科学技術振興機構報 第194号

平成17年7月27日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
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歯科用多機能レーザ装置の開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業・委託開発(注1)の開発課題「歯科用2波長レーザ治療装置」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、仙台電波工業高等専門学校長(東北大学 名誉教授) 宮城光信氏らの研究成果を基に、平成13年3月から平成17年3月にかけて株式会社モリタ製作所(代表取締役社長 森田隆一郎、本社 京都府京都市伏見区東浜南町680、資本金 395百万円、電話:075-611-2141(代))に委託して、企業化開発(開発費約221百万円)を進めていたものです。
 従来、レーザによる歯科治療は、歯肉等の軟組織の切開・止血には炭酸ガスレーザやNd:YAGレーザが、硬組織である歯の切削にはEr:YAGレーザが使用されています。しかし、レーザでは波長ごとに生体との相互作用が異なるため、症例に応じて異なる装置を用意する必要があり、場所やコストが嵩むだけでなく、治療時間の短縮を妨げる原因にもなっていました。そこで、切開と止血を最適な程度に調整しながら、同時に治療できる機能と、硬組織切削という複数の機能を有し、一台で軟組織と硬組織に対応できる多機能な治療装置が望まれていました(図1)。
 本開発では、2波長レーザの伝送方法として、誘電体内装の柔軟性に富む中空ファイバを採用しました。ファイバ製作条件の最適化により、止血効果のある2μm帯と切開機能及び硬組織切削機能のある3μm帯の2波長レーザ光を高効率で伝送することが可能となりました(図2)。2波長レーザ治療装置を用いたin vitro照射実験と動物実験においては、硬組織と軟組織のいずれについても本装置の安全性と有効性が確認されました(図5)。
 本新技術により、軟組織の切開・止血と硬組織の切削の歯科治療が一台の装置で可能となるため、患者の負担軽減や治療時間短縮に貢献し、虫歯治療や歯周病治療、高い技術を要する根管治療での活用が期待されます。今後、医療機器としての薬事承認取得の後、数年内に販売を開始する予定です。将来的には年間数十億の市場を見込んでいます。また、本新技術の中空ファイバは、可視光から赤外光の広域の複数波長レーザの伝送やピークの高いパルスレーザの伝送が可能で、フレキシブルで操作性に優れたファイバとして単独での展開も期待されます。

(注1)独創的シーズ展開事業 委託開発は、平成16年度まで、委託開発事業として実施されてきました。

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  軟組織、硬組織の両方を治療できるレーザ治療装置が望まれていました。

 従来、レーザによる歯科治療は、歯肉等の軟組織の切開・止血等には炭酸ガスレーザ(10μm)やNd:YAGレーザ(1μm)が、硬組織である歯の切削等にはEr:YAGレーザ(3μm)が使用されています。しかし、波長に応じたレーザ発生装置と低損失で伝送するファイバが必要なため、軟組織用、硬組織用と別々に設置する必要があり、大型で高価なことから、専門医療機関以外の一般歯科での導入に限界がありました。治療時間の短縮、患者への負担の軽減のためには、軟組織における止血・切開及び硬組織における切削効果を同時に発揮する治療装置が必要とされながらも、複数の波長を同時に発生する装置やその波長を効率よく伝送するファイバがないために、実現されていませんでした。2波長が同時に伝送できれば、一台で軟組織と硬組織のあらゆる治療が可能となります(図1)。

(内容)  2μm帯と3μm帯を同時に伝送可能なフレキシブル中空ファイバを採用しました。

 本新技術は、止血機能のある2μm帯と、切開機能のある3μm帯の2波長を同時に伝送できるレーザ治療装置に関する技術です(図2)。
 まず、本技術で狙いとする2μm帯と3μm帯を同時に伝送できる誘電体内装の柔軟性に富む中空ファイバを製作し(図3)、ポリマー膜形成条件の検討などを行った結果、2波長を単独、混合いずれにおいても高効率で伝送することが可能となりました(図4)。
 有効性について、in vitroならびに動物実験により、軟組織の切開能力と止血能力を同時に発揮し、歯牙・骨などの硬組織の切削能力を有することが確認されました。また安全性については、動物実験の病理所見により、従来方法と同様に障害が発生しないことが確認されました(図5)。

(効果)  治療装置の多機能化により治療時間が短縮し、患者の負担が軽減します。

 本新技術の歯科用2波長レーザ治療装置により、止血効果のある2μm帯と、切開機能のある3μm帯の2波長を、単独もしくは同時に出すことが可能となります。波長の混合比を簡単に切り換えるだけで、軟組織の止血重視または切開重視というような治療目的に応じた切開や、硬組織の切削を行うことが可能となります。これらは、治療時間の短縮や、患者への負担の軽減に貢献します。今後、これらの特徴を活かし、虫歯治療や歯周病治療、高い技術を要する根管治療などで効果を発揮することが期待されます。
 また、本新技術の中空ファイバは、可視光から赤外光の広域の複数波長レーザの伝送やパルスレーザの伝送に最適な、フレキシブルで操作性に優れたファイバとして単独での展開も期待されます。

(図1)従来と本新技術(2波長レーザ治療装置)の適用症例範囲
(図2)本開発の2波長レーザ治療装置の構造図
(図3)本開発の中空ファイバの構造図
(図4)中空ファイバの伝送損失曲線
(図5)軟組織の切開 直後症例の結果
開発を終了した課題の評価

この発表についての問い合わせは以下の通りです。

株式会社モリタ製作所第2研究開発部岡上吉秀
  TEL 075-611-2141
JST開発部 開発推進課菊地博道、沖代美保
  TEL 03-5214-8995   FAX 03-5214-8999