JST(理事長:沖村憲樹)の研究チームは、抗ウイルス活性を持つタンパク質インターフェロンについて、その産生が誘導されるシグナル伝達経路を解明した。今回、新たに発見したIPS-1という細胞質内分子はウイルス感染を察知するセンサー(RIG-I)と結合し、インターフェロン誘導を伝達するシグナル伝達経路に必須な役割を果たしていることが明らかとなった。本研究成果は、ウイルス感染症の予防・治療技術の開発に大きく貢献するものと期待される。
本研究成果は、戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATOタイプ)「審良(あきら)自然免疫プロジェクト」(研究総括:審良静男※)が、大阪大学微生物病研究所等の協力で得たもので、平成17年8月28日付け(米国東部時間)の米国科学誌「ネイチャー・イムノロジー」オンライン版で発表される。
※大阪大学微生物病研究所教授
自然免疫系は、生体がウイルスや細菌といった病原体の侵入を感知し排除するシステムである。自然免疫系が活性化されると炎症性サイトカイン(注1)、I型インターフェロン(注2)、T細胞活性化が誘導され、最終的に病原体に対する感染防御システムが成立する。
中でも、I型インターフェロンはウイルス感染に対する初期防御反応において重要な役割を果たす生理活性物質であり、ウイルス感染を受けた細胞から産生されることが知られている。最近、ウイルス感染を察知する細胞内センサーとしてRIG-I(注3)およびそのファミリーであるMda5(注4)が見つかった。これら受容体を介し転写因子IRF3(注5)が活性化されI型インターフェロン遺伝子の転写が誘導されることが知られている。しかしながら、RIG-IおよびMda5がどのような経路でキナーゼを介してIRF3を活性化するかは不明であった。
今回、この経路に介在するIPS-1(注6)というタンパク質を初めて同定した。IPS-1を強制発現させた細胞ではIRF3の活性化が認められ、I 型インターフェロンを産生するようになった。その結果、IPS-1発現細胞ではウイルス増殖が抑制された。一方、IPS-1の発現量を減らした細胞では、ウイルス感染によるインターフェロン産生量が有意に減少した。これらのことからIPS-1はウイルス感染に応答したインターフェロン誘導に必須の役割を果たしているといえる。さらに、IPS-1はRIG-IおよびMda5と複合体を形成することが明らかとなった。以上のことから、IPS-1がRIG-IおよびMda5を介するインターフェロン誘導に中心的な役割を果たすシグナル伝達分子であることが示された。
本研究成果により、ウイルス感染症や癌に対する新たな予防・治療法の開発が進むと期待される。またインターフェロン産生等の自然免疫を高める新たな抗ウイルス剤や抗癌剤の開発につながることも期待される。
【論文タイトル】
IPS-1, an adaptor triggering RIG-I- and Mda5-medaited type I interferon induction
(RIG-IおよびMda5を介するI型インターフェロン誘導を伝達するアダプター分子IPS-1)
【本件問い合わせ先】
審良 静男(あきら しずお)
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審良自然免疫プロジェクト 研究総括
大阪大学微生物病研究所教授
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星 潤一(ほし じゅんいち)
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