■研究領域「ヒト膜受容体構造」の概要 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
蛋白質の構造解析の技術はこの15年間で急速な発展を遂げ、蛋白質構造データバンクには3万以上の構造データが登録されている。ところが、そのほとんどは可溶性蛋白質のものであり、膜蛋白質は80程度、ほ乳類由来の膜蛋白質に限れば10に満たない。膜蛋白質の構造解析が進んでいないのは、(1)発現、大量精製が困難であったこと(2)水溶性でないため結晶化が難しいこと、(3)そのため良好なX線回折データを得られないことに因る。一方、現在市販されている医薬の5割以上が、細胞膜中に存在する膜蛋白質、特にG蛋白質共役受容体(以下「膜受容体」という。)をターゲットにしており、膜受容体の構造の理解は合理的創薬に不可欠である。にもかかわらず、ヒト由来の膜受容体の構造は、上述の問題により、これまで一つも解析されていない。 本研究領域では、ヒトゲノム配列解析の成果を活用し、膜蛋白質の大量発現・精製技術、膜蛋白質の可溶化・結晶化技術、新世代放射光技術等、各種技術を組み合わせることにより、創薬に要求されるヒト膜受容体の構造解析を系統的に行う技術の確立を目指す。 具体的には、(1)ヒト膜受容体のcDNAを迅速に各種ベクターに組み込み、これを蛋白質の機能を保持したまま発現可能な酵母を用いて大量発現するとともに、結晶化の妨げとなる糖鎖の除去方法の開発等を行い、ヒト膜受容体の大量産生・精製技術を確立する。(2)膜蛋白質は、可溶化するために用いる界面活性剤のミセルに覆われて結晶化が困難であるが、親水性を増大する別の蛋白質を結合することによって結晶性を向上することが可能なことから、ヒト膜受容体に適した結合蛋白質を作成する技術を開発する。(3)膜受容体と結合蛋白質を含む溶液と結晶化を促進する沈殿剤をナノリットル・オーダーで滴下・混合する等の独自技術と、結晶化したプレートをX線回折計に直接マウントし、結晶化最適条件を高速スクリーニングする機械制御システムを確立する。(4)最終的な解析には、回折の弱い結晶からも高精度のデータを得られるビームラインと、新たな結晶マウンティングシステムを組み合わせることで、放射線損傷を防ぎながら高分解能データが得られる超低ノイズデータ計測系を構築する。 これら一連の技術の確立により、医薬の主要なターゲットの一つであるヒト膜受容体の構造を効率的に解析することが可能になり、その知見に基づいた副作用を抑えた医薬の開発や、テーラーメイド医療の実現はもとより、細胞生物学や分子生物学等の学問領域においても、膜受容体を介した情報伝達に関する研究の進展に寄与すると考えられ、戦略目標「遺伝子情報に基づくたんぱく質解析を通した技術革新」に資するものと期待される。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■研究総括 岩田想氏の略歴等 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|