 次世代の薄膜形成の安定化が可能になった。

本新技術の特徴は以下の点です。

  1. (1)噴射弁を成膜室に直接設置することで気化器や加熱配管による搬送が不要なため、装置の構成が簡単になり、かつ熱分解による詰まりも防ぐことができます。
  2. (2)蒸気圧が低い原料を安定して気化することができます。
  3. (3)原料の供給を間欠に制御できるため、原料の使用量を減らすことが期待されます。
  4. (4)原料供給量を数ミリ秒単位で制御できることから原子層制御の成膜や成膜時間の短縮が可能となります。

本新技術により次世代DRAMのキャパシタ材料とみられる高誘電率材料の五酸化ニオブなどの蒸気圧が低い原料の供給が可能となります。現在、全世界で3000~4000台生産されている半導体用CVD装置の一部に本新技術の気化供給装置が導入されることで、LSIのさらなる高集積化が進むことが期待されます。さらに、Siデバイス分野に限らず、太陽電池分野、有機EL分野などの成膜装置に応用展開が期待されます。

<参考図>

図1

図1 従来の技術と本新技術との比較

図2 図2

図2 液体気化供給装置の噴射弁(左図)と駆動用ドライバー(右図)

駆動用ドライバーと制御用PCにより噴射弁を制御して、原料を噴射します。

図3

図3 五酸化ニオブ膜

12インチサイズSi基板上に五酸化ニオブ膜を形成

<用語解説>

注1) DRAM(Dynamic Random Accesses Memory)
コンピューターなどの電子機器に使用される半導体を使用した記憶素子(メモリ)。キャパシタに電荷を蓄えることにより情報を記憶するメモリで、電源の供給がなくなると情報が無くなる揮発性メモリ。
注2) 高誘電率材料
誘電率が高い材料。たとえば、酸化ハフニウムや五酸化二オブは比誘電率が各々25~30、40~60といわれている。トランジスタのゲート絶縁膜への応用や、DRAMのキャパシタへの応用も検討されている。
注3) CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)
出発原料ガスを熱分解や酸化、還元などの化学反応を用いて薄膜などを形成する方法。Siデバイスの工程に多く用いられている。成膜速度が比較的速いことが特徴である。
注4) 減圧沸騰噴霧気化
液体を噴射する圧力から液体の蒸気圧以下の減圧雰囲気へ瞬時に供給すると、液体内部からキャビテーション気泡核が急激に成長し、広域に噴霧が分散する現象。本開発課題では二相領域の概念を取り入れた混合溶液を用い、混合溶液が液体である加圧から、気体である減圧雰囲気に一気に噴射することで、噴霧・気化させている。
注5) 五酸化ニオブ
ニオブの酸化物。高誘電率材料で比誘電率は約60程度あり、その薄膜は主にDRAMのキャパシタへの利用が期待されている。
注6) ペンタエトキシニオブ(Pentaethoxvniobium)
化学式はNb(OCで表され、蒸気圧が142℃/0.1Torrと低く、常温・常圧で液体の有機金属化合物。

開発を終了した課題の評価

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