【用語説明】

1)アクチン線維
 細胞の構造や運動を支える細胞骨格の構成蛋白質の一種。その一つ一つは互いに重合して、安定なひも状のポリマーを形成する。このひも状のアクチンポリマー(アクチン重合)がバラバラに分解したり、互いに集合し束になることで細胞の形が変化できるようになる。
2)分子モーター
 「運び屋」と呼ばれる細胞内の物質輸送に必要な特殊な蛋白質。大きさは数十ナノメータ程である。分子モーターを人間の大きさにたとえるなら、地球2周半の距離を、10tトラックほどの大きさの物質を抱え、速い例では秒速100m程で走ることになる。細胞内の蛋白質や膜の小胞を支え、アクチンや微小管のような細胞骨格線維をレールとして物質を輸送する。
3)単分子スペックル法(スペックル=斑、斑点)
 生きた細胞内の分子挙動のダイナミクスをCCDカメラと高精度蛍光顕微鏡を組み合わせた装置で1分子ごとに捉えるイメージング手法。生きた細胞内に極低密度の蛍光標識蛋白質を導入する。個々の分子が細胞内で自由拡散している状態を止め、細胞骨格に結合した時のみ、小さな点状の「スペックル」シグナルとして捉えられるので、アクチン重合分布や世界初のアクチン線維の寿命分布の計測などに応用されている(Watanabe and Mitchison, Science 295, 1083, 2002; 図1参照)。
4)mDia1蛋白質
 1997年、平滑筋収縮や神経突起退縮、細胞質分裂などを制御する細胞内情報伝達分子(Rho)に結合する蛋白質として我々が報告した(Watanabe et al. EMBO J. 16, 3044, 1997)。また、mDia1は、マウスの培養細胞のアクチン線維形成を誘導することが分かっている(Watanabe et al. Nat. Cell Biol. 1, 136, 1999)。酵母についても、mDia1に類似のForminファミリー蛋白質(用語説明5)が、アクチンケーブル形成に重要なことが判明している。ヒトにおいては、mDia1の変異が、難聴を起こすことも分かっている。今回の研究成果により、mDia1に関する新たな重要機能が追加された。
5)Forminファミリー蛋白質
 Formin蛋白質の多くは、細胞質分裂や酵母の出芽など、細胞の形態形成に重要な蛋白質として同定されてきた。Forminファミリー蛋白質は、アミノ酸配列上、FH1、FH2と呼ばれるFormin蛋白質特有の共通した分子構造を有する。最近、このFH1-FH2構造がアクチン重合を加速し、線維の重合端に結合することが生化学的に明らかにされている。

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This page updated on March 26, 2004

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