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別紙1

平成30年度 新規研究開発課題の概要および選考結果総評

研究代表者
(所属機関・役職)
研究開発課題 対象とする主なデータベース 概要
有田 正規
(情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 教授)
物質循環を考慮したメタボロミクス情報基盤 MassBank (https://massbank.jp)

国内外の主要メタボロミクス拠点のスペクトルライブラリを集約し、集めた実測データ(一次データ)のみならず、それらを標準化したスペクトルライブラリ(二次データ)を提供する国際的資源としてのMassBankデータベースを構築する。それにより、化合物を同定するプロセスを標準化するための基盤を提供する。

また、生体サンプルを測定したデータの寄託先として機能する公共リポジトリを開始し、欧米の既存リポジトリ事業とメタデータ連携する。さらに、以上のメタボロミクス資源を他のオミクス研究とリンクするために、物質循環を考慮したメタ代謝を視覚化するマップも作成し、栄養学や環境学にも資する学際分野としてのメタボロミクスを確立する。

石濱 泰
(京都大学 大学院薬学研究科 教授)
プロテオームデータベースの機能深化と連携基盤強化 jPOST
(https://jpostdb.org)

国内外の種々のプロテオーム情報を標準化・統合・一元管理し、多彩な生物種・翻訳後修飾・絶対発現量も含めた横断的統合プロテオームデータベース jPOST(Japan ProteOme STandard Repository/Database)を開発する。

国際標準リポジトリおよび高精度のデータ標準化機能を深化させ、より幅広いプロテオームデータの受け皿となる機能を開発する。また、他のオミクスデータとの連携により、シグナル伝達ネットワークや代謝ネットワーク等へのマッピングを通じ、生体分子による細胞機能、生命機能の解明に直接結びつくような解析ツールを提供する。ゲノム変異情報を積極的に利用したプロテオゲノム解析や、腸内細菌叢等の多生物種が織りなすメタプロテオーム解析から算出するデータも扱うとともに、メタボロミクス、グライコミクス等についてもその情報を取り込みながら解析可能なツールを開発し、幅広く生命科学研究者に利活用されるデータベースを構築する。

<総評> 研究総括:長洲 毅志(元 エーザイ株式会社 プロダクトクリエーション本部 ポートフォリオ戦略・推進部 顧問)

ライフサイエンスの研究は、「データサイエンス化」の様相を呈しています。本プログラムを通じたデータベースの整備、統合化の取り組みは、ライフサイエンスそのものにとって不可欠と言っても過言ではありません。

本公募では、昨年度から引き続いて、生命科学分野のうち基盤的であって基礎・応用を問わず多方面の研究開発に影響をもたらしうる研究分野のデータを対象とするデータベースを募集しました。さらに新たな切り口として、具体的な応用に資するような目的指向性の高いデータベース、近年急進的に発展しつつある研究分野のデータを対象とするデータベースを合わせて募集しました。いずれもデータベースのデータ提供者、データ利用者との緊密な連携・協業が必須であることには変わりありません。

また、重点分野として、前者(基盤的)についてはプロテオーム、メタボローム分野を、後者(目的指向)については有用物質生産、育種を掲げました。こうした分野の設定は、2017年11月にワークショップ「NBDCで今後取り組むべきデータベース」において有識者と意見交換した結果を踏まえたものです。

本公募には11件の研究開発提案の応募があり、公募の趣旨を踏まえた、いずれも非常に興味深い多岐にわたる提案が集まりました。

提案の選考に当たっては、研究アドバイザー(別紙3)からの多面的な意見を踏まえ、書類選考、面接選考を経て、基盤的な研究データを対象として幅広い研究分野へ影響をもたらしうる2件の提案を採択しました。

2件のうち一方はメタボローム測定のための公共ライブラリを構築し、またメタボローム測定データや文献情報に基づき、多生物種間の物質代謝マップを構築しようとするものです。メタボロームは、1個体に留まらず、現実世界における複雑な物質循環を記述しうる学問であり、ホロゲノムなどの新しい生物学概念に欠かせません。もう一方は、プロテオーム測定データのリポジトリおよび再解析データベースの開発を目指すものです。プロテオーム分野は、その計測手法である質量分析技術を含め、日本の強みでもあります。採択した研究開発課題では、これらの研究データの収録、整理、公開を推進することとなります。これまでに採択された課題とも強く連携しながら、より多くの多様な研究者にとってより価値のあるデータベースが構築されることを期待しています。

生命科学では常に新たな計測技術が開発され、知見が増えれば増えるほど分からないことが増大する傾向が強く見られます。従って、データベースの研究開発においては、既存の研究データの集積、整理のさらなる効率化に向けた研究開発と並行して、未知なる分野に挑む必要があり、その規模は拡大こそすれ縮小することはありません。本公募でも多くの提案を受けました。なかには国際的にも時宜を得た提案、新たなデータベース技術をもたらしうる提案も含まれていましたが、限られた採択枠をめぐる非常に厳しい選考の結果、採択に至りませんでした。ワークショップ等でも寄せられた期待に対して充分には応えきれず、大変残念です。不採択となった研究開発提案についても、わが国のライフサイエンス研究の発展のために、是非あらゆる機会を捉えて進めていただきたいと思います。

以上