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科学技術振興機構報 第337号

平成18年9月11日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL https://www.jst.go.jp

電磁波の3つの性質を同時測定する高精度地下探査システムの開発に成功

(地下の空洞や埋設物調査、土質調査に利用)

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業委託開発の開発課題「浅部地下異常探知システム」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、京都大学大学院工学研究科 教授 芦田譲及び同 教授 松岡俊文らの研究成果を基に、平成15年3月から平成18年3月にかけて大日本コンサルタント株式会社(代表取締役社長 船木健治、本社 東京都豊島区駒込三丁目23番1号、資本金13億9,900万円、電話:03-5394-7611)に委託して、企業化開発(開発費約70百万円)を進めていたものです。
 これまでの地下物理探査は、資源探査分野を中心として、いかに探査深度を増大させるかという点に技術の焦点が向けられ、地下5m程度の地下浅部はあまり重要視されてきませんでした。しかし、防災や環境対策の面からは、地下浅部の調査こそが重要となるため、地下5m程度までを高精度に調査できる浅部地下異常探知システムが望まれていました。
 本新技術は、電磁波の伝播定数(注1)を構成する誘電率(注2)透磁率(注3)導電率(注4)の3物性を3つのセンサで同時に測定し、3物性の影響し合う割合を解析することにより、地下浅部に存在する多種多様な地下異常物の3物性3次元分布を決定する技術です(図1)。本新技術では、1つの物性測定のみを行う従来の探知機に比べて探知能力が大幅に向上するため、従来は探知が困難であったもの、例えば空洞やプラスチック製埋設物や河川堤防などの土質を、迅速で信頼性が高く、且つ低コストで調査できるようになります。 本開発では、地中レーダ(注5)電磁誘導測定装置(注6)磁力計(注7)の3つのセンサを開発すると共に、各センサ間の相互干渉を極力排し、3物性を高精度に同時測定できるシステムを完成させ、フィールドテストにおいて、異常物の3物性を同時測定できることを確認しました。
 本新技術は、建設分野における地下異常調査(例えば、道路、トンネル、のり面における空洞や亀裂調査、埋設物、遺跡調査等)、河川堤防の堤体及び基礎地盤の土質調査、工場跡地等における土壌汚染調査、人工構築物の劣化度診断調査などに活用されることが期待されます。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  地下浅部を対象とした迅速測定、高信頼性、低コストの物理探査法が望まれていました。

 地下を掘らずに非破壊で物理的性質から地下を探査する方法には、弾性波探査、電気探査など様々な方法が従来からありますが、測定点ごとに機器をセットして測定する必要があるなど非常に手間がかかりました。また、どれも一つの物性だけを測るため不得意な異常物があり、また、地表から浅い地点の分解能は必ずしも十分なものではありません。一方では、近年、道路防災や河川防災の観点からの地下探査、また土壌汚染調査の必要性が増しており、これら従来法に代わる、精度良く非破壊で調査できる新しい物理探査技術の開発が求められていました。

(内容)  地中レーダ、電磁誘導測定装置、磁力計の3つのセンサで連続同時測定する浅部地下異常探知システムを開発しました。

 本新技術は、電磁波の伝播定数を構成する誘電率、透磁率、導電率(比抵抗の逆数)の3要素を3つのセンサで同時に測定し、3要素の影響し合う割合を合理的に評価することにより、地下浅部の多種多様な地下異常の3要素の3次元分布を決定する技術です(図1)。本開発では、3物性同時測定を可能とするためのセンサ間の相互干渉を排除しながら、各センサは従来品の同等以上の性能を有するシステムとするため、下記の項目を初めとする様々な工夫を行いました。
1地中レーダ:誘電率測定用。2組の直交する送受信アンテナを用いることにより、測定方向に依存しない測定が可能としました。
2電磁誘導測定装置:比抵抗(導電率の逆数)測定用。高速度電流遮断、高速度サンプリングを開発することにより、花崗岩のような硬岩の2,000Ω・m程度の高比抵抗地盤でも測定可能となり、ほとんどの地質に対応できるようにしました。
3磁力計:透磁率測定用。3軸間の直交性の狂いやセンサ部のリングコアの自己及び相互の干渉により、それぞれ数10nT(ナノテスラ)~200nT程度の誤差が生じます。この誤差を補正するためのソフトを開発し、3成分測定による全磁力測定を精度良く行えるようにしました。
4センサ相互の干渉回避:地中レーダと電磁誘導測定装置のタイムシェアリング測定(注8)を行い、相互干渉を回避しました。また、電磁誘導測定装置の送信電流が同じシステムの近くにある磁力計に影響を及ぼさないようにしました。
さらに、各センサの時間合わせはGPS(注9)で行うなど、複雑な信号処理を行うソフトウエアの開発も行い、浅部地下異常探知システムを完成させました(図2)。また、異常物を埋設したフィールドで、人間がゆっくり歩く程度の早さでシステムを牽引してテストした結果、地表から5m以内の地下異常物の3物性を連続測定できていることが確認されました。

(効果)  迅速で信頼性が高く、且つ低コストの地下浅部探査が可能になります。

 本浅部地下異常探知システムは、従来よりも広範囲の地質条件下で地下異常物を、迅速に信頼性、再現性よく、調査できることから、従来方法よりも精度を大幅に向上させ、地下異常調査(道路、トンネル、のり面における空洞・亀裂調査、埋設物・遺跡調査)、河川堤防の点検、土壌汚染調査(重金属汚染など)、コンクリート構造物の劣化度調査などでの活用が期待されます。また、3物性を同時計測できるため、調査期間が短縮でき、調査コスト削減も可能にします。

用語解説
図1 新技術のイメージ
図2 浅部地下異常探知システム
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

大日本コンサルタント株式会社
技術統括室  笹川 滋(ササカワ シゲル)
〒170-0003 東京都豊島区駒込3丁目23番1号
TEL: 03-5394-7616 FAX: 03-5394-7606

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