独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。(詳細情報https://www.jst.go.jp/itaku/)
本開発課題は、独立行政法人 放射線医学総合研究所 主任研究員(現同研究所 人材育成・交流課長)の白川 芳幸の研究成果をもとに、平成17年3月から平成20年3月にかけて、アロカ株式会社(代表取締役 吉川 義博、本社東京都三鷹市、資本金約65億円)に委託して、企業化開発(開発費約4700万円)を進めていたものです。
本新技術は、固定式円筒容器内に3個の扇形シンチレーター注1)(蛍光結晶)を等分割に配置し、飛来するガンマ線の方位によって各シンチレーター中に生ずる光電子の量に差異が生ずる原理を用いることで、可動機構なしに、ガンマ線の飛来方向とエネルギー領域を特定するものです。
従来、原子力利用施設で用いられてきたガンマ線検出器(モニタリングポスト)は単一シンチレーターを使用した構造で、環境放射線のレベルの変動は把握可能ですが、放射線発生源の方向の情報は得られません。今回開発に成功したガンマ線検出器は、実用上十分な精度で全方位にわたり放射線の方向を即時に決定できるうえ、放射線のエネルギー領域の測定も可能なことが確認されました。
本検出器を原子力利用施設などの周辺に複数設置すれば、異常放射線発生箇所の即時決定や、放射性物質の移動状況の監視が可能になることから、社会の安全・安心の確保に大きく貢献することが期待されます。
本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。
(背景) 原子力利用施設などにおいて、自然災害や事故により異常放射線が発生した場合に、発生箇所を即時に特定し、安全確保に反映できる監視システムが求められています。
原子力利用施設の周辺には、ガンマ線検出用のモニタリングポストを複数箇所設置して安全監視を行っています。従来の検出器は単一のシンチレーターを使用した構造で、放射線レベルの異常監視は可能ですが、発生源の方向は特定できません。このため、原子力利用施設が集中した地域では、放射線発生箇所を即時に識別し、施設内外に安全確保のための情報を提供できることが求められています。
(内容) ガンマ線の飛来方向によって3個のシンチレーター内で発生する光電子の量に差異が生ずる原理を利用して、発生方位が特定できます。
シンチレーターは放射線の入射により、蛍光を発することにより放射線の入射を検知するもので、3分割したシンチレーターの蛍光量の差により飛来方向を割り出し、この検出器を複数個設置することにより放射線の発生位置を特定することができます。また、エネルギー領域を測定することにより放射線源の種類を特定することもできます。
本新技術による検出器は、通常のモニタリングポストと同じ直径75mm程度の円筒容器に3個の扇形シンチレーターを金属板で隔てて収納したコンパクトな構造で、3個が同一材質の「分割シンチレーター」方式と、3個が異なった材質の「3種シンチレーター」方式があります。NaI(TI)注2)結晶を用いた分割シンチレーターは主にエネルギー領域の特定が、NaI(TI)、CsI(TI)注3)、BGO注4)結晶を用いた3種シンチレーターは、放射線飛来方向の決定性能に優れているという特徴があり、用途によって使い分けることができます。
(効果) 本検出器は原子力利用施設などの異常監視機能の向上や、不法な放射性物質の移動監視にも応用できることから、社会の安全・安心の確保に大きく貢献することが期待されます。
本検出器を原子力利用の発電所や研究所周辺に適用することにより、異常放射線の発生時に、極めて短時間に発生箇所と発生物質を識別できることが可能となります。また、空港・港湾などに設置することで、放射性物質の不法な移動や密輸防止のための、有効なセキュリティ監視手段となることが期待されます。
<用語解説>
注1)シンチレーター:放射線を受けると蛍光を発する結晶構造の物質
注2)NaI(TI):タリウム活性化ヨウ化ナトリウム結晶
注3)CsI(TI):タリウム活性化ヨウ化セシウム結晶
注4)BGO:ビスマスゲルマニウムオキサイド結晶
<お問い合わせ先>
アロカ株式会社 計測システム技術部 開発一課
山野 俊也(ヤマノ トシヤ)
〒198-0023 東京都青梅市今井3-4-22
Tel:0428-38-5163 Fax:0428-38-5161
独立行政法人 科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部 開発推進課
三原 真一(ミハラ シンイチ)、高野 晃(タカノ アキラ)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999