JSTトッププレス一覧 > 科学技術振興機構報 第623号
科学技術振興機構報 第623号

平成21年3月24日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

道路橋の損傷を瞬時に計測するシステムの開発に成功

 JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「鋼構造道路橋のリアルタイムモニタリング・診断システム」の開発結果を成功と認定しました。
 独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。(詳細情報 https://www.jst.go.jp/itaku/
 本開発課題は、東京工業大学 教授 三木 千壽の研究成果をもとに、平成18年3月から平成20年9月にかけて株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(代表取締役社長 山下 徹 本社・東京都江東区豊洲、資本金1兆4251億円)に委託して、企業化開発(開発費約2億円)を進めていたものです。
 現在、地震などの災害時には道路通行を規制した上で人手による安全点検が必要です。そのため、道路交通再開までに多くの時間がかかり社会的・経済的に甚大な損失が発生しています。また、道路橋の多くは建設後40年近く経過しており、道路橋の落下や重大な損傷が危惧されています。
 本新技術では、光ファイバーセンサー注)を使用して道路橋の段差や間隔、振動、傾斜などのデータを計測し、道路橋の異常や損傷を検知します。本ネットワークシステムでは、道路橋に設置した光ファイバーセンサーからデータを収集、データ中継地点を経由して中央の情報センターでデータ解析を行い、リアルタイムで複数の道路橋を一元的にモニタリングします。さらに、監視カメラ映像と光ファイバーセンサーのデータから道路に損傷を与える車重・車種の通行データを自動収集します。
 本新技術により、地震などの災害時には的確に被害状況を把握し、迅速な通行再開判定が可能となります。また、道路橋の落下の予兆や重大な損傷などの早期発見へつながります。さらに、車重・車種の通行データから損傷度を予測することで優先補修すべき道路橋を抽出できるなど、効率的な維持管理が可能となります。本システムでは複数の道路を一元監視することが可能なことから、全国約15万道路橋への適用が期待されています。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 道路橋の損傷がリアルタイムでわかるシステムが望まれています。

 現在、地震などの災害時には道路交通を規制した上での人手による安全点検が必要なことから、道路交通の再開には大きな時間を要します。特に基幹路線の数時間の通行止めは、経済的・社会的に大きな損失を発生させます。また、大地震時には、交通網の寸断・渋滞により物資輸送や救助の遅れが深刻となり、迅速に安全な輸送路を確保することが課題となっています。
 さらに全道路橋の約40%が高度成長期に建設されており、多くの道路橋にはすでにさまざまな損傷が発生しています。そのため、地震などの災害時はもちろん、過積載車両の度重なる通行などによっても落橋などの大きな被害が発生することが予想されています。しかし、道路橋の損傷を把握するには、人手による目視や超音波測定器などを使用した“対症療法的”手法に頼らざるを得ないのが現状です。

(内容) 光ファイバーセンサーで道路橋の状態を継続的・連続的に監視します。

 本新技術では設置した光ファイバーセンサー(図1)から道路橋の段差や間隔、振動、傾斜などのさまざまなデータを連続的に収集し、解析することで道路橋の異常や損傷を検知します(図2)。また、光ファイバーセンサーのひずみデータから車両重量を推定すると共に、監視カメラ映像情報と組み合わせて車種判別を行い、道路橋の損傷の主要因となっている車重・車種の通行データ(図3)を自動収集します。
 本ネットワークシステム(図4)は、複数の道路橋に設置した光ファイバーセンサーからさまざまなデータを収集し、中継地点から中央の情報センターにデータを送信して一元的にデータ蓄積・解析を行い、道路橋の異常を検知します(図5)。また、長期間安定的に稼動すること、および災害発生時にも継続して計測が可能となるように耐久性の高い電源系統や通信ネットワーク、センター設備を採用しています。これにより、道路橋の橋桁や橋脚の姿勢情報を道路管理者にリアルタイムで提供することが可能です。さらに、車重の推定誤差が標準偏差±15%以内、車種正解率80%以上で測定できます。

(効果) 通行可否判断や道路橋の劣化の早期発見が期待されています

 本新技術により、災害時には的確に被害状況を把握することで迅速な道路通行再開判定や輸送路の確保が可能となります。また、道路橋の落下の予兆や損傷などの異常を早期発見するための情報を継続的に収集できるため、路線網の安全確保につながります。
 さらに車重・車種データから正確な損傷度予測を行うことで補修優先すべき道路を抽出できるなど、効率的な維持管理が可能となります。
 本システムは道路ネットワークを一元監視するシステム構成と情報配信手段を実現しており、大都市圏をはじめ全国15万道路橋への展開が考えられ、道路保全・管理に大きく貢献することが期待されます。

【用語解説】

注)光ファイバーセンサー
 光ファイバーを使った計測器で、外力などの作用で光ファイバーに生じたひずみにより光源から発出した光の反射波長が変化することを利用した計測器。

図1 光ファイバーセンサー
図2 データ収集イメージ
図3 車の重量の推定イメージ
図4 システム概要
図5 道路ネットワークの監視
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 第一公共システム事業本部 企画部 R&Dビジネス企画担当
宮崎 早苗(ミヤザキ サナエ)、石川 裕治(イシカワ ユウジ)
〒135-6033 東京都江東区豊洲3-3-3 豊洲センタービル
Tel:050-5546-2041 Fax:03-5546-8433

独立行政法人 科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部 開発推進課
三原 真一(ミハラ シンイチ)、室賀 薫(ムロガ カオル)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999