JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第317号(資料2)新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要 > 研究領域:「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者及び研究課題


5 戦略目標 「光の究極的及び局所的制御とその応用」
研究領域 「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」
研究総括 伊澤 達夫(NTTエレクトロニクス株式会社 相談役)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
兒玉 了祐 大阪大学大学院工学研究科 教授 高エネルギー密度プラズマフォトニクス 超高強度レーザーで生成できる高エネルギー密度プラズマをコヒーレントに制御したり、規則性を維持した状態の過渡的なプラズマを利用したりすることで、新たな光機能素子としてのプラズマフォトニックデバイスの可能性を探求します。通常の光学系、制御デバイスでは直接制御が困難な桁違いに高い強度の電磁波や高エネルギー密度量子ビームを直接取り扱うことができる高い耐力と機能をもったデバイスであり、幅広い応用が期待されています。
五神 真 東京大学大学院工学系研究科 教授 時空間モルフォロジーの制御による能動メゾ光学 物質の形態に敏感な光学効果に着目しその動的制御による光操作法"能動メゾ光学"を開拓します。非局所的光学応答や巨視的コヒーレンスに起因する特異な光学効果を探り、光と物質の両面からその効果を増強します。時空間で位相を含め厳密に制御されたパルス光源、それを用いた極限的光学測定技術の開拓を進めます。これらにより、光と物資の基礎科学を深化させ光制御・計測ツール、光やテラヘルツ領域での新光機能を開拓します。
馬場 俊彦 横浜国立大学大学院工学研究院 教授 フォトニックナノ構造アクティブ光機能デバイスと集積技術 フォトニックナノ構造デバイスは、近年、高度なパッシブ技術が確立されました。そこで本研究ではアクティブ的な光学現象を探求します。特に巨大かつ多次元的な分散によるスローライト発生、高効率光増幅、負の屈折現象、光局在による非線形増大、双安定スイッチングなどを調査し、高機能光デバイスを開発します。また他のデバイスやシリコンフォトニクス技術と融合することで、光集積と光信号処理にブレークスルーをもたらすことを目指します。
松岡 隆志 東北大学金属材料研究所 教授 温度安定性に優れた光通信用InN半導体レーザの研究 高度情報化社会の発展のため、通信システムの低価格化と大容量化が望まれています。このような状況の中で、温度安定性に優れた光源が期待されています。我々は、青色発光ダイオード用材料である窒化物半導体の内のInNが赤外域で発光し、その効率と波長の温度安定性が優れていることを、見いだしました。本研究では、InNを発光材料とする通信用レーザを実現します。このレーザは、砒素や燐を含まない低環境負荷素子という特徴も有します。
宮野 健次郎 東京大学先端科学技術研究センター 教授 電子相関による光と電子の双方向制御の実現 遷移金属の酸化物や錯体は、その中の電子が独立して勝手に動けない状態にあります。これを電子相関と呼びます。相関によって電子集団は自発的な秩序を持つようになります。この秩序は光の影響を強く受け、また逆に光に強く影響を及ぼすことから、光によって秩序を変え、秩序によって光を変える双方向の制御が可能です。電子相関材料と光が最大に結合するような構造を作り、原子一層の材料から目に見える効果を引き出すことを目指します。
渡部 俊太郎 東京大学物性研究所 副所長・教授 高強度光電界による電子操作技術の開拓 最新の高出力レーザー技術と光パルスの精密制御技術の融合により、軟X線サブ100アト秒パルスの発生と高強度任意電場波形の生成を行います。100アト秒パルスをポンプ光およびトリガーとし、三角光電場で掃引する"アト秒オシロスコープ"を開発します。これにより、オージェ過程や化学反応などで発生する電子の超高速運動の連続写真を取ると同時に物質中の電子をアト秒領域で自由に操作する技術を開拓し、新機能の実証を目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:伊澤 達夫(NTTエレクトロニクス株式会社 相談役)

 光・光量子科学技術はレーザの出現によって学問的に大きく進展しただけでなく、通信やファイル記憶、表示など産業技術としても発展し、日常生活に幅広く浸透しております。このような技術だけでなく、光・光量子科学技術は、医療、環境、計測などさらに幅広い分野で発展の可能性を秘めております。また、微細加工技術や材料技術の発展に伴い、光に関係する新しい現象、物性の解明や光による物質の制御など科学としての発展も期待されます。
 これまでの光科学技術進展の中で、世界をリードする新しい発想がわが国からも数多く出されてきましたが、エレクトロニクス産業の停滞に伴い近年研究開発力が幾分低迷していることは、多くの人が憂いていたところです。このような状況の中で、光・光量子科学技術の更なる発展を目指した研究領域が昨年度より立ち上げられたことは、光関係研究者にとって強力な支援であり励みともなります。本研究領域では、基礎科学から産業技術にわたる広範な科学技術の基盤である光学および量子光学に関して独創的な研究を発掘し、世界をリードする次世代基盤技術を継続的に開拓しようとするものです。
 今年度は37件の応募があり、12名の領域アドバイザーと共に書類審査を行い、10件の提案について面接審査を経て、最終的には6件の提案を採択いたしました。採択テーマは、高エネルギープラズマを用いた超小型光源の開発、時空間モルフォロジ制御による新しい光材料の開拓、フォトニック結晶を用いた光機能デバイスや光集積技術、InNレーザ、電子相関による光と電子の双方向制御、高強度電界による電子操作などで、いずれも十分実績のある研究者からの極めて質の高い提案でした。
 不採択とした提案の中にも多くの優れた意欲的・独創的提案がありましたが、幅広い研究分野から多くの応募をいただきましたので審査は困難な作業を迫られました。相対的評価で落とさざるを得ない、興味深い提案であるが実現可能性について説得力に欠ける、すでに基本技術の開発を終え装置開発を主眼としているなどの理由で不採択とした提案の中にも極めて質の高いものもありました。来年度も本年度と同様の方針で募集・選考を進めたいと考えていますので独創的で波及効果の大きな提案を期待します。