JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第500号 > <用語解説>

<用語解説>

注1)ヘマグルチニン
 赤血球凝集素。インフルエンザウイルスの表面に存在し、宿主細胞膜上の糖鎖と結合することで細胞内にウイルスが侵入する。糖鎖もしくは抗体との結合領域のアミノ酸残基が非常に変異しやすいことが抗体の作製やワクチン開発を困難にしている理由の1つである。

注2)第一原理分子軌道計算
 経験的パラメータ-を用いない、量子力学的手法による分子の波動関数(軌道)の計算。ハートリー‐フォック(HF)法や電子相関(注5参照)効果を取り入れたポストHF法などが用いられる。

注3)フラグメント分子軌道(FMO)法
 京都大学の北浦和夫教授により考案された、分子をフラグメント(アミノ酸残基等)に分割し、フラグメントのモノマー、ダイマー計算から分子全体の電子状態を計算する高精度の近似計算法。

注4)分散力
 アルキル基やベンゼン環などの疎水性グループ間に働く引力的な相互作用で、たんぱく質の疎水性アミノ酸残基間の相互作用やDNAにおける塩基分子のスタッキングなどで重要な働きをしている。

注5)電子相関
 ハートリー‐フォック(HF)法の1電子平均場近似では取り込まれない電子間の反発の効果。MP2法(注6参照)などのポストHF計算で導入される。

注6)MP2(Second-order Møller-Plesset perturbation)法
 HF法による平均場近似からのズレを2次の摂動として取り扱うことで電子相関を導入するポストHFの計算法。2電子積分の基底関数添字から分子軌道添字への変換が処理コストを支配する。分散力の寄与を取り込むことができる。

注7)フォック行列
 HF法で1電子平均場のエネルギーを記述する行列。基底関数による2電子積分と電子密度行列の縮約によって構築される。

注8)並列ベクトル計算
 ベクトル型プロセッサ(VPU)(注9参照)を基本単位として並列化することにより、大規模系を超高速に処理することが可能な計算処理技術。

注9)VPU
 パイプライン処理(並行して複数の命令を処理する方式)により高速数値計算が可能なベクトル型プロセッサ。

注10)原子軌道積分
 分子軌道を展開して原子基底関数により電子間の反発を表現する積分量で、4つの添字を持つため効率的な処理には工夫が必要である。

注11)抗体圧
 抗原はアミノ酸変異を繰り返して抗体による認識を避ける。抗原からみたときの、この抗体の分子認識能を「抗体圧」とよぶ。