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科学技術振興機構報 第255号

平成18年2月20日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL https://www.jst.go.jp

大容量光通信に最適な光周波数コム発生器の開発に成功

(ノーベル賞受賞技術の実用化に成功)

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業委託開発の開発課題「光周波数コム注1発生器」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、元東京工業大学大学院総合理工学研究科助手 興梠(こおろぎ)元伸(もとのぶ) 氏の研究成果を基に、平成15年3月から平成17年9月にかけて株式会社光コム研究所(代表取締役社長 朝枝剛、本社東京都目黒区大岡山2-12-1東京工業大学インキュベーションセンター 204、資本金 154,900千円、電話:03-5734-2337)に委託して、企業化開発(開発費約123百万円)を進めていたものです。
 光通信機器は、昨今の情報通信におけるトラフィック量の増大にともない、さらなる伝送容量の大容量化、伝送速度の高速化、伝送情報の高品質化に対する性能向上が求められています。また、数々の構成機器の中でも、光通信用光源には、光の強度向上、ノイズ低減、周波数安定等の高性能化への要求が高まっています。従来のモード同期半導体レーザー注2スーパーコンティニュウム光源注3は、ノイズ、周波数安定性、出力強度バランス等に課題があり、実用化には至っていませんでした。
 本新技術は、非線形光学結晶に電気光学変調器と光共振器の機能を持たせ、単一波長レーザー注4を入力することにより、周波数間隔が等しく、強度の揃った多波長レーザー注5を出力できる光周波数コムに関するものです。光周波数コム技術(コムとは櫛の意味)とは、等間隔のスペクトル分布を持つ光源のことで、本新技術は、この光周波数コム技術を大容量光通信での適用を可能とするものです。なお、ジョン L.ホール(アメリカ)、テオドール W.ヘンシュ(ドイツ)らは、光周波数コムの発生範囲を拡大させること等により2005年にノーベル物理学賞を受賞しました。 本開発では、非線形光学結晶であるLiNbO3(LN結晶)注6に半導体製造プロセスで導波路注7、電極を形成し、真空蒸着注8により導波路端面にフィルタ、ミラーを成膜させ、電気光学変調器注9光共振器注10の機能を持たせることで、高強度、低ノイズ、周波数安定で、かつ省電力、小型化、軽量化を実現した、光周波数コム発生器を歩留まり良く製造することが可能となりました。
 本新技術による光周波数コムは、多波長光源として、周波数間隔が極めて安定で、出力強度が強いことから、波長分割多重光通信注11時分割多重光通信用注12の光源等としての応用が期待されています。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  高強度、低ノイズ、周波数安定な多波長光通信用光源が求められています。

 インターネット利用者、サービスの増加やファイルサイズの大きな高精細映像の情報流通等により、トラフィック量は、今後も増加の一途を辿ることが予想されています。それにともない、通信インフラのさらなる大容量化、高速化、高品質化に対する性能向上が急務に求められています。次世代光通信用光源として、モード同期半導体レーザー、スーパーコンティニュウム光源は、既に開発されていますが、ノイズ、周波数安定性、出力強度バランスなどに課題があり、原理的に解決は難しいと考えられています。
 また、従来の光周波数コムは、バルク型で消費電力が大きく、導波路型は、プロセス、性能の再現性が良くありませんでした。次世代大容量光通信には、高強度、低ノイズ、周波数安定、省電力、小型、軽量で、強度スペクトルがフラットな光コムを発生できる光源が望まれています。

(内容)  出力増強フィルタを用いた光周波数コムに関するものです。

本新技術は、非線形光学結晶に電気光学変調器、光共振器(入力側のミラーを出力増強フィルタに置き換えた特殊な構造を有する光共振器)機能をもたせた、単一波長レーザーを入力することにより、周波数間隔が等しく、強度の強い多波長レーザーを出力できる光周波数コムに関するものです。
本開発では、光周波数コムの特徴である低ノイズ、周波数安定に加えて、高強度化、省電力化、小型化、軽量化を実現しました(図1写真1)。

小型、軽量 電気光学変調器と光共振器の一体化、
 往復変調電極化
省電力 駆動、制御回路のモジュール化

(効果)  高品質な大容量光通信が可能となります。

本光周波数コムは、大容量(64波多重)、高機能(光コヒーレント伝送)な次世代光通信に必要な正確な周波数間隔、チャネル数、パワーなどの性能を満たしていることから、光通信用光源として、デファクトスタンダードとなる装置として期待されています(表1)。

正確な周波数間隔:(具体的な数値)25GHz
チャネル数:>64
パワー:>-20dBm
用語解説
図1.構成図
表1.従来技術と本新技術の比較
写真1.光周波数コム
参考 開発を終了した課題の評価

【お問い合わせ先】

株式会社 光コム研究所
技術開発部 グループリーダー 今井一宏
〒152-0033 東京都目黒区大岡山2-12-1
東京工業大学インキュベーションセンター204
TEL: 03-5734-2337 FAX: 03-5734-2327

独立行政法人 科学技術振興機構
産学連携事業本部 開発部 開発推進課
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TEL: 03-5214-8995 FAX: 03-5214-8999