研究領域「ソフト界面」の概要
自然界に存在する液体・高分子・生体物質などソフトマテリアルの表面・界面("ソフト界面")は、摩擦特性、接着性、電気特性、生体適合性といった性質について、さまざまな環境の中で高度な機能を発揮します。このような特性は、ソフト界面がユニークなナノ/マイクロメートルスケールの形態と化学的性質を持つためだと考えられています。このようなソフト界面を人工的に形成し、高機能材料として応用することは非常に困難なことでした。その理由として、ソフト界面が機能を発揮するその環境の中でソフト界面の構造・物性を解析する方法が確立しておらず、高機能を発現するメカニズムが十分に解析されていないこと、また、ナノ/マイクロメートルスケールの形態と物理化学的性質を制御したソフト界面を形成する技術が未熟なことが挙げられます。
本研究領域は、さまざまな環境の中でソフト界面の構造・物性・機能を解析する手法を構築し、ソフト界面が機能を発揮するメカニズムを明らかにすることで、高機能ソフト界面を設計する戦略を立て、その戦略に基づいてソフト界面の形態と物理化学的性質を精密に制御して形成する技術を確立し、高度な機能を持った人工ソフト界面を創成することを目指すものです。
具体的には、(1)人工的に形成したソフト界面の表面分子構造や形態、表面物性といった性質を空気中、水中などさまざまな環境においてその場で解析する方法を開発し、ソフト界面のナノ/マイクロメートルスケールの形態や物理化学的性質が、ソフト界面の特性・機能発現にどのように関わっているのか明らかにします。この研究によって、高機能なソフト界面を実現するには、どのような形態と物理化学的性質が必要であるか設計指針を得ることができます。加えて (2)ナノ/マイクロメートルスケールで表面形状を制御した表面を形成し、その表面を重合反応といった化学反応を用いることで化学的に修飾し、形態と物理化学的性質を制御した高機能ソフト界面を形成する方法を開発します。また、形成した高機能ソフト界面の性質を再び解析することで、さらに高機能な特性を持つソフト界面を設計する方法論を確立できると考えられます。
本研究結果によって、さまざまな環境の下でも自然界の材料以上の特性を発揮することが出来る高機能性材料の創成が可能になると考えられます。
本研究領域は、ソフト界面の設計・制御する指針を確立し、空気中、水中などさまざまな環境の中で高度な機能を発揮する材料の創成を目指すもので、その研究成果は、戦略目標「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」に資するものと期待されます。
研究総括 高原 淳 氏の略歴など
1.氏名(現職) |
高原 淳(たかはら あつし)
(九州大学 先導物質化学研究所 分子集積化学部門 教授) 52歳 |
2.略歴 |
昭和58年3月 | 九州大学大学院 工学系研究科 博士課程 修了 |
昭和58年7月 | 九州大学 工学部 助手 |
昭和60年12月 | 九州大学 工学部 助教授 |
昭和63年3月~平成元年3月 | 米国ウィスコンシン大学 マジソン校化学工学科 客員研究員 |
平成11年4月 | 九州大学有機化学基礎研究センター 教授 |
平成14年3月~平成16年3月 | (独)産業技術総合研究所 高分子基盤技術研究センター 主任研究員(併任) |
平成15年4月 | 九州大学先導物質化学研究所 教授 |
平成18年~ | 高エネルギー加速器研究機構 客員教授 |
平成18年~ | 理化学研究所播磨研究所 客員研究員 |
平成19年4月~ | 九州大学先導物質化学研究所 副所長 |
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3.研究分野 |
高分子科学、ソフトマターの表面・界面科学 |
4.学会活動など |
昭和63年~ | ニューヨーク科学アカデミー会員 |
平成16年4月~平成19年3月 | 日本学術振興会学術システム研究センター研究員(併任) |
平成17年~平成20年 | 日本学術会議会員 |
平成20年~ | 日本学術会議連携委員 |
平成20年~ | 高分子学会 副会長 |
国際学術雑誌の編集委員(現在)
・Associate Editor, Polymer Journal
・Editor(Asia), Composite Interfaces
・Editorial Board, Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition
・Editorial Board, Polymer Bulletin
・Editorial Board, Progress in Polymer Science
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5.業績など |
繊維・高分子材料の疲労挙動と非線形動粘弾性の関係を解析し、繊維・高分子材料の疲労機構を明らかにした。さらに耐疲労性繊維材料の構築や疲労寿命の予知解析を行った。また、原子間力顕微鏡を駆使して高分子表面の力学物性を解析し、高分子表面における分子の運動性を明らかにした。最近では、原子間力顕微鏡と精密斜め切削解析装置と組み合わせることでポリマーブレンドのナノ相分離構造を三次元的に可視化することに成功した。
ゾル-ゲル法、ラジカル重合など化学反応技術を駆使して、材料に高機能表面を形成することを行った。例えば、フルオロアルキル基で修飾されたシリカナノ粒子によって容易に超撥水性・超撥油性の表面を形成する方法や、ポリマーブラシを原子移動ラジカル重合反応によって高い親水性と低摩擦特性を示す表面を形成する方法を確立した。
これらの結果は、高分子材料の表面を解析する高度な分析技術と機能性表面を形成するための精密な材料合成技術が要求される本研究領域でも基礎となる成果である。 |
6.受賞など |
平成 5年 | 繊維学会「櫻田武」記念賞「非線形動粘弾性測定に基づく高分子材料の疲労機構の解析と耐疲労性繊維材料の構築」 |
平成 7年 | 日本レオロジー学会有功賞「高分子固体の非線形動的粘弾性特性に基づく疲労挙動の解析」 |
平成11年 | 繊維学会賞「非線形動的粘弾性測定に基づく繊維・高分子材料の疲労寿命の予知解析」 |
平成13年 | BCSJ論文賞「固体基板上への有機シラン単分子膜の新しい調製法」 |
平成15年 | 高分子学会賞「有機・高分子薄膜表面のナノスケールにおける構造と物性に関する研究」 |
平成17年 | 複合材料界面科学研究会中前記念賞 |
平成19年 | 日本科学技術連盟第36回 信頼性・保全性シンポジウム奨励報文賞「接着性信頼性研究 PBT エポキシ界面の考察」 |
平成20年 | 日本ゴム協会優秀論文賞「リジンイジイソシアナートを用いたセグメント化ポリウレタンウレアの特性解析と分解挙動」 |
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