JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第317号(資料2)新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要 > 研究領域:「マルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者及び研究課題


3 戦略目標 「次世代高精度・高分解能シミュレーション技術の開発」
研究領域 「マルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション」
研究総括 矢川元基(東洋大学 計算力学研究センター センター長/教授、
(独)日本原子力研究開発機構 システム計算科学センター センター長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
長岡 正隆 名古屋大学大学院情報科学研究科 教授 凝集反応系マルチスケールシミュレーションの研究開発―大規模原子情報の疎視化・再構成技法・疎視的理論の開発― 溶液、表面、生体高分子の非経験的分子動力学(MD)シミュレーションで得た原子情報を疎視化・再構成する凝集反応系マルチスケールシミュレーションを実現します。具体的には、1 疎視化技法と疎視化発展方程式、2 最大エントロピー原理による非定常状態の再構成技法、3 分子軌道法とMD法とを繋ぐQM/MMインターフェースを研究開発し、最終的には個別事例に適用して、凝集反応系マルチスケールシミュレーション実用化基盤を確立します。
羽角 博康 東京大学気候システム研究センター 助教授 海洋循環のスケール間相互作用と大規模変動 海洋の中・深層水の形成・変質・輸送過程に関して、微小プロセスから全球大循環までの様々なスケールごとのシミュレーションとそれらの相互作用のシミュレーションを行い、中・深層循環をコントロールする物理的メカニズムを明らかにします。その理解に基づき、様々な気候変動がもたらす海洋の大規模変動や、それが沿岸海況等の局所的現象に及ぼす影響を評価するための、効果的かつ効率的なモデリング手法を確立します。
町田 昌彦 日本原子力研究開発機構システム計算科学センター 研究主幹 超伝導新奇応用のためのマルチスケール・マルチフィジックスシミュレーションの基盤構築 本研究課題では未だ謎に満ち、人類が知りうる物質の最も劇的な状態である超伝導(超流動)発現機構に対し、超並列計算機を用いて、従来にない超大規模シミュレーションを行い、その謎に新たなメスを入れます。また、量子デバイス、テラヘルツ・レーザー、高精度放射線検出器などへの応用が可能な未開拓な超伝導状態に対しても、独自のマルチフィジックス・マルチスケール手法を開発し、既成研究の枠を超えたブレークスルーを起こします。
三上 益弘 産業技術総合研究所計算科学研究部門 副部門長 DDSシミュレータの研究開発 薬物を特定患部に運搬することは、薬効を飛躍的に高め、副作用を少なくする上で、極めて重要です。
そのため、薬剤を内包し運搬するキャリア(薬物運搬体)の研究開発が盛んに進められていますが、薬剤運搬システム(以下、DDS と呼ぶ)の開発は、ナノからミリメートルに及ぶマルチスケール・マルチフィジックス問題であるため、その設計技術が未だ確立されないまま、手探りで開発が進められています。そこで、本研究では、コンピュータによるDDS 設計を目指し、DDS シミュレーション技術の開発を行います。
諸熊 奎治 京都大学福井謙一記念研究センター リサーチリーダー(H18.9着任予定) 複雑分子系の複合分子理論シミュレーション 本研究では、既に代表・共同研究者たちによって開発された多層ハイブリッド理論(ONIOM法)、RISM-SCF理論、その他の複合分子理論をさらに大きく発展させ、 これらの方法を用いてナノシステム、生命分子系、並びに溶液系など複雑分子系の構造、反応、ダイナミックスなどのシミュレーションを行うことが可能であることを示すとともに、これらの分野でのいくつかの重要な問題の理論的解明を目指します。
山中 康裕 北海道大学大学院地球環境科学研究院 助教授 海洋生態系将来予測のための海洋環境シミュレーション研究 地球温暖化や海洋酸性化による海洋生態系や水産資源への影響などの将来予測のために、海洋環境シミュレーション研究を行います。人間活動に伴い放出されたCO2は、大気中CO2濃度を上昇させ地球温暖化を引き起こすとともに、海洋によって吸収され海洋酸性化を引き起こし、海洋生態系などに影響を与えると予想されています。その基盤技術となる海洋科学の各分野でのモデルを統合した海洋環境シミュレーション技術を開発します。
山本 量一 京都大学大学院工学研究科 助教授 ソフトマターの多階層/相互接続シミュレーション 高分子や固体粒子を含んだ複雑な物質(ソフトマター)は機能性材料として重要でありますが、性質を理論的に予測することは大変困難です。この問題を解決するために、ミクロ階層(原子・分子)・メソ階層(濃度分布や界面など)・マクロ階層(材料の形や製造プロセスなど)が物理的に矛盾なく相互に影響し合う画期的な多階層/相互接続シミュレーション手法を確立し、全く新しい包括的材料・プロセス設計ソフトウエアの開発を行います。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:矢川元基(東洋大学 計算力学研究センター センター長/教授、(独)日本原子力研究開発機構 システム計算科学センター センター長)

 本研究領域は、近い将来のペタフロップス超級スーパーコンピュータを視野に入れ、数テラフロップスから地球シミュレータレベルの最先端の超高速・大容量計算機環境と精緻なモデル化・統合化によって、複数の現象が相互に影響しあうようなマルチスケール・マルチフィジックス現象の高精度且つ高分解能の解を求める研究を公募の対象としました。
 具体的には、地球環境変動とその影響、異常気象およびそれに起因する災害予測、人工物の安全性・健全性の評価、複雑な工業製品の設計・試作などのシミュレーション、ナノレベルの材料挙動・生体内たんぱく質構造・生体内薬物動態の解析など、支配因子が未知あるいは不確定性を含む現象やスケールが極度に異なる現象等のモデル化の研究、そのようなモデルの統合数値解析手法の研究、モデルや入力データの妥当性・結果の信頼性の評価方法の研究などが含まれます。
 今年度の応募は40件あり、11名の領域アドバイザーに書類審査をお願いし、最終的には面接審査を行ってアドバイザーの採点をもとに合議して採択テーマを決定しました。本領域は、これまでの多くの研究領域と比して提案される分野が極めて広範にわたる分野横断型の領域であるために異なる分野の研究に対して厳密に序列をつけることに、昨年同様、困難を極めました。結果的に今年度として、7件の提案を採択しました。
 採択テーマの専門分野としては、医療、ナノ・バイオテクノロジー、超伝導、海洋科学など広範囲にわたり、分野横断的なものも多く、いずれも、すぐれた研究代表者に率いられた極めて質の高い提案でした。
 審査に当たっては、研究の成果がそれぞれの専門領域において世界をリードするものでなければならないことは当然ですが、この種の研究タイプでは、研究代表者の役割や責任が大きいことを考え、当該分野における研究代表者の力量や実績をできるだけ把握して判断材料に加えることにしました。なお、採用数が限られていることから、採択されてしかるべき提案でありながら相対的評価のために落とさざるを得ないというものも少なくありませんでした。一方で、本研究領域の趣旨からかけ離れた提案、すでに開発が済んでいる要素技術を単に複合化する提案、提案それ自身は先進的であっても実現可能性が低いと思われるような提案もありました。
 来年度は、募集の最終年度に当たりますが、内容の充実に加えて、具体的に目に見える成果、産業や実社会への応用性とそのインパクトの大きさ、成果として出来上がったソフトウェアが研究終了後も長期間、自立成長を継続できる枠組みを勘案した提案、異なる専門家同士、海外の研究者との有機的共同提案、実験、理論、情報数理・計算科学の専門家などとのタイトな協力を促すような分野融合的・領域融合的な研究課題を募りたいと思います。特に、これまでに採択されていない分野からも多くの提案を期待しています。