JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第317号(資料2)新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要 > 研究領域:「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者及び研究課題


8 戦略目標 「メディア芸術の創造の高度化を支える先進的科学技術の創出」
研究領域 「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」
研究総括 原島 博(東京大学大学院情報学環・学際情報学府 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
稲蔭 正彦 慶應義塾大学環境情報学部 教授 ユビキタス・コンテンツ製作支援システムの研究 本研究では、21世紀の新しいデジタルコンテンツ分野における生活に密着した生活者のためのユビキタス・コンテンツを提案し、ユビキタス・コンテンツ製作を支援するためのシステムを開発し公開します。また、良質なコンテンツを創出するためのコンテンツデザイン理論を確立し指針としてまとめます。さらに、コンテンツ製作支援システム及びデザイン理論を活用して良質なユビキタス・コンテンツを製作し普及促進活動を行ないます。
河口 洋一郎 東京大学大学院情報学環 教授 超高精細映像と生命的立体造形が反応する新伝統芸能空間の創出技術 世界にも類例のない、"科学の美の高度な芸術化"を目指して、自然の造形美による生物的CG技術、超高精細映像(スーパーハイビジョン)の表現技術、生き物のように反応するメカニックな立体造形技術の開発を行い、これらと日本の伝統芸能とを有機的に連動させ、『新伝統芸能』として先端化するための空間の創出技術の開発を行います。
斎藤 英雄 慶應義塾大学理工学部 情報工学科 教授 自由空間に3次元コンテンツを描き出す技術 レーザーにより空気中にプラズマ発光を誘起することにより、空気以外に何も存在しない自由空間に3次元の実像を描き出す3次元表示デバイス技術を実用レベルにまで高め、新たな3次元コンテンツ産業を開拓することが、本提案の目的です。このために、3次元表示デバイスの高画質化・大規模化のための研究開発、3次元コンテンツの制作技術基盤に関する研究開発、そして、3次元コンテンツに対する社会的需要調査と、広告等を想定した実証実験を実施します。
須永 剛司 多摩美術大学美術学部 情報デザイン学科 教授 情報デザインによる市民芸術創出プラットフォームの構築 人々がそれぞれの日常を言葉やビジュアルで表現すること、それらをデジタルメディア作品としてネットに公開すること、社会において共有・交換すること、それが「市民芸術」です。本研究では、情報科学技術のシステムと人々の表現活動の組織化からなる「市民芸術創出プラットフォーム」を構築し、そこに、大量のコンテンツとしての人々の語りが形成する豊かな「表現の社会」のための基盤技術を創成します。
藤幡 正樹 東京芸術大学大学院映像研究科 教授 デジタルメディアを基盤とした21世紀の芸術創造 芸術と科学の融合研究として「描画」をとりあげ、人間の根源的表現行為のひとつである「『描く』を科学する」ことから、ロボットやソフトウェアによるシミュレーションの開発実践を通して、人はなぜ絵を描くのかについて追求します。
渡辺 富夫 岡山県立大学情報工学部 教授 人を引き込む身体性メディア場の生成・制御技術 観客があってこそ成立するメディア芸術の創造支援を対象として、身体性を活かして演者と観客が一体化するメディア場を創出するために、仮想観客を生成して身体的引き込みにより場を盛り上げる「身体的引き込みメディア」、観客を取り込んだ場を統合表現する「身体的空間・映像メディア」、身体運動により音響場を生成する「身体的音響メディア」を研究開発し、統合して人を引き込む身体性メディア場の生成・制御技術を確立します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:原島 博(東京大学大学院情報学環・学際情報学府 教授)

 「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」研究領域は、今年度が3回目で最終の募集になる研究領域です。
 デジタルメディア作品の質の大幅な向上を図るためには、芸術的な感性だけでなく、作品の創造を支える科学技術の研究開発が必須です。この観点から本研究領域では、メディア芸術作品の制作を支える先進的・革新的な表現手法、これを実現するための新しい基盤技術を創出する研究を対象としています。
 本研究領域の公募に対し、チーム型研究(CREST)では36件の応募がありました。その内訳は、国立・私立大学が83%、独立行政法人・公益法人が14%、民間企業が3%でした。これらの応募に対して、基盤技術、メディアアート、アニメ・映画、ゲーム、放送・ネットワーク等の分野の第一線で活躍しておられる10名の領域アドバイザーと共に厳正な審査をおこないました。
 審査は、まずそれぞれの提案について書類審査をおこない、そのうち特に内容の優れた13件を対象として面接選考を実施しました。その結果、本年度は6件の提案が採択され、応募に対して6倍もの高い競争率になりました。
 なお、今回の選考に際しては、研究の狙い、新規性、独創性、研究計画、研究実施体制などの項目に加えて、コンテンツ制作者やメディアアーティストとの協働が期待できること、実際の制作現場においてデジタルメディア作品制作の高度化に資する基盤技術であることなどが昨年同様重視されました。
 その観点から、基盤技術の研究者が中心となった提案で、従来の大学等の研究室での研究のそのままの延長であるかのような印象を与えたものは、低い評価となりました。また、メディア芸術やコンテンツの関係者が中心となった提案で、基盤技術の研究開発課題が明確でないものも、高い評価が得られませんでした。一方で、日本のデジタルメディア作品の制作体制を効率的なものに一新させ、さらに近未来の多様な映像表現創成に不可欠となる基盤技術を構築するという提案などが高い評価を得ました。
 今年度は最終の募集ということもあり、充分に準備・検討されたレベルの提案が多くありました。そうした中での難しい選考でしたが、これまでの従来型のコンテンツ制作の基盤技術に加え、新たな領域開拓の可能性が期待される多岐にわたる課題を採択することができ、最終年度に相応しい選考となりました。