別紙1

令和元年度 新規採択プロジェクトの概要一覧

プロジェクト名 研究代表者
所属・役職
(日本側)
研究代表者
所属・役職
(英国側)
概要
ヘルスケアにおけるAIの利益をすべての人々にもたらすための市民と専門家の関与による持続可能なプラットフォームの設計 山本 ベバリーアン
(大阪大学 大学院人間科学研究科 教授)
Jane Kaye
(Professor, University of Oxford)
ヘルスケア領域における人工知能(AI)の実装には大きな期待が寄せられており、日本と英国の両方がこの分野に多額の投資を行っている。AIによってヘルスケア改革の実現可能性が高まる一方、責任、透明性や納得感、社会受容に関する多くの懸念も生じる。本研究は、患者や医療専門家を含むさまざまなステークホルダー間の対話と関与を維持し、日英のヘルスケア領域のAI実装のための学際的、多部門、国際的なエコシステムの創造を刺激できる公共のエンゲージメント・プラットフォームの実装を支援する、効果的な戦略を特定することを目指している。本研究は、AIシステムの導入において先駆的取り組みを進めている日英の研究病院において実施する。
PATH-AI:人間-AIエコシステムにおけるプライバシー、エージェンシー、トラストの文化を超えた実現方法 中川 裕志
(理化学研究所 革新知能統合研究センター グループディレクター)
David Leslie
(Ethics Fellow, The Alan Turing Institute)
社会の隅々まで浸透しつつあるAIに対して、日英それぞれの文化的差異を調査、分析する。その上で、今後複雑化の度合いを増すであろう個人を巡る情報環境(例えば個人情報を利用する種々の情報サービスなど)に対して自分の個人データを提供できる条件などをマネージできるパーソナルAIエージェントによって適応する社会像を検討する。とりわけ、パーソナルAIエージェントの実現手法、トラストの形成、法制度の在り方を提言する。さらに、幼少期、高齢期のように自分の個人データを十分に管理できない時期、そして死後に残された大量の個人データの扱いをパーソナルAIエージェントに委託する技術的、社会的仕組み、法制度について調査、分析し、提言をする。
法制度と人工知能 角田 美穂子
(一橋大学 大学院法学研究科 教授)
Simon Deakin
(Director, University of Cambridge)
法制度のコアに位置する「司法判断」にフォーカスし、そのデジタル化・自動化の可能性とリスク、限界を検討する。研究成果として、①法制度へのAI導入を促進する要素技術と法的推論モデルの開発、②それを実装した場合の未来シナリオの作成、③紛争解決におけるAI利用倫理ガイドライン案の策定を目指す。先行して英国の司法判断のデータで法的推論モデルとアルゴリズムを開発し、AIのさまざまな技術を用いて精度の検証を繰り返すことで、現実の法制度に即した議論を可能とする。日本は裁判所に持ち込まれる紛争が米国や英国よりも少なく、判決の数も少ない上、裁判資料がデジタル化されていないというAI開発の課題が指摘されているが、英国での研究成果を基に、日本側裁判所や政府関係者の支援を得ることによって問題を解決し、日英の比較研究を目指す。
AI等テクノロジーと世帯における無償労働の未来:日英比較から 永瀬 伸子
(お茶の水女子大学 基幹研究院 教授)
Ekaterina Hertog
(Research Fellow, University of Oxford)
AI、IoTなどの技術と「働き方の未来」研究は各国で大きな注目を集めている。しかし家事・育児・介護といった労働の未来についてはほとんど議論されていない。本研究は、エンジニアと協業しつつ、「働き方の未来」予測のタスク分析手法を、生活時間調査から、家事・育児・介護に適用し、代替性を推計する。日英共同研究によって、家事ケア内容、夫婦間賃金格差、ジェンダー規範、さらに保育・介護・労働などの社会的制度の影響が両国の差として見られるだろう。代替ニーズは、賃金率が高く時間制約が強い共働き家庭や高齢者世帯で最も高い。社会慣習や技術可能性を考慮しつつ、家庭にスマートテクノロジーを導入することのプラスの可能性を拡大し、同時にリスクを日英両国の論者と議論し、将来を見通す場をつくる。
マルチ・スピーシーズ社会における法的責任分配原理 稲谷 龍彦
(京都大学 大学院法学研究科 准教授)
Phillip Morgan
(Associate Professor, Cardiff University)

日英協働で、人間と人工知能が搭載された機器との協調動作によって生じた事故の法的責任に関する理論枠組みを構築する。また、これを通じて人工知能社会における望ましい科学技術法ガバナンスの在り方を具体的に提唱すると共に、それを実現するための法制度および法政策を提案する。

人間と人工知能が搭載された機器との協調動作によって、人間の主体性そのものが変容を被る可能性を指摘する実証研究・理論研究の存在に鑑み、動学的ゲーム理論に基づく主体と制度についてのモデルを日英の研究グループで共有し、主体性研究に関する認知ロボティクス・認知心理学の定量的データと文化人類学の定性的データとを統合的に解釈することを通じて、人工知能搭載機器との協調動作により生じた事故の法的責任分配原理を、法実務家および政策立案者と共に探究・提唱する。

都市における感情認識AI~日英発倫理的生活設計に関する異文化比較研究 Peter Mantello
(立命館アジア太平洋大学 アジア太平洋学部 教授)
Andrew McStay
(Professor, Bangor University)
現在、日本の感情認識AI企業が英国に投資しており、逆も然りである。感情認識AI技術の出現に伴い、この技術を開発・活用する政府や企業が、倫理的側面における最適化を互いに理解する方法を検討する必要がある。日本と英国は共にAI先進国であるが、社会、政治および規範の歴史的背景が異なるため、日英異文化間のコンテクストの違いに関する検討が必要である。我々の二国間の比較研究は、社会の監視、プライバシー、自由とセキュリティーの対立、企業の社会的役割、市民による偽情報や情報操作、ガバナンスおよび社会における感情認識AIについて、欧米の学術文献が世界を支配してきた枠組みを日英両国が再構築することを可能にする。我々は感情認識AIに関する9つのマイルストーン(段階)から成る日英比較研究プログラムを提案する。

<領域総括総評>國領 二郎(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)

「人と情報のエコシステム」研究開発領域を開始したのは2016年で、4年が経過していますが、ビッグデータを活用した人工知能、IoT、ロボットなどの情報技術を、人間を中心とした視点で捉えなおすこと、そして一般社会への理解を深めながら技術や制度を協調的に設計していくことの重要性に関する認識はますます高まっているように思います。また、この分野における国際連携の重要性についても認識が高まってきました。そこで本年度は、英国研究・イノベーション機構(UKRI)と連携して、日英共同プロジェクトを募集しました。31件もの提案をいただき、うち6件を採択いたしました。

日本と英国は、人権や自由を大切にする民主主義国家であるという共通点を持ちながら、歴史的、文化的背景を異にしています。この2つの国を対比することは、情報技術と社会の関係をより深く理解することにつながりますし、その中から文化を超えた人間と技術の向き合い方に対する知見が生まれることが期待されます。

国際連携の中では、本領域が主たるテーマとして掲げてきた「なじみ」など、人間と技術を対立的な関係ではなく、共生的な関係として考える日本的な考え方を英国側に提起していくことが、活発な議論につながるのではないかと期待しています。

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