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科学技術振興機構報 第486号

平成20年3月6日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

マイクロサージャリー手術用の
高精度なマスター・スレーブ方式マニピュレータロボットの開発に成功

 JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「高精度マイクロサージャリー装置」の開発結果を、成功と認定しました。
 本開発課題は、大阪市立大学 医学部整形外科 臨床准教授 五谷 寛之の研究成果をもとに、平成15年12月から平成18年12月にかけて株式会社 エヌエスティー(代表取締役社長 服部 貴應、本社・静岡県浜松市北区新都田4丁目3番1号、資本金 5,000万円)に委託して、企業化開発(開発費約44百万円)を進めていたものです。本新技術は、マイクロサージャリー手術注1)を支援するための高精度なマスター・スレーブ方式マニピュレータ注2)ロボットシステムを構築する装置に関するものです。
 微細な血管縫合などを実施するマイクロサージャリー手術は、高い技量を持つ経験の豊富な手術スタッフがいる限られた病院以外での実施が難しいため、マイクロサージャリー手術を支援するための高精度なマニピュレータ装置が求められています。
 本開発では、操作する人間の手の動きを入力するための「マスター部」と、そのマスター部の動きを縮小再現する「スレーブ部」を作製し、各部の小型軽量化を図りました。
 マスター部とスレーブ部間の制御には高速なIEEE1394注3)通信方式を用いており、汎用パーソナルコンピューターでも高速かつ高い追従性を持った動作の制御が可能です。また、動作の繰り返し再現性や分解能にも優れたマニピュレータ装置となっています。
 本新技術の支援により、近い将来マイクロサージャリー手術が広く普及し、安定した高度医療の供給が期待されます。また、このマスター・スレーブ方式マニピュレータロボットシステムは、精密機械分野やバイオ関係製造設備など医療分野以外への広範な利用も期待されます。

(背景) 微細な血管縫合などを実施するマイクロサージャリー手術を支援する装置が求められています。

 交通事故や工場の作業中の事故などで指を切断する事例が毎年多数発生していますが、切断された指は微細な血管の縫合によって再接着・再生させることが可能です。このような微細な血管縫合などを実施するマイクロサージャリー手術は、経験豊富な手術スタッフがいる限られた病院で実施されており、それ以外の病院では難しいのが現状です。そのため、マイクロサージャリー手術を支援するための高精度なマニピュレータ装置が求められています。

(内容) 高精度かつ高速な制御方式を用いたマスター・スレーブ方式マニピュレータロボットシステムを開発しました。

 本新技術は、操作する人間の手の動きを入力するための機械式アーム構造の「マスター部」と、そのマスター部の動きを縮小再現する「スレーブ部」からなり、小型軽量化を図ることによって、マイクロサージャリー手術で使用する顕微鏡などへの実装性の高いものとなっています。
 また、マスター部とスレーブ部間の制御に、高速なIEEE1394通信方式を使用することで高速かつ高い追従性を持った動作が可能となりました。
 さらに、動作の繰り返し再現性や分解能にも優れているため、スレーブ部での微細な作業も可能となりました。

(効果) マイクロサージャリー手術だけでなく、さまざまな応用展開が期待されます。

 本新技術を活用して、微細な血管・神経を操作する際の長時間にわたる組織保持や縫合作業などを直接支援することにより、マイクロサージャリー手術において手術スタッフを補助することが期待されます。
 また、本新技術の高精度・高速・高追従性などの特徴を生かして、微細な動作を要求される精密機械分野やバイオ関係製造設備などへの応用展開も期待されます。

図1 技術の概要
図2 マスター部
図3 スレーブ部
開発を終了した課題の評価

※本装置のデモンストレーションは、下記のアドレスからダウンロードできます。
 https://www.jst.go.jp/pr/info/info486/nst.mpg (MPEG1形式 7,138KB)

<用語解説>

注1)マイクロサージャリー手術
 肉眼で実施するのが困難な、微細な血管の縫合などを顕微鏡を覗きながら行う手術のこと。手術スタッフには非常に高度な技量と経験が必要とされる。

注2)マニピュレータ
 ここでは人の腕の動きを模した動作を可能とする機械、ロボットのこと。

注3)IEEE1394
 さまざまな機器とコンピューターを接続する高速通信規格のこと。接続が安定しており転送効率が高いなどの特徴がある。

<お問い合わせ先>

株式会社 エヌエスティー
〒431-2103 静岡県浜松市北区新都田4丁目3番1号
システム開発部 松浦 年宏(マツウラ トシヒロ)
Tel: 053-428-4311  Fax: 053-428-4312

独立行政法人 科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部開発推進課
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