平成17年度に開始した研究開発課題「液体ヘリウムフリー 希釈冷凍機注1)、注2)」では、液体ヘリウムがなくても超低温を作り出すことができる希釈冷凍機を開発しました。また、この成果をもとに平成20年3月7日、メンバーが出資して、「株式会社 低温技術研究所」を設立しました。
希釈冷凍機は、科学者や技術者が物性物理学の分野で物質の量子力学的性質を調べたり、工業材料の開発を行う際に必要な1ケルビン注3)以下の温度を連続的に発生させることができる装置で、次世代技術の開発に不可欠なものです。
本研究開発チームは、電源と水があれば液体ヘリウム寒剤を必要とせずに超低温(30ミリケルビン)を作り出せる、画期的な機械式希釈冷凍機を開発しました。これは値段の高い液体ヘリウムを使用する従来の方式に比べて、ランニングコストを数十分の1に下げることができ、物理学の基礎研究や工業材料研究に貢献するものと期待されます。
今回の「株式会社 低温技術研究所」設立により、プレベンチャー企業および大学発ベンチャー創出推進によって設立したベンチャー企業数は、68社となりました。
独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進
研究開発課題 | : | 「液体ヘリウムフリー希釈冷凍機」 |
開発代表者 | : | 矢山 英樹(九州大学大学院 理学研究院 物理学部門 准教授) |
起業家 | : | 武石 誠司 |
研究開発期間 | : | 平成17~19年 |
<開発の背景>
物性物理学の分野では、物質の温度を下げて熱的なノイズを低減し、電気的、磁気的、熱的性質を調べる実験が一般的に行われています。また、社会を支える電子・機械・化学などの工業材料の開発においても、低温での量子力学的性質に関する知見が必要不可欠な場合があります。科学技術が高度化するにつれ、研究開発の現場でより低温が要求されるようになり、今日では1ケルビン以下から数十ミリケルビンまでの低温を作り出せる希釈冷凍機が、次世代技術の開発に不可欠なものとなっています。
しかし、これまでの希釈冷凍機は液体ヘリウムを寒剤として用いているため、取り扱いが難しく、ヘリウム液化機を所有する大きな大学や研究所でしか用いることができませんでした。また、液体ヘリウム自体が高価なため、ランニングコストが高いという問題もありました。
<研究開発の内容>
本研究開発チームが開発した希釈冷凍機では、液体ヘリウムの代わりに機械式のGM(Gifford-McMahon)冷凍機やパルスチューブ冷凍機注4)を用いて、それらをスタート温度にしてさらに低温を作り出しています。本研究開発では、最適熱設計を行い、新たに開発した機能性熱結合体注5)や熱交換器注6)などを用いることで、これらの機械式冷凍機の能力を最大限に利用し、高温部から入ってくる熱量を最小限にする独自の構造を持つ希釈冷凍機を実現しました。これにより、超伝導マグネットを装備した状態でも、30ミリケルビン(約-273℃)の超低温を長時間安定して維持することが可能となりました。
<今度の事業展開>
「株式会社 低温技術研究所」は今後も、これまでに培った液体ヘリウムフリー希釈冷凍機の技術を核に、液体ヘリウムを用いない低温機器の開発を行っていきます。特に、「無冷媒注7)多目的物性測定システムの研究開発」や、無冷媒超伝導マグネット注8)などの低温機器の製造・販売および受託研究開発、コンサルティングを行い、事業化後3年以内に年間約3億円の売り上げを目指します。なお、「無冷媒多目的物性測定システムの研究開発」に関しては、経済産業省の「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」に基づく特定研究開発等計画として、平成20年4月18日に認定を得ました。
<お問い合わせ先>
株式会社 低温技術研究所
〒812-0003 福岡市東区唐原2-15-2
武石 誠司(タケイシ セイジ)
Tel/Fax: 092-672-6889 E-mail:
九州大学 大学院理学研究院 物理学部門 矢山研究室
〒810-8560 福岡市中央区六本松4-2-1
矢山 英樹(ヤヤマ ヒデキ)
Tel/Fax: 092-726-4731
独立行政法人 科学技術振興機構 産学連携事業部 技術展開部 新規事業創出課
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