【調査の背景・目的など】
高等学校における理科は、生徒が科学技術や自然と将来どのようにかかわって生きていくかに大きく影響を与える大切な学習機会であるにもかかわらず、2006年に実施されたOECDのPISA調査の結果などから、日本の高校生の科学に対する意識が国際的に低い水準にあることが分かっています。今後の効果的施策を検討するため、初等中等教育段階での理科教育の現状と課題の把握、とりわけ理科教員に関する実態の把握が必要となっています。そこで、理科を教える教員の実態と理科の教育環境、および将来優れた科学者や技術者となる人材の育成状況について把握することを目的として、平成21年1~2月にJSTと国立教育政策研究所が共同で、高等学校理科教員に対する実態調査を行いました。
【調査対象者】
(1) 「普通科」
- 高等学校全日制普通科または中等教育学校後期課程全日制普通科
- 全国から無作為抽出した1000学科のうち、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業指定校を除く974学科が対象
- 各普通科における以下
~
の教員に調査を依頼(該当者数によって1学科から最大6名の教員が回答)
理科主任もしくはそれに代わる教員1名
理科総合AまたはBまたは理科基礎を担当する教員1名
物理Ⅱ、または、その内容に相当する科目を担当する教員1名
化学Ⅱ、または、その内容に相当する科目を担当する教員1名
生物Ⅱ、または、その内容に相当する科目を担当する教員1名
地学Ⅱ、または、その内容に相当する科目を担当する教員1名
(2) 「理数科」
- 専門教育を主とする全日制の理数系の学科・理数科
- SSH事業指定校を除く全140学科が対象
- 各理数系学科における以下
~
の教員に調査を依頼(該当者数によって1学科から最大6名の教員が回答)
理科主任もしくはそれに代わる教員1名
理科総合AまたはBまたは理科基礎を担当する教員1名
物理Ⅱの内容に相当する科目(理数物理の当該内容)を担当する教員1名
化学Ⅱの内容に相当する科目(理数化学の当該内容)を担当する教員1名
生物Ⅱの内容に相当する科目(理数生物の当該内容)を担当する教員1名
地学Ⅱの内容に相当する科目(理数地学の当該内容)を担当する教員1名
(3) 「SSH指定校」
- SSH事業指定校のうち、平成20年度指定の全102校が対象
- SSH事業を担当する以下
~
の教員に調査を依頼(該当者数によって1学科から最大6名の教員が回答)
理科主任もしくはそれに代わる教員1名(SSH主担当者)
理科総合AまたはBまたは理科基礎を担当する教員1名
物理Ⅱ、または、その内容に相当する科目を担当する教員1名
化学Ⅱ、または、その内容に相当する科目を担当する教員1名
生物Ⅱ、または、その内容に相当する科目を担当する教員1名
地学Ⅱ、または、その内容に相当する科目を担当する教員1名
有効回答数 | (1) 普通科 | (2) 理数科 | (3) SSH指定校 |
---|---|---|---|
学校数(教員![]() |
700校 | 125校 | 89校 |
教員数(教員![]() ![]() |
2422名 | 473名 | 355名 |
内訳 教員![]() |
655名 | 107名 | 83名 |
教員![]() |
575名 | 121名 | 86名 |
教員![]() |
612名 | 119名 | 88名 |
教員![]() |
617名 | 111名 | 84名 |
教員![]() |
74名 | 30名 | 27名 |
(※ ~
の回答者は一部重複)
【調査方法】
国立教育政策研究所から、調査対象校に調査への協力依頼を行うとともに調査票を送付(平成21年1月23日頃)し、2週間の調査期間内に調査対象校の教員によって回答された調査票を、JST宛ての返信用封筒によって一括して送付回収した。
調査票は、各学校種別に調査票Aと調査票Bを作成した。調査票Aは、理科主任(理科主任がいない場合はそれに代わる教員1名)に対する、調査対象の学校・学科に関する質問と全般的な理科教育の実施状況についての質問で構成した。調査票Bは、上記の調査対象者~
に対する、それぞれ担当する科目の指導に関する質問と理科教員としての意識や背景、経験などについての質問で構成した。
【分析方法】
昨年3月に発表した同調査の集計結果(速報)についてさらなる分析を進め、理科の授業に関する教員の意識と取り組みの関係、教員を大学院修了有無別に分けた上での実験観察などの意識、学科別の理数に関する特色ある教育活動の実施状況、設置者(国立、公立、私立)の違い、教員の教職経験年数の違い、学校の進学希望者割合の違いなどについてクロス集計などを行った。
また、国際科学オリンピックの国内大会に参加した生徒の状況から、生徒が参加する確率なども算出した。
【分析結果の概要】
<高等学校の理科の授業に関する教員の意識と取り組み>
- 担当する授業において演示実験をほとんど実施しない理科教員は、生徒による観察や実験もほとんど実施していない(図1参照)。
- 演示実験を行う割合と生徒による観察や実験を行う割合は、いずれも観察や実験の技能が十分あると肯定的に回答する理科教員ほど高い(図2・3参照)。
- 大学院修了の有無別に教員の意識を比べると、修了者の方が実験・観察の知識・技能が十分あり、最新の科学技術をよく話題に取り上げている。また、教科書よりも高度な内容の指導や理解が進んでいる生徒に対する指導、理系の部活動の指導に取り組んでいるなどの質問で、より肯定的ないし積極的な回答をする傾向がある(図4参照)。
- 物理Ⅱ・化学Ⅱ・生物Ⅱ・地学Ⅱで「大学入試を意識した指導を重視しているか」に対して「そう思う」と回答した教員の方が、生徒による観察や実験の実施頻度が少ない傾向が見られる(図5参照)。
- 探究的な活動に割り当てる年間授業時数が多い教員は、生徒の理解に応じて補充的な課題や発展的な課題を与えたり、授業の合間や放課後などに指導したりしていると回答する割合が高い。また、担当する科目が好きだと感じている生徒の割合も、探究的な活動に割り当てる年間授業時数が少ない教員よりも高い傾向が見られる(図6・7参照)。
- 理科好きな生徒の割合が高いと回答する教員は、観察や実験についての知識や技能が十分であるかに肯定的な回答をする割合が高く、日頃の授業の指導に当たって興味・関心を高める指導や日常の問題への応用を重視していると回答する割合や、演示実験および生徒による観察や実験を行う回数も多い傾向が見られる (図8・9・10・11参照)。
- 普通科の教員が担当科目の授業を充実させるために必要と考える割合は、「教材研究の時間確保」「準備や片付けの時間確保」「設備備品や消耗品の充実」「優れた教材や指導法に関する情報」の4項目について、8割かそれ以上に高い(図12参照)。
- 観察や実験についての知識・技能、探究的な活動の指導技術が十分あるかについて肯定的に答えた教員の割合は、教職経験年数が多い教員ほど高い(図13・14参照)。
- 教員への支援策において拡大が期待される情報入手の機会や内容について、教職経験年数が少ない若手教員では「すぐに使える優れた教材情報」「優れた指導法に関する情報」などの項目で、教職経験年数が多い教員よりも大変期待する割合が高い(図15・16参照)。
<特色ある理科の取り組みについて>
- 理系の部に所属する生徒の割合は、第3学年で普通科1%、理数科7%、SSH11%である(図17参照)。
- 理系の部がある学校で生徒の課題研究作品を校外のコンテストに出展する機会がある割合は、普通科18%、理数科48%、SSH83%であり、いずれの学科も理系の部がない学校より割合が高い(図18参照)。
- 2008年度に国際科学オリンピックの国内大会に参加した生徒の状況について、学校当たりの学科別に生徒1人が参加する確率は、普通科では数学が0.0008(生徒1万人当たり8人参加)で最も高い。
理数科では、化学が0.0059(同59人)で最も高く、数学と生物がそれぞれ0.0034(同34人)、ついで物理が0.0033(同33人)と続いている。
SSHでは、化学が0.0170(同170人)で最も高く、ついで生物が0.0148(同148人)、数学が0.0134(同134人)、物理が0.0102(同102人)の順で続いている(図19参照)。
(注) 「普通科」は全日制の普通科、「理数科」は専門教育を主とする全日制の理数系の学科、「SSH」はスーパーサイエンスハイスクールの取り組みの主対象となる生徒の集団を示す。