JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第368号 >用語解説

<用語解説>

(注1)マスター遺伝子
ある細胞が特定の細胞種へと分化するための指令スイッチとして機能する遺伝子。マスター遺伝子が欠損すると細胞分化が起こらなくなり、逆にマスター遺伝子を強制的に発現させることによって、本来、起こりえないはずの細胞分化を誘発できます。例えば、動物では、やはり
bHLH転写因子(注2)をコードするMyoDは筋細胞分化のマスター遺伝子であり、MyoDを強制的に発現させることにより、あらゆる細胞を骨格筋に変換させます。

(注2)bHLH転写因子
ベーシック・ヘリック・ループ・ヘリック型モチーフを持つ転写因子の総称。ベーシック(塩基性)領域はDNA結合部位であり、へリックス・ループ・へリックス領域は主に2つのタンパク質間の相互作用部位として働きます。一般に、動物では、bHLH因子は細胞増殖および神経細胞の分化や筋肉細胞の分化を支配するマスター因子として機能します。

(注3)原表皮細胞
未分化な状態の表皮細胞の総称。作られたばかりの未熟な器官の表皮は原表皮細胞から成り、後に様々な細胞へと分化します。

(注4)孔辺細胞
気孔開口部を囲む、一対の唇型の特殊化した細胞。孔辺細胞が水分を取り込み膨張することにより、気孔が開口します。

(注5)非対称分裂
細胞分裂の結果生じる2つの娘細胞が異なる性質(すなわち発生運命)を示す場合、そのような分裂は非対称分裂と呼ばれます。非対称分裂は、動植物そして菌類を問わず細胞の多様性を作り出します。

(注6)メリステモイド細胞
表皮細胞の非対称分裂により生じる未分化細胞。小さくて特徴的な三角形の細胞です。一過的な幹細胞としての性質を持ち、非対称分裂を複数回繰返します。最終的にメリステモイド細胞は孔辺母細胞へと分化します。

(注7)前駆細胞
一定の細胞へ分化する能力を備えた細胞の総称。ただし、幹細胞とは異なり限られた細胞種に分化する能力しか持っていません。

(注8)孔辺母細胞
孔辺細胞の前駆体で、特徴的な丸い形状をしています。対称分裂を一回することにより一対の孔辺細胞を作り出します。

(注9)下流遺伝子
マスター遺伝子によって制御される多数の遺伝子群のこと。