JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第357号 >用語解説

<用語解説>

(注1)透析アミロイド病:
透析アミロイド病は透析歴10年以上の長期透析患者に高頻度で発症する合併症であり、本来、機能的なたんぱく質であるβ2ミクログロブリンがアミロイド線維を形成して沈着し、手首や肩の激しい痛みや運動障害を伴う主根幹症候群を引き起こします。

(注2)アミロイド線維:
体内に沈着するたんぱく質性の沈着物です。幅は約10ナノメータで、枝分かれのない線維構造をつくっていることが知られています。アミロイド線維の沈着する疾患の総称をアミロイド病(あるいはアミロイドーシス、amyloidosis)と言います。医学用語としては、繊維ではなく、線維を用いるのが一般的です。

(注3)β2ミクログロブリン:
免疫機能を担うクラスI組織適合性抗原というたんぱく質複合体を構成する、99個のアミノ酸からなるたんぱく質であり、全身の細胞に存在する生命活動に必須のたんぱく質です。たんぱく質が古くなると血液中に放出され、その後、腎臓で分解されます。透析患者では、腎臓で分解することができず、また、透析医療によっても除去できないために血中濃度が上昇します。この状態が長年にわたって続くことが、透析アミロイド病の原因となると考えられています。

(注4)アミロイド病:
ヒトでは、約20種類のアミロイド病が知られています。アルツハイマー病(A ペプチド)、透析アミロイド病(β2ミクログロブリン)、甲状腺髄様がん(カルシトニン)、ALアミロイドーシス(免疫グロブリンL鎖)、家族性アミロイドポリニューロパチー(トランスサイレチン)、家族性アミロイドーシス(リゾチーム)、パーキンソン病(αシヌクレイン)などの他、日本でも見つかり大きな社会問題となっている狂牛病や、既に知られていたクロイツフェルトヤコブ病などのプリオン病(プリオンたんぱく質)もアミロイド病です。カッコ内は原因たんぱく質であり、それらの多くは本来、生命機能を支える重要なたんぱく質です。

(注5)X線結晶解析:
電磁波の一種であるX線は結晶中の原子の間隔と同程度の波長を持ちます。そのことを利用して、結晶を回折格子と見立てて指向性の高いX線ビームを当てると、回折X線の方向は「ブラックの条件」によって決まります。そこで、回折X線を撮影した像(回折像)を基に逆算することで結晶構造の最小単位である単位格子の大きさを決め、最終的に結晶の構造を定めることが出来ます。最近は解析技術が発達したことで、分子量の大きいたんぱく質結晶に対しても、回折像から単位格子に存在するたんぱく質の電子密度分布を求め、その情報をもとに立体構造を決定することができます。

(注6)溶液核磁気共鳴と固体核磁気共鳴:
核磁気共鳴(かくじききょうめい、Nuclear Magnetic Resonance, NMR)は外部静磁場に置かれた原子核が固有の周波数の電磁波と相互作用する現象。これを利用してたんぱく質の立体構造を決定することが可能となります。NMRには水溶液中に溶けたたんぱく質を対象とする溶液NMRと、水に溶けない物質を対象とする固体NMRがあります。固体NMRは膜たんぱく質やアミロイド線維の構造解析の手法として期待されています。

(注7)ペプチド:
たんぱく質より小さい、決まった順番で様々なアミノ酸がつながってできた分子の系統群のことです。たんぱく質を構成するアミノ酸20種類と他2種類の合計22種類のアミノ酸から構成されます。

(注8)たんぱく質のフォールディングとミスフォールディング:
本来、一次元的なポリペプチドであるたんぱく質は、折りたたまれることによって立体構造を形成します。たんぱく質の立体構造形成反応は、イメージとしては折り紙(ペーパーフォールディング、paper folding)に似ており、プロテインフォールディング(protein folding)と呼ばれます。たんぱく質の折り紙がうまくできなかった場合を、ミスフォールディング(misfolding)と呼びます。

(注9)タンパク3000プロジェクト:
核磁気共鳴やX線結晶解析を駆使すると共に、我が国の研究機関の能力を結集して、主要と思われるたんぱく質の1/3(約3000種)以上の基本構造及びその機能を解析する文部科学省のプロジェクト。

(注10)アミロイド線維をナノスケールの材料として開発利用:
アミロイド線維は幅が10ナノメータ、長さが数マイクロメータに及ぶ剛直で均質な線維です。アミロイド線維をナノワイヤーなどのナノテクノロジーの素子として開発利用しようとする研究が盛んになりつつあります。