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科学技術振興機構報 第474号

平成20年2月7日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

CT画像から歯科インプラント手術用サージカルガイドを
高精度に量産する技術開発に成功

 JST(理事長 北澤宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「歯科インプラント手術用骨上ステント」の開発結果を成功と認定しました。
 本開発課題は、大阪大学大学院歯学研究科教授 荘村泰治らの研究成果を基に、平成16年10月から平成19年10月にかけて和田精密歯研株式会社(代表取締役社長 和田主実、本社・大阪市淀川区東三国1丁目12番15号辻本ビル6階、資本金100百万円)に委託して、企業化開発(開発費約131百万円)を進めていたものです。
 歯が欠損したり両隣に歯がない場合の治療法として近年、人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯を装着する歯科インプラント手術がかなり普及しています。しかし、歯科医師の勘と経験による手技に頼る手術のため、医療事故や不適切な処置の事例が増えており、手術の安全性を高める支援システムが望まれていました。
 本新技術は、歯科インプラント手術時に骨に人工歯根を埋めるための孔を開けるドリルが最適な位置に導かれるよう、サージカルガイド注1)を患者ごとに形状設計し、ガイドを高精度に量産する技術を確立したものです(表1)。本開発では、コンピューター断層撮影装置(CT)で撮影した患者の顎骨部の画像から3次元画像を作り、コンピューター上で患者の残存歯や骨の状態に合わせて人工歯根の最適な埋込位置をシミュレーションし、そこにドリルを導くサージカルガイドを設計しました。設計CAD注2)の座標軸データを3次元積層造形装置に送出し、樹脂の積層により3次元のサージカルガイドを高精度に造形することができました。
 本新技術のサージカルガイドにより、歯科医師はガイドを患者の歯面や骨面に装着してドリルすると、シミュレーションどおりの正確な位置と方向に穿孔でき、正確な人工歯根の埋め込みができるため、歯科インプラント手術の安全性が大きく向上しました。また、サージカルガイド設計用のCTデータから患者の顎骨模型も造形できるため、サージカルガイドと模型により歯科医師が執刀前に手術シミュレーションして安全確認でき、患者も手術を理解しやすくなります。
 さらに、従来は歯肉を剥離してインプラント手術するのが主流でしたが、本サージカルガイドは口腔内の骨や神経管を3次元的に極めて高い精度で確認して設計・造形されているため、歯肉を剥離しないで低侵襲でインプラント手術を行うことも可能となりました。手術方法の選択肢も広がり、手術時間の大幅短縮や患者への負担軽減に貢献するものです。
 なお、本サージカルガイドは一般医療機器の届出番号を取得しており、和田精密歯研株式会社が平成20年2月7日から販売します。

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 歯科インプラント手術の安全性を高める支援システムが切望されていました。

 歯が欠損したり両隣に歯がない場合の治療法として、人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯を立てる歯科インプラント手術がかなり普及しています。しかし、歯科医師の勘と経験による手技に頼る手術のため、医療事故や不適切な処置の事例が増えており、手術の安全性を高める支援システムが切望されていました。その一例として、人工歯根植立用のドリルを穿孔位置に導く治具としてサージカルガイドが使われる例がありますが、従来のガイドは患者の歯肉形状を基に設計されるため、実際の手術で歯肉を剥いで骨に固定する際にずれが生じるなど、位置決め精度に限界がありました。また、多種多様の人工歯根やドリルが市販されているため、どのメーカーの人工歯根にも使える汎用性の高いサージカルガイドが求められていました(表1)。

(内容) CT画像から歯科インプラント手術用サージカルガイドを高精度に量産する技術を確立しました。

 本開発では、患者ごとに最適な形状のサージカルガイドを高精度に設計するために、コンピューター断層撮影装置(CT)で撮影した患者の顎骨部の画像から3次元画像を作り、設計データとして用いました。
 また、患者口腔に歯科治療で入れた金属修復物があると、CT撮影画像がアーチファクト注3)により乱れて正確な顎骨像が分からなくなるため、画像処理時にアーチファクトを除去するために用いるCT撮影用キットを開発しました。CT撮影用キットを患者の石膏歯型に装着して高精度3次元形状計測機で計測し、この画像を変換して患者の顎骨CT画像と統合してアーチファクトを除去する方法により、正確な顎骨像情報が得られるようになりました。このため、サージカルガイドの設計精度と信頼性が大幅に向上しました(図1)。
 次に、コンピューター上で顎骨部の骨密度や人工歯根植立後の骨強度をシミュレーションしながら人工歯根の最適位置を決めるため、触力覚感知デバイス注4)を用いたサージカルガイドの設計手法を開発しました(図2)。
 さらに、サージカルガイドの設計CADの座標軸データを3次元積層造形装置に送出し、インクジェット式に樹脂を積層することにより実物のサージカルガイドを造形することができます(図3)。この方法はRP(ラピッドプロトタイピング)注5)技術として、工業界を中心に高精度・高速にCAD/CAM注2)する手法として普及していますが、本開発ではそれを歯科技工物に応用したものです。本法により製作したサージカルガイドの寸法を計測した結果、極めて高い精度で造形されていることが確認されました。また開発期間中、数多くの臨床実績の症例を積み上げ、歯科医師より高い評価を得ました。なお、本サージカルガイドは一般医療機器の届出番号を取得しています。

(効果) 歯科インプラント手術の安全性向上、手術時間短縮、患者負担軽減に貢献します。

 本新技術のサージカルガイドにより、歯科医師はガイドを患者の歯面や骨面に装着してドリルすると、シミュレーションどおりの正確な位置と方向に穿孔でき、正確な人工歯根の埋め込みができるため、歯科インプラント手術の安全性が大きく向上します。また、サージカルガイド設計用のCTデータから患者の顎骨模型も造形できるため、サージカルガイドと模型により歯科医師が執刀前に手術シミュレーションをしたり患者への説明に用いたりすることができます。
 さらに、インプラント手術の方法として、従来は歯肉を剥離して骨にサージカルガイドを載せるフラップ手術注6)が主流でしたが、本サージカルガイドは口腔内の骨や神経管の高精度3次元情報を基に設計・造形されるため、歯肉を剥離しないフラップレス手術注6)を行うことも可能です。このような低侵襲の手術方法は、手術時間の大幅短縮や患者への負担軽減に貢献します。この他、本サージカルガイドには下記のような特徴があり、サージカルガイドの一層の普及が期待されます。

1 複数の歯が欠損したり人工歯根と神経の場所が近かったりするなどの理由で、従来はインプラント手術が難しかった患者にも安全に手術が行えるようになります。
2 本サージカルガイドのガイド孔は、どのメーカーのインプラント器具・機械にも対応できる工夫をしているため、既にインプラントシステムを導入している歯科診療所でも大きな投資をすることなく本サージカルガイドを使用できます。
3 術前にインプラント上の歯冠を歯科技工士が石膏歯型上で作成し、インプラント手術と同時に歯冠を装着できます。これにより、従来は手術から歯冠装着まで半日から1日要していたところを、約1時間で終了できるようになります(注:時間は手術本数よって変わる)。

表1 従来技術と新技術の比較
図1 患者CT画像
図2 シミュレーション画面
図3 顎骨模型と各種ドリルに対応したサージカルガイド
<用語解説>
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

和田精密歯研株式会社 生産本部
〒533-0031 大阪府大阪市東淀川区西淡路6丁目1-41
顧問      熊澤 洋一(クマザワ ヨウイチ)
常務取締役 樋口 鎮央(ヒグチ シズオ)
TEL: 06-6321-8550 FAX: 06-6321-8427

独立行政法人科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部 開発推進課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3
三原 真一(ミハラ シンイチ)、沖代 美保(オキシロ ミホ)
TEL: 03-5214-8995 FAX: 03-5214-8999