戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATOタイプ)
(平成17年度発足)

研究領域「共創知能システム」研究総括

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浅田 稔 氏
(大阪大学 大学院工学研究科 教授)

■研究領域「共創知能システム」の概要
 21世紀は、「脳の世紀」と呼ばれ、かたや「ヒトと共生するロボットの時代」とも言われている。これらに関連する脳科学とロボティクスの両分野は,ヒトの知能創発過程の理解と構築という共通の課題を持ちつつも、その結びつきは現状では薄い。近年の脳科学,神経科学は、非侵襲の計測装置などの最先端テクノロジーを武器として、これまで科学の対象で無かった、認知・意識・心などの問題に迫りつつあるが、現状の手段だけでは、認知・発達能力の典型である身体性に基づくコミュニケーションと言語獲得能力の研究の進展が困難である。一方、日本が世界をリードしている人間型ロボットであるヒューマノイドは、現在,急速にその技術が発展しているものの、表層的な機能実現に終始しており、身体に基づく知能創発の設計論が確立していない。両分野が有機的に結びつけば、ロボット技術を駆使した検証手段を用いることで日本独自の脳科学の進展が望める。更に、これらの検証手段に耐えうる人工物を設計することは、現状のロボットセンサーやアクチュエータなどのマテリアルや従来の人工知能/制御技術に革新を迫るだけでなく、知能の新たな設計論を確立できる。
 本研究領域では、このような背景から、現状のヒューマノイド研究に欠けている知能の設計をヒトを含めた動的環境内での相互作用(環境・ヒト・ロボット)の中から導く。すなわち、人間型ロボットであるヒューマノイドの新たな設計・製作・作動と、認知科学や脳科学の手法を用いた構成モデルの検証による科学と技術の融合した「共創知能システム」を構築し、新たな科学技術分野「ヒューマノイド・サイエンス」を切り開く。換言すれば、構成的手法による新たなヒト理解の試みである。
 「共創知能システム」では、主に下記のテーマに取り組む。まず、身体と環境のカップリングによる運動知能の創発である。従来の固いセンサーアクチュエータ系では実現困難な生物的な振る舞いをやわらかい皮膚やしなやかな人工筋肉により実現するための運動学習構造を明らかにする。次に、環境の中に他者を取り入れ、他者の行為の模倣を通じたヒトの認知発達過程(他者との共創過程) の構成的理解を目指す。さらに、社会的コンテキストの中で、アンドロイドを用いたロボットのコミュニケーション能力の実現を通じて、コミュニケーション創発過程の機構を明らかにする。これらの諸過程に関連した構成的モデルの検証やモデルへの示唆などのフィードバックを促す脳機能画像計測や生理実験との融合から、新たな領域創出へと踏み出す。
 このように、本研究領域では、脳科学の構成的手法によるヒト知能創発過程の新たな理解を目指すもので、戦略目標「教育における課題を踏まえた、人の生涯にわたる学習メカニズムの脳科学等による解明」に資するものと期待される。
■研究総括 浅田稔氏の略歴等

1.氏名(現職) 浅田 稔 (あさだ みのる)

 (大阪大学大学院工学研究科 教授)51歳

2.略歴

昭和52年3月  大阪大学基礎工学部制御工学科卒業
昭和57年3月  大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了、工学博士
昭和57年4月  大阪大学基礎工学部助手
昭和63年3月  同大学工学部講師
平成 元年4月  同助教授
平成 7年4月  同教授
平成 9年4月  同大学大学院工学研究科教授
   この間
昭和61年 8月~昭和62年10月 米国メリーランド大学客員研究員

3.研究分野

 ロボティックス分野、人工知能分野、赤ちゃん学分野

4.学会活動等

 国際学会(General Chair, Program Committee chair等)
 1996 IEEE International Conference on Robotics and Automation '96 (General Chair)
 2005 IEEE The Fourth International Conference on Development and Learning (General Chair)
 2006 IEEE International Conference on Robotics and Automation '06 (Program Co-Chair)
 その他PC member, Executive Committee member, Session chair等多数(IROS,ICRAなど約40会議)
 国際学術雑誌「Advanced Robotics」のAdvisory Board
 The President of RoboCup Federation (2002から)

5.業績等

 研究業績は、主に三つに分かれる。ロボットビジョン関係、実ロボットによる強化学習関係、そして、認知発達ロボティクス関係である。ロボットビジョン関係では、2次元画像から3次元情報の再構成問題、2次元時系列画像の解析、3 次元運動の表現の研究で成果を挙げている(濃淡情報を利用した筒状物体の3 次元構造復元問題は、平成元年度情報処理学会研究賞を受賞、また色情報による屋外3次元シーンの理解に関して、1992年 IEEE/RSJ Int. Conf. on Intelligent Robots and Systems Best Paper Award受賞)。
 実ロボットによる強化学習関係では、それまで理論やシミュレーションにしか応用されてなかった強化学習を実時間視覚に基づいて実現し、高く評価された(1995年IEEE International Conference on Robotics and Automation '95Best Paper Awardの候補論文6編の一つに選ばれる(投稿900,採録50%)。また、1996年 第10回日本ロボット学会論文賞受賞)。これに続いて、実ロボット強化学習のための状態空間構成、協調行動のための強化学習問題を扱ってきた(1997年度人工知能学会研究奨励賞)。なお、この間、公開実験を通じて、人工知能とロボティクスの研究推進を謳ったロボカップを提唱し、全世界40カ国、約4000人の研究者が集う国際研究プロジェクトとして推進してきた(2001年度文部科学大臣賞、科学技術普及啓発功績者の表彰。2002年より国際委員会プレジデントを務める)。
 近年、ロボットの認知発達の重要性を指摘し、「認知発達ロボティクス」を提唱した。そして、これに関連した研究として、身体図式、身体像獲得、共同注意の学習、養育者との相互作用による音声模倣などの研究を実施中である。

6.受賞等

 1989年 情報処理学会研究賞受賞
 1992年 IEEE/RSJ Int. Conf. on Intelligent Robots and Systems Best Paper Award
 1996年 第10回日本ロボット学会論文賞受賞
 1998年 1997年度人工知能学会研究奨励賞
 1999年 平成11年度日本機械学会ロボティックス・メカトロニクス部門貢献表彰
 2000年 RoboCup2000 SymposiumでBest Paper Award
 2001年 2001年度文部科学大臣賞、科学技術普及啓発功績者の表彰
 2001年 平成13年度日本機械学会ロボティックス・メカトロニクス部門賞:学術業績賞
 2004年 人工知能学会研究会優秀賞