■研究領域「分化全能性進化」の概要 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
多細胞生物を構成する大部分の細胞は、受精卵のようにどのような細胞にもなれる能力を持つ細胞から種々の細胞に分化して機能する。分化によって各細胞は役割に応じた性質を獲得するが、このことは多くの遺伝子からその細胞が必要な情報のみを読み出すようにプログラムすることで達成されている。ひとたび分化した細胞は、このプログラムをやりなおす(リプログラミング)ことで、再びすべての細胞になれる能力を取り戻せる。これを分化全能性と呼ぶが、植物は高い分化全能性を持ち、簡単な処理だけでリプログラミング可能である。一方、動物のリプログラミング能力は極めて低く、この点が植物と動物の大きな違いである。これまで多くの研究がなされているにも関わらず、植物の分化全能性の分子機構はほとんど明らかになっていない。本研究ではモデル植物としてヒメツリガネゴケを用いるが、ヒメツリガネゴケはこれまでのモデル植物とは違い極めて高い分化全能性を持ち、陸上植物で最も容易に遺伝子ターゲティング法が行える。また、近い将来に多細胞下等植物としては初めて全ゲノム解析が完了予定であり、きわめて有用なモデルである。 本研究領域では、ヒメツリガネゴケのゲノム情報を最大限に利用し、その高い分化全能性を担う因子を同定・機能解析することにより、植物分化全能性の分子機構とその進化過程解明を目指す。 具体的には、ヒメツリガネゴケのリプログラミング過程における、低分子やRNA、蛋白質の変動を網羅的に解析し、リプログラミングに関わる因子を推定する。また、DNAの高次構造が分化全能性をコントロールしているという仮説のもと、全ゲノムレベルでDNAの高次構造に関わる因子などについてリプログラミング過程における動態を明らかにする。また、リプログラミングには各因子の細胞内での位置的変化が関与している可能性が高く、イメージング技術を駆使してリプログラミング過程における各因子の細胞内動態を調べる。さらに、他の生物との間でゲノムを比較することでリプログラミング機構の相違点を明らかにし、共通の祖先からリプログラミング機構がどのように進化してきたかの解明を通して、リプログラミングの本質的理解を目指す。 本研究成果により、植物分化全能性の分子機構全貌解明への鍵を手に入れ、リプログラミング研究分野が新たな展開に進むことが期待される。本研究領域から得られる知見と技術は、細胞機能を制御する分子機構解明に寄与し、本研究領域における戦略目標「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出」に資するものであり、植物の再生能力を最大限生かすことで農産物生産などの技術に革新をもたらすことや、リプログラミングを利用した再生医療への応用が期待される。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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■研究総括 長谷部光泰氏の略歴等 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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