JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第317号(資料2)新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要 > 研究領域:「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者及び研究課題


7 戦略目標 「新たな手法の開発等を通じた先端的な計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の創出」
研究領域 「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」
研究総括 柳田 敏雄(大阪大学大学院生命機能研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
佐々木 裕次 高輝度光科学研究センター利用促進部門 構造物性III 主幹研究員 高精度1分子内動画計測から見える生体分子構造認識プロセス 生体高分子が機能発現に伴い分子内部で構造変化する様子や新たな動的構造特性に変化する様子を原子レベル以下の精度でマイクロ秒1分子動態計測する技術は究極的手法と言えます。本研究ではX線1分子追跡法をマイクロ秒へ高速化し、ラボサイズ装置の電子線1分子追跡装置を開発します。走査型X線放射圧顕微鏡の開発も進め、極めて微細な分子構造認識の差がその後の生命反応の鍵を握る免疫系や生体膜系の高速1分子計測を行います。
中山 喜萬 大阪大学大学院工学研究科附属フロンティア研究センター 特任教授 カーボンナノチューブを用いた単一生体分子ダイナミクスの計測 生体反応は、分子の構造変化や相互作用、エネルギー移動を伴って進行します。これを分子レベルで解明するために、本研究はカーボンナノチューブの優れた電気機械的性質を利用して変位と熱流の検知デバイスを開発し、数ミリ秒の時間分解能でゼプトグラム精度の質量とpN 精度の2次元力、10-19J精度の熱量を計測する技術を構築します。この基盤技術は、将来の超高感度センサやナノマシンの開発、ナノ医療への発展が期待されます。
永山 國昭 自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター 教授 ns-nm分解能の光子・電子ハイブリッド顕微鏡の開発 生物試料を観る電子顕微鏡技術は最近まで重金属染色が必須でしたが、急速凍結技術と位相差法の融合で最近無染色の凍結試料の電顕像が高コントラ ストで撮れるようになりました。本研究はこれを更に一歩すすめ常温常圧の生きた試料をそのまま電顕で観察する方法を開発するために、パルス光電子銃、雰囲気試料室および位相差法の3つの要素技術の融合を目指します。特にパルス光電子銃と技術開発と対応する新規の電子レンズ設計に重点をおいて研究を進めます。
樋口 秀男 東北大学先進医工学研究機構 教授 In vivoナノイメージング技術の開発と生体運動機構の解明 動物個体の機能を分子レベルで理解するために、マウスin vivo(個体内)の分子挙動をナノイメージングする装置を開発し、in vivoにおける生体運動の機構を解明します。そのために、複数の同色あるいは異色の量子ドットからなる粒子を合成し、この粒子に特定の分子を結合してマウス組織内に導入し、新規開発のin vivoイメージング装置にて分子の運動を観察し、生体運動の分子機構を統合的に解明します。
宮澤 淳夫 理化学研究所播磨研究所放射光科学総合研究センター グループディレクター 細胞内標識による生物分子トモグラフィー 本研究は、電子顕微鏡で観察できる分子標識を用いて、電子線トモグラフィーによる細胞内分子複合体の構造解析を目指しています。そのために、標識となる金属クラスターを標的タンパク質に遺伝的に形成させる方法の開発と、電子線トモグラフィーを生物試料に適用するための計測システムやソフトウェアの開発を行います。そして、細胞内に存在する分子複合体の立体構造と空間配置を解明することにより、生命機能の総合的理解を深めます。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:柳田 敏雄(大阪大学大学院生命機能研究科 教授)

 21世紀の生命科学にブレークスルーをもたらすような新規で斬新な計測・解析技術の創出・開発を目指すこの研究領域も3年目を迎えました。昨年度、一昨年度は予想をはるかに超える多数の応募があった上、応募課題が生態系や新しい医療技術の開発につながる高次あるいは複雑な生命現象の観測・解析からタンパク質一分子のドメインのゆらぎのような素過程の高時間分解計測に至る幅広いものであったことを踏まえ、選考に関わっていただく領域アドバイザーの専門性を広げ、今年度の応募に備えました(アドバイザー総数11名)。
 今年度の応募総数は38件でした。まず、各課題書類について4名の領域アドバイザーに事前査読をしていただき、その評価結果をもとに書類選考会を行い、慎重に審議して13件の提案について面接選考を行うことにしました。そして最終的に、5件の提案を採択することになりました。具体的には、革新的なアイデアに基づいた生体高分子の分子構造や特性の変化を高い時間分解能で追跡する技術、さまざまな生理現象に共役した細胞内分子の動態のイメージング技術などを中心に選考しました。その結果、過去2年と同様に、採択されてしかるべき提案も相対的評価に従って落とさざるを得ないという状況になりました。
 本年度の選考によって、本研究領域は、14チームとなりました。今後は、これらの各チームが計測・分析技術の創出・発展に集中され、それぞれが狙い定めた生命現象の解明という所期の目標を達成されるとともに、研究者精神に一層の磨きをかけ「Chance favours for the prepared mind」といえる成果も生み出されることを期待しています。